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暗黒竜の渇望  作者: らんた
第三部 暗黒竜の絶望
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第五章 第一節 クリンタ城

 カザンでジラント王が死闘を繰り広げている頃……。


 西アフガニスタン経由で攻めてきた解放軍が王都を奪還した。すでにファリドゥーンが解放戦線に勝利したので魔軍が少なかったのが幸いした。そこにはガーヴェの姿も囚われていたファリドゥーンの娘もいた。そして解放軍の中にビルマーヤの姿もあった。


 親子の再会――!


 言葉は必要なかった。ただただ抱きしめあった。二度と親子の生活などできるとは思っていなかったからだ。恩赦の話も聞いた。


 だが肝心のザッハーク王子と暗黒竜王が城のどこにもいない。


 「申し上げます! ザッハークと王妃らは近隣のクリンタ城に脱出しました」


 王都が陥落した今、マルダース王国は滅びた。千年振りに人間の城として戻ったのであった。ただし、ジラント王国の魔族らと一緒に奪還という奇妙な光景であったが。最初は魔を恐れていた 王都の人間らも次第に魔族らと親しくなった。カザンのような光景がここでも広がったのだ。

 魔の手から開放したのではない。人間の心を持った人々が開放したのである。しかし、クリンタ城にいる残党を集め、魔軍を組織すればいままでやってきたことは水の泡になる。それに捕えられた旧マルダース王国の魔族の感情も考え、次の王位継承権がある姫が女王となったほうが国は安定する。もう憎しみを繰り返す戦争などしたくなかった。


 そう、勇者と呼ばれし男として、そして暗殺者としての最後の使命を全うするときがきたのであった。


 姫を王国に連れ戻し、魔王を退治する最後の使命が――!


 王都で親子水入らずの食事をすませたあと、再び親子は別れた。


 最後の戦いに挑むために。そして軍隊は集った。


 「行くぞ! 最後の決戦へ!」


 勝どきが開放された城下町に響く。武器をならすものも大勢いた。


◆◆◆◆


 闇の霧と魔法陣に守られたクリンタ城に逃れた三頭の竜が二匹いた。ここから暗黒の洞窟に行く魔法陣も用意されているため、魔界からの砦をも意味する王子ダハーカの根城であった。しかし、王子ダハーカはもはやこの城の主導権を失っていた。ギリシャ遠征から帰って来たダハーカ軍とザッハーク軍がこの城に逃げ延びていた。


 「分かっておるのだろうな? 王子よ。この失態、我ら三人で始末せねばならぬ」


 「はっ」


 頭をたれる暗黒竜のダハーカ。


 「ザルチュ、タルウイ、アカ・マナフ、ドゥルジ・ナースは死に、残りの軍勢はインドラ、サルワの国に逃げ延びた、だと?」


 父の目は怒りに満ちていた。


 「ギリシャ侵攻?カザンを足がかり? 馬鹿者! 兵と国を失っただけではないか!」


 「申し訳ございませぬ」


 次に頭を垂れたのは竜王子の化身、ザッハーク。


 「勇者が来るのであろう。我々を始末しに」


 「はっ」


 「アエーシェマ!」


 「ここに」


 「大魔はもうお前しか事実上おらぬ。ならば最後の魔将としてこの城を守るのだ。我々は例の洞窟、『暗黒の種』に行く。そこが我々の『出発点』なのだからな」


 そう、天空戦争の敗北者だったアーリマンはそこにおとされたのであった。


 「決して魔法陣の部屋には入れるでないぞ」


 「はっ」


 「今日はもう遅い。明日の戦いの備えるのじゃ。ダハーカ軍とザッハーク軍の一部軍勢を貸し与える。そなたが指揮せよ。残りの軍勢は暗黒城に移す」


 「はっ」


 さすがのアエーシェマもこの時ばかりは真剣であった。


 「ただし、逃げようものなら、我々が真の姿となってお前であろうとも滅ぼすぞ」


 「はっ」


 振るえが止まらないアエーシェマ。


 やがて夜のとばりが下りる。この時ザッハーク王子はアエーシェマを呼び出した。


 「アエーシェマ、このようなときにすまない」


 「王子、なんでございましょう」


 かしこまった口調で王子に答える。もうそこには横柄なアエーシェマはいなかった。


 「お前は色欲の魔であろう。我の王妃に取り付いて我と姫を一夜過ごしてもらえないか。王妃は千年もの間我の両肩の蛇の世話した恩人なのだ」


 「お安い御用でございます。我も同じことを考えておりました」


 「そうか。ならば話が早いな」


 さっそくアエーシェマは軟禁なんきんされていた姫にとりつき、王子と一夜を過ごした。魔族の血筋が断たれぬようにした王子の判断であった。本体であるダハーカ王子にも交わりの波動が伝わる。ヴィシャップ以来人との感触であった。肩の蛇がザッサークの意識とは別にうごめく。魔と人との間に生まれた闇の子に復讐させるためである。


 次の日、姫は謁見室えっけんしつの奥にある部屋に残すこととした。命の危険にさらすという事だけは避けたかった。姫がザッハークの出陣を涙ながらに見送る。元はジャムジード王の后である。姫は少しであるが魔の血肉を入れた半魔として生きてきた。


 「アエーシェマ、頼むぞ」


 「はっ」


 闇に溶けていく親子の暗黒竜。ついで武器や物資などを持っている軍隊が魔法陣を使って移動する。


 貸し与えられた軍隊はたった五千人の魔と半魔であった。


 二万もの軍隊が洞窟に移動してしまった……。

 

 それから半時が経過した。


 (来る!)


 (巨大な光が……!)


 アエーシェマは振動を感じ取った。やがてクリンタ城に爆音が響き、魔法陣が次々破壊されていく。


 なんと目にしたのは赤と黒の首輪をはめた魔族や半魔の軍隊、そして見たこともない武器で遠方から城を破壊していく人間であった。見た目は四倍以上の兵隊数であった。敵軍と間違えられないように、ジラント王国軍の魔族には首輪をはめていた。


(これまでか……。やはり我は捨て駒だったのか……)


 さすがにまずいと思ったのか下々には篭城を命じた。乗獣の黒竜といっしょに城に戻ると、魔力を高めるためと言い、一人で城の密室で闇に魔法陣を作るアエーシェマ。


 城に逃げ遅れたアエーシェマ軍は次々撃破されていった。


 ダハーカが座っていた玉座に座っていた。玉座の横には竜も一緒だ。


(相打ちができるか?虐殺王の名にかけても勇者は殺す。そうしないとどの道我の命は……)


 城全体が震えた。城の壁がいとも簡単に壊されてしまう。


 空からは竜同士で応戦していたが数にはかなわずアエーシェマ軍の竜は撃退されていく。さらに内側から城門扉を開けられる始末であった。次々アエーシェマ軍が城内で謁見室を除き撃破していく。


 そして謁見室えっけんしつの前にファリドゥーンはいた。


 「あとは私の仕事だ。大魔がいる。こればかりは私しか倒せぬ……」


 いくつもの魔法陣によって封じた扉が勇者によって崩れ落ちる。


 遊軍を残し、謁見室に入って行くファリドゥーンの先には醜悪な悪魔が竜に乗っている姿が見えた。

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