第四章 第一節 王都侵攻
<一方……カザンでは……>
総理となったマオが緊急避難のために王都から続々民間人である魔、半魔、人間達を城下町から避難させていた。避難が終わるといよいよトルクメニスタンとも呼ばれる西アフガニスタン国へ向かう。ここは魔と人間が共存しながらもゾロアスター教を国教としている珍しい国である。西アフガニスタン国から決死の反撃に出るためである。そこには緊急で恩赦を受けたビルマーヤの姿があった。
避難したあとには軍隊と王だけが残された。
カザンはまもなく魔族と半魔が同じ魔族と半魔と戦う場となっていた。
◆◆◆◆
ぶつかりあう巨大呪文。飛び散る肉片。
「魔導師部隊!」
将兵が号令を出す。
人と魔族の混成部隊であるジラント王国軍魔導師部隊がいっせいに杖を取り出す。
「発射!!」
将校の号令とともにいっせいに雷が敵に放たれる。
次々放たれていく雷に貫かれるマルダース王国軍兵士。
「見たか!」
将校が吼えた。将校も魔族であった。獅子の顔に蝙蝠の翼を持ち、指揮用の剣を持っていた。
もはやここは人間界ではなかった。魔界である。
夕闇が迫り、両軍の攻撃は一旦止んだ。
互いの負傷者が増えていく中、城から補給物資が届く。ジラント王国軍は次々補給物資を使いながら人間や魔族を手当てしていく。
が、マルダース王国は違った。
次々腕輪がはめられていき、さらに墨を塗っていく。赤、黄色、黒の三色であった。
そして黒の色を塗られたものはすでに死んでいたか瀕死の魔族であった。
そして闇夜に悲鳴があがる。こうして魔の血肉を食うことによって己の軍隊を強くし、かつ食糧としているのであった。足りない食糧は魔族の利点である闇から闇に瞬時に移動できる能力を活かし、残った兵がマルダース王国から物資を瞬時に貰い受けた。
次の朝、ジラント王国軍側は絶句した。
緑だったはずの竜は青黒くなり翼も一回り大きい。
巨人の背丈は高く、鍵爪は巨大なものになっていた。
巨大な虎に翼が生えている。
人虎である半魔は目が三つになり槍のような鍵爪に変化していた。
攻撃魔法の威力も増していた。
次々撃破されていくジラント王国軍。そして敵軍をも食うことによってさらに進化を遂げていくマルダース王国軍。
城壁にあった空砲もマルダース王国空軍の竜に破壊されていく。
そして強固の魔法陣で守られていたカザンの城壁は……ついに壊れて行った。城内で破壊の限りを行なうマルダース王国軍。
両腕を切り落としながら、火炎魔法で嬲り殺し、踊りながら死んでいくジラント王国軍兵を見ながらあざ笑う。
略奪も始まった。
「いよいよじゃな。いよいよこの時がきたのじゃな。この醜き姿を見せるときが。そして祖先ヴィシャップ様のように死んでいくのじゃな」
言いながら入っていくのは王族しかはいる事が出来ない魔法陣の部屋。ここがジラント王自ら封印した力を解放する場である。ヴィシャップの故事にちなんで再建した場である。
「くくくく。できれば祖先ヴィシャップ様のようにせめて理知ある人間や半魔にわが身は滅ぼされたかったぞ」
いくつもの魔法陣を描くジラント王。そして魔法陣から出て行く赤黒き煙。禁断の魔術。
己の本性を目覚めさせるべくジラント王の体躯を改変させていく血肉。肩にはおおきな瘤が生じた。
肩から出て行こうとする蠢く力。
「出よ!伸びていくがよい!」
肩からは平和の象徴だった羊の頭部が生えた。もう片方には望みどおりヴィシャップ伝説通りの暗黒の蛇が生じた。
周りには暗黒の煙が。さらに己の肉体が大きくなり、とうとう城壁を破壊した。
咆哮が城内に響き渡る。それは美しい旋律の音色であった。
近衛兵ブルーノ将校が撤退命令を命ずる。この姿を見たものは生きてはいられぬと。もっとも知っているのはマオとブルーノだけであるが。
「撤退だ! 撤退するんだ!」
人間は魔法陣で、魔族と半魔は闇に消えて行った。
そして、暗黒竜とおびただしい魔の軍隊だけが残った。
「あれが国王、総司令官の首だ! 刎ねてしまえ!」




