第二章 第二節 巫女との出会い
ヴァルナ神殿の近くでファリドゥーンは白竜の姿から元の姿に戻る。他の人間らを驚かせないためだ。するとなんと人の姿だけでなく着ていた衣服をも戻っているではないか。竜の白い毛は己の衣服の一部であったのだ。神からさずかった魔力とはなんと凄いものなのであろうか!
ヴァルナ神殿には人々が少しであるが戻っていた。その少人数のなかにきらびやかな水色のローブを着た巫女がいた。見覚えのある顔だった。
「アカ・マナフ!」
ファリドゥーンがすかさず身構える。
だが巫女はうろたえることも戦おうともしない。ただじっとみつめているだけだ。
「待たれよ! 勇者! 巫女はもう『アカ・マナフ(悪意の意)』という名ではない」
神殿には巫女の後ろに黄金の竜の鎧に身をまとい、目には左は暗黒のような深き黒の目、右が水をたたえたおだやかな瞳をを持つ男がいた。ヴァルナ様だ。
「ファリドゥーンよ、今日からそなたを勇者と呼ばせて欲しい。よくぞ我の試練を乗り越えた。紹介しよう。この巫女はかつての『アカ・マナフ』にして今の名は『アシ・マナフ』だ。神の意思という意ぞ。我を監視し、同時に我に仕えることによってアカ・マナフ時代の悪行を償っているのだ」
「アシ・マナフ」
「そうです。今の私の名はアシ・マナフと申します。勇者様」
「おぞましき竜との戦いはつらかったでろう。私の魔法は役に立ったかね?」
「はい、ヴァルナ様」
「それはよかった」
ヴァルナ冷淡な瞳で淡々と感想を述べた。やはり凍てつく感覚を覚える。やはりヴァルナは裁きの神なのだ。
「ヴァルナ様。この剣をお返しいたします」
跪いて修羅剣と竜鱗剣を両手て渡すファリドゥーン。
「約束だ。そなたが持っている竜鱗剣を貸し与えよう」
竜鱗剣のみ再びファリドゥーンに手渡した。
(水色に光輝く剣。これが竜鱗剣)
「ヴァルナ様。ありがとうございます」
(これで国王にも父にもよろんでもらえる)
「次はいよいよ最後の『ミスラの杖』だ。もっとも杖の形をしているのは仮初めの姿であって、本当は剣であることはわかっているな?」
「はい」
「三つそろえば我々の真の姿をみせようぞ。その時、暗黒の魔王との戦いになる。これしきのごときで負けたら魔王には勝てぬ。暗黒の世になるであろう。」
「ヴァルナ様。感謝いたします」
そう言うと神殿を後にした。
神殿から離れて誰もいない森で再び白竜になるファリドゥーン。こんどはミスラ神殿跡地へ向かうのだ。
「よいのですか? 彼も竜の『器』となってヴァルナ様と共に魔王と戦うということを知らせなくて」
巫女が主に質問した。
「よいのだ。まだ彼には戦いが残っている。それに竜の器になるということは一時的とはいえ我らの生贄になるということ。だから私は彼を竜にしたのだぞ」
左の黒き眼を光らせながら冷酷の神が淡々と答えた。
蒼白き息を吐きながら。




