第一章 第一節 砂漠の解放軍
魔法使いがアジ・ダハーカの前に訪れる。
「ダハーカ様、我々を封印している石の正体が徐々に判明しました」
「ほう」
「その石には地中に向かって超重量の魔法がかかっています。この力でもって 『物の質量』、『物の長さ』、『時間の流れ』の全てが変っています。そのため封印されていない人間は我々の世界に入れず、そのまま消えるのは魔の力によって殺されるのではなく、別の空間に行くためです。我々が別の空間に、時間ごと封印されていのです」
「しかし、魔法が高度すぎて破壊は難しいです。もし、壊すとするならば『物の質量』、『物の長さ』、『時間の流れ』すべてを壊す必要があります。それは世界を壊すのと同等」
「早く解除方法を解明するのだ」
「はっ」
一方ジラント国王の閲覧室では……。
「国王、我々を封印する石の理由が分かってきました。その封印とは我々と魔の国ペルシャの二国を封印するものと思われます」
「ふむ、マオよ。我々が危険対象とされたのか」
「そのようです」
「封印石の西限は?」
「モスクワと思われます」
「南限は?」
「ペルシャの国境沿いになるかと。アルメニアなどです」
「東限は?」
「なんとウラル山脈沿いとカスピ海でございます」
「北限はなんと我々が住むカザン近郊でございます」
「暗黒竜の子孫に支配された暗黒の国としてわが国を封印した模様」
「やはりそ……うか」
「いろんな噂をこちらの世界に来る人間らに聞いております。主の事を一つは平和を説く竜、もう一つは魔術の主、最後は暗黒竜の子孫です。恐れというよりは畏れかと」
「人間らはわが国で買ったものを本来の世界で売っているのだろう」
「そうです」
「わが国と連邦関係を結んでおる人間の国もある」
「そうです。連邦国家もろともです」
「依存関係にありながら封印するとは……」
「して封印が破られた場合は?」
「おそらくは『魔王』として恐れられ人間に討伐されるものと」
「そうか、この醜き本来の姿を見せる日が来るのだな」
「主上、恐れながら……その力を使わないように、主権を放棄したのでは……」
「そうじゃ。だが、戒厳令下では我に主権が戻る」
「我もビルマーヤのように過ちを犯す日が来るのかもしれん」
「その力は冥土の力。暴走すれば魔族はともかく数十年人間は周辺の大地には住めません」
「わかっておる」
「冥土の煙や血肉は存在を闇にする、つまり無にするのと同じです。同時にその力は破壊の力にも応用できるもの。だから砂漠化や毒草に変えることが可能なのです。無や闇の命も多数体内で生まれます」
「わかっておる臨時総理マオよ」
この臨時総理という言葉を聞いたときにマオは凍りついた。
◆◆◆◆
一方カーグ藩王国に近い砂漠では……。
ザリチュとタルウィがそこにはいた。
「竜の鱗に電撃が走るような感覚がする」
タルウィが言う。
「我もだ」
「恐るべき禍々しきものが我々に近づいている」
「わかっておる」
「そこでなんだが……」
「万が一の時の事を考えてなのだが、今のうちに我々の子孫を残したい」
「そうか、やっとその気になったか。わがタルウィよ」
「二匹同時では危険だ。後方の遺跡を守るものから先に産ませよう」
「それが懸命だ」
神官はこの時男の交わりのよさと女の交わりのよさを同時に知った。復讐の子を生み出すために。神官は背徳の悦楽に酔いしれた。
暗黒竜をめぐる物語はいよいよ終結に向かって走り始める。
◆◆◆◆
二つの剣を下げた男が砂漠を歩く。一つは腰に。もうひつは使い物にならない石の剣を背中に……。
彼が過ぎ去ると肉片や血しぶきがあちこちに広がっていく。魔族らの死体であった。
特別な魔力を使わずとも竜鱗の剣の力によって増幅された剣の力が魔物を肉片と化す。修羅場であった。
修羅場は砂漠に広がっていた。まさに阿修羅族の神の加護を得た人間にふさわしい光景ともいえよう。
カラチからカーグ藩王国までの街道は魔族の死体で一杯となった。街道の街や村は次々と「人間の村や街へ」と戻って行った。白竜に化ければたいした距離ではないが、人々の解放のためにあえて地方を廻りながら魔軍と戦うことにした。
人間達が次々と手を貸してくれる。
特には軍勢も来た。だが。千名もの軍勢をも次々倒して行った。強大な魔法によって吹き飛ばすことも可能になった。竜の力と同等なのだ。魔族側にとっては竜と戦っているに等しい。魔の軍勢はすぐに消し飛んだ。
解放軍はカラチから封印外の地域から援助を受けることに成功した。解放軍の力は日々増して行った。地下水道から次々進軍する解放軍も生まれた。
かつてのアルトゥスやカーグの伝承はもはや神話と化していた。歴史的教訓を忘れ再び恐慌状態に陥る魔族。だが千年前とは決定的に違う点があった。光の剣の加護もないまま人間自ら、助力を得ているとはいえ人間は千年の支配を経て解放戦争に打って出たのであった。
そして到着した。そう、カーグ藩王国である。「闇の石棺」に封印されている修羅剣を解放するために。そこにはヴァルナが言うには闇の竜ザリチュがいるという。解放軍とはここで別れ、暗黒竜との戦いに挑む。
遠くから咆哮が聞こえる。
すでに瓦礫もほとんど残っておらず、『闇の石棺』が置かれている神殿以外は砂漠と化していた。竜が発する毒の息で植物はどこも見るも無残な毒草となっていた。もはや地上の魔界ともいってよい。中には人間を食う植物となったものもあった。
建物の前に、両腕、両足が長く伸びた神殿の前に現れたのは山羊のごとき角、長い顎鬚、コウモリの翼、ロバの蹄、を持つ黒き鱗と獣の毛が混じる竜であった。
「待ちわびたぞ」




