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暗黒竜の渇望  作者: らんた
第三部 暗黒竜の絶望
62/117

序章  ※

 ――大魔が闇の中で思案していた。


 元々ザリチュは冥界クル・ヌ・ギアの竜であった。罪なき者の骸を塵芥クル・ヌ・ギアへ戻し、罪ある魂は骸ごと地獄へ落とすのが彼の使命であった。だが生ける光の神は腐臭、絶望、狂気に満ちた冥界を嫌い、逃げ惑い、彼から遠ざかった。 それでも使命を全うすべきと帰すべき命を守護した。

 だが、彼の心は深く傷つき毎晩絶望に呻き、憤怒し、嘆く。

 やがて天空の阿修羅族に対し反乱を起こすものが現れた。反乱軍の指揮者は竜王アーリマンである。このときのアーリマンは創造と破壊の責任者でもあった。部下の懇願を受けて、インドの神々を援軍につけて勝負に挑んだ。結果は勝者も敗者もなく、阿修羅はインドの大地を追われ、アーリマンは暗黒の大地に堕天だてんした。ザリチュは魂の管理者という地位を奪われたあげくに大地クル・ヌ・ギアの最奥へ落とされた。

 嘆き悲しむ部下達。絶望のあまり死を選ぶ者も。そんな惨状を見てアーリマンは暗黒の大地でこう宣言した。


「闇こそ福音、闇こそ安らぎ!」


凛とした声。


「今我々は新たな領土を得た。それだけではない。見よ、闇へと溶けていくぞ」


 そう言うとアーリマンの体がゼリー状に溶けていく。闇は全てを奪うことはなかった。平和と心の平安と静寂が訪れた。


 さらに闇の王は満身創痍の大地の竜王が自らの鉤爪によって死を選ぼうとしているところを腕を抑ながら闇から現れ、甘美な声で耳元にこうささやいた。


「我はそなたを疎いはせぬ」


もう片方の腕も抑えた。


「死と滅亡と闇こそが人々の救いであり、絶望という病から救うものであることを私は知っている。 虚無こそが安らぎであり福音であることも。だからこそ我は暗黒の者として人に安らぎを与えるべくそう生きると誓った。 そなたをぜひとも救いたい。心の平安を与えようではないか」


 そう言うと、突然冥界よりも濃き霧が闇の王から吐き出されザリチュの体に入り込む……。


「ぐはっ!」


 ザリチュはうめあえぐ。ザリチュの体全体が闇の煙に包まれ、不意に吸い込みやがて気を失っていった……。


 存在の一部である闇の霧を通してアーリマンが見たもの……。それは全てを奪われ 闇に追われし巨竜の姿。 未来を捨て 希望を拒む追い詰められた巨竜の姿。 虚無のごとしなれど 生への慈愛を持つ巨竜の姿 にもかかわらず、命が罪を重ねるたび深い悲しみを持つ巨竜の姿。それが彼の姿――!


 大地の竜王はやがて気を取り戻した。 竜王に向かい、闇の王は答える。


 「貴方のために貴方の心へ潜り込んで分かったこと。それは我兄弟と貴方が同一の心を持ち苦しみも持つ者であること、そして私を含む闇の種族すべての存在を導く真の『暗黒の種』を広めなければならないという事を」


 その声は闇の呪文のよう。


  「そして我もその『暗黒の種』から生まれ出ぬ。 いずれそなたが『暗黒の種』になり我々闇の種族すべて結集させる力があることが分かる時が来る。そして我々と同一の存在たる闇と共に闇の種族でたる我々に栄光の世を創る」


 その声は安らぎの呪文のよう。


 「それがそなたの今の使命なのだ……さぁ種を飲むがよい」


 大地竜は虚ろな目をしていた。闇の霧を吸ってから暗黒こそが平安と安らぎと快感を覚えていた。

 闇の王は何も言わずに自分の体の肉を……暗黒の種を刳り貫き……冥王の手元に渡した。自我を失った大地竜は暗黒の種を……甘美な誘惑で飲み込んだ。


 飲み込んだとたん、塵芥まみれの冥界の風が突然ぴたりと止んだ。


 なんと突然ザリチュのに異変が起き……血肉が奔流する――! からだの痛みに耐えかね吼えると、前にのめりこんだ。

 その体がふくらみ立ち、震え、過去の己を打ち消すかのように姿を変えて行く! 己の肉が流れ、欣幸きんこうに満ちた音を立てる。骨が伸び、古き翼がもぎ取れ、さらに闇よりも黒き翼が血をからめながら新たに生えてくる。

 鮮やかな輝きを持つ土色の鱗が漆黒との鱗へと変化した。古き角が取れ、新たに漆黒のねじれた角が植物のごとく生えてくる。身体を流れる血液はより赤黒き液体へと変っていった……。


 (闇に食われていく……)


 しかし、ザリチュは闇に食われたいという衝動と歓喜と快感が伴っていた。血肉が溶けて流れるたびに体と心が犯されていくようなおぞましき快感を味わう。これこそ真に望んでいた姿であることを、すべて己の欲望の結晶を具現化していることを誰よりも知っていた。


 変化が終わると身を起こし、ゆらりと立ち上がった 。そこにはまごうことなく暗黒の者へとかわっていった。 眼窩がんかには血よりも濃き赤、は闇より深き黒にして腹の部分のみ血に飢えた深き赤の色。深き鉤爪。いびつに伸びた手足。足はロバのひずめと光沢を放つ鍵爪へと変化した。口腔には闇の毒霧を放つたびに快感をともなっていた。闇と同化したのであった。闇こそが自分の一部。


 やがて……すべてが落ち着きを取り戻しザリチュは竜王の言葉を聞く。


 「今日からそなたは闇の福音の伝道師となるのじゃ」


 その後アーリマンとザリチュは暗黒の大地で苦しむもの全てに闇の福音を与えた。『暗黒の種』らは仲間が壮絶な音を立て変貌しながら救われる様を見て歓喜の笑みを浮かべる。絶望の力が足りず肉体が四散したものはアーリマンとザリチュが糧とした。さらに集大成としてアーリマンは母であるジャヒーと『暗黒の種』らが見守る中で交わった。闇の中で希望の声と悦楽の声が響く。アーリマンとジャヒーはこの時それぞれ力を授かることで完全体となった。やがてジャヒーの体から生まれたのはジャヒーとアーリマンの子ダハーカであった。


◇◆◇◆


 『暗黒の種』となったザリチュはすべてに絶望し、光を拒むものに平安を与え続けた。特に同じ境遇だった魔女マーサに洞窟で出会ったときは歓喜と憎悪に打ち震えた。自分の姿と重ね合わせてしまったのかなぜか頬から涙が伝わっていたのであった。闇の姿に変わるものはザリチュと同じような変化を起こすのはある意味で当然なのである。


 この至福の闇を維持していくための侵略が吉と出るか、凶と出るか――。


 (かつて我は勇者カルティールに辛うじて勝ったが……重傷を負い完全体の身から標準体の身に落ちたこともある。あの躰を取り戻すのにどれだけの時間を費やしたか……。負けることなどあってはならないが仮に勝ったとしても二度と標準体には戻りたくないものだ)


 大魔が闇の中で思案していた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


どうですか?始原の悪にも変身描写!!


広告の下あたりにポイント評価欄があります!↓ ぜひ、評価を!!


※ゾロアスター教は近親婚こそ最高の善としたことをお伝えしましたがそれは闇の側でも同じということでもあるわけです。


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