第八章 第二節 さらなる覇権国家の道へ
ザッハークは宮廷の謁見室の玉座に座っていた。
「新生ペルシャ帝国建設から千年、この国に攻めて来る国などおらぬ。まさに千年の繁栄よな。しかし、人間どもは我々魔の国をおびえ、わが国を封印した」
ザッハークは座ってる者を見渡す。
「その封印はジラント王国を含む。ご存知の通りあろうことが人間と仲良くしている魔族の国にしてダハーカ様の血を引く王国よ。そのジラント王国に逃れるべく人間族の難民がアララト山経由と黒海経由で逃げ延びているという」
謁見室に笑いが響く。
「しかし、この国もわが国に攻めて来る気配がない。だが難民の増加で人間牧場の数が減り、魔族に食糧難が訪れようとしている。これはわがペルシャ帝国に対する敵対行為とみなしてよいか、全大魔たちよ」
――異議なし!
謁見室に声が響き渡る。
「それでは魔族からなる魔術師を千五百名ほど用意せよ。ジラント王国を占領した次は我々を封印した憎き人間どもに恐怖を与えようぞ。千年かけて調べた魔術師達の報告によると、あの封印は時空のゆがみで構成されているとのこと。つまり時空間のゆがみを正せば破壊できる。そして黒海地域を占領せよ。人間の捕虜も忘れるな。小アジア地域もだ」
「王よ、そうなるとギリシャ側から人間が攻め込んできます。いくら我々が魔とはいえ、厳しい戦いになりますぞ。領土の広げすぎは命取りになる危険性もあります。内部分裂や内乱の危険性、他国の侵略の危険性も高まります」
サルワことシヴァ神が言う。
「もっともな意見だ。しかし、逆に言えば人間がいつでも封印を解き、わが国に攻めることが出来るという事。見過ごすわけにはゆかぬ。そこで道路網の整備によって広大な土地を管理しよう」
――おお
謁見室にどよめきが走る。
「これは単に国内の移動を容易にするためだけではない。攻撃の第一弾は原則空から行なえるようにするためだ。人間は空を飛べぬ」
「そこでダハーカ様、王の私から空軍を作ることを提案します」
「さすがは私の化身、竜族の望みをよく知っておる。空から人間の血肉を貪れるということだな」
「その通りです。竜王殿」
「竜王はそなたであろう、王よ」
皮肉をこめて言うアジ・ダハーカ
「いずれ我は地上のみならず天界をも君臨する竜となろう。ジラント王国制覇後は各地の神々をも攻撃する」
「ドゥルジ・ナースよ!」
「はっ!」
呼ばれたのは黒鉄の鎧を着た女騎士。
「そなたにジラント王国を攻める総大将を命ずる。死体も戦力として思う存分活かすがよいぞ、蝿の王よ」
「はっ」
暗黒竜達の野望が加速するのであった。この時、彼らに暗殺者が忍び寄っていることをこの時彼らはまだ知らない。
第二部 暗黒竜の野望 終 ――第三部へと続く




