第七章 第一節 大魔アカ・マナフとの出会い
「商人の者です。人間の爪を持ってまいりました」
「通行票もよし!よし、通れ」
アララト山の国境を抜けることが出来た。ここからは魔が支配するマルダース国。
彼、ファリドゥーンの使命はまず己の身分を裁きと水の神ヴァルナに問うことであった。そのヴァルナ神殿は事実上の敵国、ペルシャ大陸のマルダース王国の中にあった。己の存在が承認された後、ミスラの杖とアフラの剣を奪い、三つの神具を合わせ、暗黒竜アジ・ダハーカとその化身ザッハークを暗殺し、人間を解放することにあった。これによりジラント王国の脅威も消えるのである。そう、私の職業は暗殺者であったのだ。
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ヴァルナ神殿は祖国ジラント王国からは相当離れた距離にあった。一旦ユーフラテス川にそって南下し、一旦海へ行く。そこからさらに海路で東に向かうのだ。東にインダス川があり、ここが国境線ともなっていた。ここから先はインド諸王国の領土となる。その手前にヴァルナ神殿の総本山がある。河も海も船を使用したため時間はそれほどかからなかった。
とはいえマルダース王国の西端と東端と行くに等しい距離は体にも相当影響があった。船酔いにめまい。任務どころではなかった。身なりは人間であるため何度も襲われそうになった。だが匂いでわかるのか半魔であることがわかるため見逃してくれるシーンが何度もあった。人間は結界のため国境を越えることは出来ない。出来るのは結界のバリアを無効にする丸いタブレットを持っている人間のみだ。商人以外はこの国にはめったに近づかない。商人もなるべくはこの国には近寄らない。
なぜなら魔に襲われてもおかしくなかったからだ。行き来が盛んなのは皮肉にも最も山が険しいジラント王国との国境であった。そこには人間ではなく魔や半魔との行き来があり商売も盛んであった。途中で人間の爪を売る。けっこうな値段がついた。魔物にとっては珍味となるのだ。
もっともジラント王国の魔や半魔にとってはただのゴミでしかなかったが……。わざわざ人間の爪など食わなくても、人間が育てた上等の獣を食したほうがおいしいからだ。この国の魔や半魔は決して裕福でないことがわかる。
カラチという大きい街にやってきた。ここは人間も活気ずいている。いざとなったらインド側に海路で逃げることができるからであろう。結界も遠くの海までは及ばない。それを知ってかここに大きな商業都市が出来た。魔は武装兵と公務以外を除いて少ない。それも平身低頭だ。外国人との区別がつきにくいからだ。ここから東のタール砂漠という場所にヴァルナ神殿はある。ヴァルナ神殿を破壊できなかったのはインド人商人の要望であるのが表向きだが魔も人間も等しく裁くため容易に近づけなかったからだ。その代わりヴァルナの鉾はアカ・マナフが管理していて、アカ・マナフの音楽を聴くたびに信仰心が薄れていくため、今では近寄るものも少ないという。事実上大魔アカ・マナフの根城でもあった。
今では大魔の存在すら忘れられ、その城は廃墟であった。屋根も柱も崩れ去っていた。古代文明時代のレリーフが印象的であった。
左の一枚目の絵はヴァルナとおぼしき神が従うものには天の恵みを、従わないものには天罰を与えている絵であった。
左の二枚目の絵は天罰をおそれおののきながら禁忌である鬼を呼び出していた絵であった。
次に右に目をやってみる。
右の一枚目の絵はその鬼にヴァルナら4人の神が追放され、水没している絵であった。
右の二枚目の絵は鬼が新しい神として君臨し、人々に恵みを与える絵であった。
古代の絵師が作り上げた美しさに感動と恐怖を感じ、思わず独り言を発した。
「本当にここにヴァルナ神がいるのであろうか。それにこの絵の意味は一体? いったいなぜ追放されたのであろうか」
「教えてやろう」
突如天空から美しくも殺意を帯びた声が響く。
空から黒き羽を撒き散らし舞い降りた黒鳥がいた。雨が突然降り出す。額に2つ角を持つ魔が舞い降りてきた。
(――敵!!)
雫が滴る中、思わず剣を抜く。だが雨の中から聞こえるハープの音色は美しく、ファリドゥーンの戦意が徐々に喪失していく。
「わが名はダエーワの身であるアカ・マナフ」
アカ・マナフが奏でる音楽が神殿に響き渡る。
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