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暗黒竜の渇望  作者: らんた
第二部 暗黒竜の野望
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第六章 第一節 冷酷な事実

 ファリドゥーンは夢を見ていた。子ども達が我先にと給食の順番を争い、ベッドでは子ども達が今日も枕投げ合戦をやっていた。ファリドゥーンは一緒になって枕投げをしていた。

泥だらけになるまで遊んだ子ども達の服を脱がし、洗濯物置場に置く。年長者の仕事だ。ベッドでしりとりしながら笑っていた夜、農作業の合間にかけっこや鬼ごっこしていた日々。だが百まで数え終り樹木の後ろを振り向くと親友達が本当の吸血鬼となっていた。鬼役であるはずのファリドゥーンが逃げる。


 ――こないでえええ!!


 叫びながら逃げ回るファリドゥーン。しかし、吸血鬼に取り囲まれる。やがて親友のヤムに捕まってしまう。そして二本の牙がファリドゥーンの首筋に突き刺さる。樹木にこだまする絶叫。牙から流れ行く毒液。毒液を流し終えると飲み干す音が伝わっていく。ヤムが牙をゆっくり抜くと、ついで親友だったゴンが両手を水平にし、蠍の尾を黒い体液を撒き散らしながら現した。毒針でファリドゥーンの首を突き刺す。毒を出し切ったあと毒針を引き抜く。


 (闇が広がっていく。俺は死ぬのか……?)


 闇の沼に落ちていくファリドゥーン。だが水の中のはずなのに息は苦しくない。

沼の中で自分の顔全体に瘤が生じ、その瘤が溶けて流れ、牙が伸び、口が裂け、尾が尾骶骨びていこつから体液を撒き散らしながら生じる。


 ――僕たちとやっと一緒になったね


 そんな声が沼の中で聞こえてきた。


 ――やめろ、僕はそんな姿になりたくない。僕は、闇じゃない!


 だが、僕をさらに闇が飲み込んでいく。腹部から血をからめながら翼の先端が生じ背中に翼の根元が生まれた。咆哮を上げ、飛翔する。


 ――おめでとう、ファリドゥーン。


 そう言いながら魔物が闇の沼地に入り込んでいく。吸血鬼たちが壮絶な笑みを浮かべながらファリドゥーンを囲み、拍手をする。


 ――お前のせいでこのような姿になったのだからな。だけどこれでお前も仲間だ。おあいこだな。


 絶望からか、後悔か。魔物に変わり果てた友人の前で、そして深淵なる暗黒の中に魔物がたたずんだ。だが、深淵の中は闇であるはずなのに一筋の光が貫いていた。その光がファリドゥーンを掬い上げる。


 光の中に入っていく途中で再び肉が流れ、尾が尾てい骨の中に納まり、牙と顎が縮小し、元の姿に戻っていく。意識はそこでまた消えて行った。


 ――目をさましたぞ。


 ――おい、生きてるぞ。


 声が聞こえる。


 俺は目を覚ました。


◆◆◆◆


 「目を覚ましたか」

 

 そこにいるのはビルマーヤだった。


 ビルマーヤだけではなかった。なにか偉い兵隊もいた。


 「ここはどこ?」


 「カザン王宮の医務室だ」


 「なんでここに僕が……」


 「それは……」


 言葉を濁すビルマーヤ。だが、隣の兵隊が淡々と語る。


 「私はジラント国王近衛兵のマオと申します。貴方が死んでしまったためにビルマーヤが国王に助けを請い、受理されたのです」


 「他の子ども達は?」


 「残念ながら、死にました。秘密裏に侵略してきた魔物も撃退しましたが、生き残ったのは貴方とビルマーヤだけです」


 二人だけ。そんな……。


 「そして、貴方は今日から半魔として戸籍が変更となります」


 「どういうこと!? ビルマーヤ!」


 「すまぬ、これしかお前を救う方法がなかった……」


 父は顔を伏せた。


 「貴方はこの城に着く前に蠍人の毒で死んでいたのです。しかし、魔物の毒と幼少期に飲食された魔物が出した飲食物の波長があい、貴方は魔物となるところでした。そこでジラント国の法に則り、国難に会った人や救国の英雄に対しては、王が魔に変えることで救命できるので、貴方に処置を施しました」


 そしてマオは鋭い眼差しで父を睨んだ。


 「それでは、ビルマーヤ殿、貴方は人間を大量殺戮した件で投獄していただきます。裁判があるまではこの王宮の牢屋にいてください」


 「何だって!? ビルマーヤが大量殺戮!? 嘘だといってよ! ビルマーヤ!」


 「すまぬ、完全な魔とまで化してしまうとこうなってしまう、これが血の宿命だ。そして、この血がお前にも流れている。」


 「いやだあ――!!」


 絶叫し半狂乱となるファリドゥーン。


 「貴方もここで残っていただきます。いろいろと聞きたいことがあります。それに、今回の件で貴方にやっていただきたいことがあります」


 「嫌だ! 俺は人間じゃないか。皮膚だって普通の色だし」


 喚きちらしながらぶつぶつ一人言を言う。


 「それに闇に生きる薄汚い連中とは違う!」


 それを聞いて青くなったマオが思わずひっぱたく。鼻から出てきた血は紛れもなく、黒。


 「それがなによりの証拠です。貴方は身なりこそ人間ですが、正真正銘の半魔です」


 ――半魔の証拠

 

 「人間だから、魔物だから、ハーフだから。そんな血の出自など関係ありません。貴方は今種族差別を公の場で行ないました。この子も牢獄に連れて行きなさい」


 「そんな、行きたくない、こんな俺なんて生きていたくない!」


 悲痛の叫びが城内に響いた。医務室から衛兵に連行されるファリドゥーン。


 牢の扉が閉まった。鍵がかけられる音が地下牢に響く。収監されたのだ。


 扉を叩く音を無視してマオは地下牢を後にした。



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