第五章 第一節 親子での農村生活
北方の大地、ここに遊牧民が馬とテントをもって駆け巡る。その中には牛人もいれば蝙蝠の翼を持つ魔人もいた。そんな広大な大地の中、木で作った剣技の練習をしている者が二人いた。一人は牛の角を持つ魔。もう一人はまだ十になったばかりと思える外見の子であった。しかし、ここは遊牧地ではない。農地であった。その農地で人も魔も土を耕していたのだった。
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草原に軽い音が響く。剣が何度もはじかれる。
「なっとなん! これでも十分の一にまで力を落としているつもりだが。衛視がこんな腕前でどうする!」
父は厳しかった。
「まず、かまえはこうだ。手を握る位置は短すぎず、長すぎず、こうだ。何度も言っただろうに」
農作業を終えたあとの昼下ががりの日課。俺の名はファリドゥーン。一四歳。難民キャンプ向けに出荷する農作物の手伝いをしている。父親はビルマーヤ。牛の魔人だ。この国は魔族と半魔族と人間が暮らす国だ。国といっても遊牧活動している遊牧民と首都で商業を営む人と、農民の三種類にわけられる。国教はゾロアスター教と自然の精霊を信じるダイモン教と呼ばれる二宗教が主なものだと父から教わった。だけど父はなぜか魔族なのにゾロアスター教を信じている。そんな魔族もけっこういるんだとか。なんでも本来魔族は文字や絵画、彫刻、音楽といったものを持たなかったので、人間がもっているこれらのものを修得しようしたらしい。一部の魔族はとうとう人間の信じている、本来ならば天敵であるはずの神々まで信仰するものが現れた。父はそんな変わり者の一人だ。
一応王国だが、ジラント王は一切政治に手を出さない。人間も魔も半魔も全部住民登録票なるものを持っている人が選挙して、当選した人が会議を開いて政治をしている。だから魔とか人間とかそんなものは関係ないんだと。喧嘩したら人間が負けちゃうけど、この国では人間に対する虐待は死刑なんだ。だから種別とか民族とか一切関係ない。僕はちなみに住民登録票をもらうのに後……一年もかかるんだって。その日はお祭りでもあるのに、残念だよなー。
俺は父からこうして将来農場の警備に当るために剣の練習をしている。といっても本当の父親じゃない。俺は暗黒の国ペルシャから人間農場と呼ばれる場所から父に救い出された人だ。でも赤ん坊だったのでよく覚えていない。だから本当かどうか、魔族とか人間とかなんてどうでもいい。国民の、命ある者の1人として生きる権利をもっている。
「帰るぞ」
父が言った。
難民キャンプは「戦場」だった。子ども達が我先にと給食の順番を争う。ベッドでは子ども達が今日も枕投げ合戦をやっていた。
泥だらけになるまで遊んだ子ども達の服を脱がし、洗濯するだけでも大変だった。
子ども達は農作業と文字と宗教を教えることになっている。十五歳になると卒業し、開拓地で農業を始めることになっている。難民キャンプ卒業時に王からの借用書をもらう。難民キャンプの生活代は「借金」なのだ。この借金を支払うべく、農業に従事するのだ。僕もそうだと思っていた。あのときまでは――!
毎日が楽しい戦場であった。だが、こんな戦場生活も長くは続かなかった。本物の戦場がやってきたからだ。
魔は闇から闇へ瞬時に移動できる。逃れの民に対しても人間狩りの手を緩めることは無かった。ジラント王に対する侵略行為であったので秘密裏に行う必要があった。
特殊部隊の身なりは特にいびつであった。人間の頭に蜘蛛の手足を持った獣、蛇人、吸血鬼、触手を多数持つ肉の塊に人の顔……などであった。それらのおぞましき体躯に黒き服をまとっていた。
一人、一人、子どもを刺し殺す。中には吸血してそのまま魔に変える者もいた。触手が人間の血肉を吸う。やがて鐘が鳴り襲撃の知らせがキャンプ中に広がった。だが鐘をならした少年は触手につかまり、そのまま吸血され絶命した。鐘は鳴り止んだ。




