第五章 第二節 少年の死 ※
少年兵が次々倒れていく。ビルマーヤが戦闘態勢となった。体躯はすぎさま三倍の大きさとなり、衣服がはじけ飛ぶ。靴は粉々になり、怪しい暗黒の光沢を持った鍵爪が伸びていく。自慢の豪腕がその豪腕にふさわしい巨大斧で暗殺者をなぎ倒す。だが、いかんせん数が多すぎる。ビルマーヤに襲いかかる暗殺者達。豪腕の腕に次々傷が出来る。その傷から流れ行くのは黒き血。魔の血を引いた証拠。
「その血を引いたもののくせに人間と仲良くとは裏切り者のよう。なあ、元人間のビルマーヤ」
全身黒毛で覆われた吸血鬼がからかうようにして笑う。
「死ぬ間際にジラント王がお前を魔にして、お前は新たな生を受けたのだろう。人間を助けた見返りにな」
「言うな! それ以上言うな!」
斧が空中を切る。吸血鬼が翼をうまく使いながら後転する。
「おっと、元人間どもが俺の仲間になったようだぜ……きゃははは!」
見ると死んだはずの少年兵が生き返っている!! 胸や腹に穴を開けたまま。首筋には二本の牙の痕。
「お前も噛まれれば俺達の仲間だぜ。ききゃはは」
うめき声を上げながらずるずると蠢く少年兵たち。
(――許せ!!)
そういうと斧でなぎ倒す。少年達が黒き血を撒き散らしながら半分に分かれていく。
「そう。それこそが魔である証拠。人間の命など軽きものとしか見ていない」
「そしてお前の大事な宝物を部下が見つけたようだぞ。」
連れてこられたのは少年ファリドゥーンであった。
「殺れ」
そう言うと蜘蛛の手足を持った獣は先端が毒針となっている尾でもって少年の首筋に突き刺した。
「この子は数時間後には毒が廻って死ぬ。きゃははは。」
(刺したところで死なないがな。馬鹿が)
「貴様ああああ――!」
ビルマーヤの力が爆発したかと思うと背中から僧帽筋が血しぶきを撒き散らしながら飛び出す。それは暗黒の者にふさわしい一対の黒き翼と化し、体躯はさらに巨大となり、膨らみながら闇よりも黒き剛毛が全身を覆う。手足や背骨は膨張する肉の中で回り、骨音を鳴らしながら伸びていく。蟀谷から出ている角とは別に額から二本の角がさらに伸び、額から黒き血を垂らしながら天を突く。手の鍵爪が黒く鋭利に伸びていく。足の蹄が割れて鍵爪に変化しながら鍵爪が伸びていく。眼球は紅き瞳を灯しながら巨大化する。耳は黒き肉塊によって体内に吸い込まれていく。代わりに、頭上から肉食獣のごとき耳がゆっくり生えてくる。口は横に割れて奥がくっと上を向く。牙が伸びた。牛の尾が心臓の鼓動にあわせながら巨大化した。もはや牛人の時の面影など完全になくなっていた。
この姿こそが暗黒の血が流れる己の本性であり、血肉に飢え、敵を弄ぶに歓喜する姿。これがジラント王から授かったビルマーヤの真の姿であった。怒りのときのみに生ずる己の本性。
吸血鬼を弄ぶかのようになぎ倒し、逃げていくものを翼でおいかけ炎で消滅させた。蜘蛛の手足を持った獣の腕を握りつぶし、暗黒の竜人を尾でなぎ倒し、鱗をはぎ落とすかのような形で爪を振り落とした。さらに竜人の腕をつかむと握りつぶした。肉の塊を食べるたびに翼は大きくなり、爪が伸び、さらに尾から剣山のごとき尾びれが生じた。先端はタールのごとき毒がしたたり落ちている。闇の者が闇の者を己のものとするときに生じる進化であった。
蠍人を見つけると何度も踏み潰し、さらに毒針のある尾で地面に何度も叩きのめす。大地には肉が飛び散った。
友軍である少年兵もジラント王国の魔族も半魔ら次々ビルマーヤの鍵爪の犠牲となっていく。犬人のわき腹にビルマーヤの毒針が刺さりやがて絶命する。
その後も虐殺は続いた。
深夜に欣悦の咆哮と断末魔が農場に響き渡る。
敵も味方もいなくなると消耗しきったビルマーヤは大地に倒れ、そのまま気を失った。
夜が明けた。気がつくと大地の上に横たわっていた。
ビルマーヤは自我を取り戻していた。普段の姿に戻っていたが衣服は無かった。そのときビルマーヤは己のおぞましき姿に戻ってしまったことにようやく気がついた。周りが廃墟となっていた。
少年兵や吸血鬼たちの肉片が農場一帯に転がっていた。
「うう……この血が流れていることをどれだけ呪ったことか!」
大地に向かって慟哭するビルマーヤ。大地に拳を何度も打ち続ける。
しかし泣いている場合ではなかった。息子ファリドゥーンの事であった。
ようやく見つけたときは、四肢を失った獣人がファリドゥーンを守るかのように上に寝ていた。なんと敵がかばっていたのであった。どうもファリドゥーンを拘束する指令があったのかよほど大事に抱えていた。
ファリドゥーンを抱えたところ、すでにファリドゥーンの唇はすでに紫となっており、全身の皮膚には紫と黒の斑点が広がっていた。
毒が廻っているのであった。助からない。もし助かるとすれば、この子を魔にしなければならない。
ビルマーヤは遺体から服をはぎ取り裸の状態を脱した。息子を担いで数時間も歩き、ようやく見つけた農家を尋ねた。農家は魔法の馬を貸し出すことを拒んだが、有無を言わせず強奪した。
「許せ」
そういうと都に向かって馬を走らせた。だが、都へは魔法の馬をもってしても数日は掛かる距離であった。
草原に農家の罵声が響き渡る。
もちろん窃盗は官職を失うほどの行為であったがそんなことは気にしてられなかった。
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