第一章 第二節 欺瞞
新しきタルウィは眠ったままのザッハーク王子を背に乗せ、翼をはためかせた。そして朝日が差し込むイラン高原を背にし、ザリチュとともにマルダースを再び目指した。
たった二匹と一人で死の国を攻め入るのである。
壮大なる計画であり、同時に絶望であった。しかし、闇の者にとって絶望は己の糧でもあった。恐怖ではなく、破壊と絶望と破滅の宴への衝動への欲望が全身を迸る。
「それでは茶番を行なうとするか。とりあえず偽物のカーグ王の王剣を王子が眠っている間に握り締めておくか」
言うやいなやザリチュは再びマルダース王国に向かって羽撃いて行った。
王子が目覚めたのは二時間後。すでに砂漠の日差しが鋭い時間であった。
「神官、俺は今日悪い夢を見た……」
「そうですか。王子、大丈夫ですか?」
しかし、王子は無言で悟った。背中の痣があることを。
(あれは夢ではない?)
だが、王子には今は黙っていることにした。
その後、マルダース王国首都は竜の攻撃を受け、半壊したのであった。竜はその気になればやろうと思えば殲滅出来たが、あえてそれは行わなかった。こうして半壊した首都に王子は再び戻り、宮廷に戻りこう宣言した。
「我はマルダース王国の王なり! 闇を殲滅したカーグ王の王剣を見よ、竜よ去るのだ」
その姿は、夕日を遮りまるで闇そのものが形を持つかのように恐ろしくも美しい。竜の体からは闇色の陽炎がじわりと上がっていた。そしてなぜか竜はザッハーク王子に慈愛の眼差しを向け踵を返し空へと飛び立つ。
沸き返る宮廷。国民や戦士達は強大な竜に勝利したことに喜びをかみしめていた。
しかし、この時が暗黒の者による暗黒の「救い」が始まった瞬間であった。




