序章
ペルシャのある王国――アラビア方面の王国と急遽合併した王国で騒乱が起きた。合併派でかつ院政を敷いた神官が原因であった。王や王子をも手玉にとっていた実質の最高責任者であったミスラ神官が原因であった。国々のものはこう呼んでいた。ダエーワの化身、「ダエーワ・マグス」(邪悪な僧侶)と。
その神官も反合併派の暗殺の対象となり、追われる身となった。王位を継ぐのは第二王子とし、暗殺に暗殺を続けた神官は、逆賊として今度は暗殺される側となった。宮廷から王子とともに離れ、馬で逃げるも暗殺者からの追っ手が次々襲い掛かってくる。森の影から突如襲ってきた全身黒ずくめの暗殺者を刀で切り裂く。そこには傷だらけの満身創痍の姿だったマルダース国の王子がいた。
そばには国境でもある大河ユーフラテスが闇の中でときおり輝きながら雄大に流れていた。ここを超えれば死の国ジャムジード王国である。
◆◆◆◆
「王子、まっていてください。今手当てを。」
(神官、お前は俺から全てを奪い去った。貴様のせいだ。いずれ殺してやる!)
元王子はこのときそう心に誓ったのであった。
下克上の世であった。いつ攻め込まれるか、お家騒動がおきるか、異端審問で神官が暗殺されるといったことは全くの日常の世であった。もはやアフラの正義の教えは人々の心の中にはほとんどなかったといってよい。
城の屋上での出来事であった。
王子から目を離している隙に、突然巨大な鳥にむんずとつかまれた。いや、違う。竜であった。その姿は直立したドラゴンともグリフォンともとれる悪魔の姿があった。二本の角と長い顎鬚をはやし、コウモリの翼、足にはロバの蹄。黒き鱗と獣の毛が混じる体躯。
さらに近くにいた王子をも一方の手で捕まえる。
「お前が本物の闇の心の持ち主、パルヴィーズ。通称『ダエーワ・マグス』だな。お前にはその名にふさわしき闇の処罰が待っている」
(これで友が復活できる――!)
「くっくっくっくっくっくっくっ」
暗黒の竜は、手に人をつかみながらペルシャの山へと目指した。暗黒竜たちの逆襲と絶望の物語が再び始まったのだ。




