第九章 第二節 発覚
季節が夏になるころ、一行は人間が言う「カザン」という場所にたどり着いた。
ここが「母が行きなさい」と言ってくれた場所……? 何もないじゃないか。アジ・ラーフラは愕然とした。そこは小さな村が遠くに見え、あとは深き森が漠然とどこまでも広がっていただけであった。
生き延びるためにアジ・ラーフラたちはカザン近郊で農家にいたずらをした。
近所の森に穴を堀り、そこををねぐらとした。そこから農作物を盗み、代わりに盗んだ貴金属を農家に置いたり、お詫びとして農作業を夜に手伝ったりした。
農家たちはやがて妖精のしわざととらえるようになった。
農家もテーブルの上にそっとパンなどを置いたりした。
やがて農民らはホブゴブリンと呼ぶことにした。「幸福を呼ぶ鬼」という意味であった。
やがて冬がやってきた。それは凍土であった。しかし冬が来てもかれらは凍死することはなかった。彼らが恵んでくれる食糧と牧場で殺した羊の皮と羽毛で凌いだのだ。
アジ・ラーフラは下半身を特に気にしてが暖かい毛布が凍死を凌いだのだ。猫人ルネも同じで凍土では死んでしまう。防寒対策は重要だった。ルネが簡単な火の玉の呪文が使えたことも重要だった。暖を取ることが出来たのだ。たしかに凍土なら黄金の大蛇は攻めてくることが出来ない……。
だが、ある日の夜、農家の備蓄肉を盗もうとした時とうとう農民に見つかってしまった。イトバラクとレノンが魚の網をかぶせられ身動きできなくなる。とうとう捕まった。農民はその姿を見て唖然とした。
「魔だ! 妖精なんかじゃない。こいつらは半魔だ!」
彼らはイトバラクとレノンを縛り上げ農家の広場に集まった。完全防寒した農民に囲まれた。
「南方で魔の侵略があったと聞いたが、こいつらはそのスパイに違いない」
「そうだ。今のうちに死刑にすべきだ」
「待て! こいつら二匹のはずがない。もっといるはずだ! 盗まれた食料の数が半端じゃない。もっと倍以上いるはずだ」
「ならば半死の状態にして、その後に仲間に案内するのはどうだ?」
「それはいい案だ」
「この会話の内容のどっちが魔だ。俺たちの住む魔都はもう滅びた。人間よ! 俺たちに居場所をくれ!」
「信用できるものか。まずは頭が牛の子からだ。見るからに悪魔そうじゃないか」
レノンに次々と剣の傷や鞭の傷が生まれる。悲鳴が深き森に響いた。
「今日はみんな遅いね」
織物をしているアジ・ラーフラが言う。
「何も無いといいのだけど」
ルネが食事の支度をしながら言った。
「今日も野菜鍋か。まあ、暖かくていいけどね」
(何もないのかなあ)
たわいもないことで笑いあう二人。
暖かい会話がそこにはあった。だが、今日彼らは戻らない。




