第九章 第一節 半魔
狼人、狐人、猫人、牛人、蛇人……さまざまな幼き武装兵は人間の里を避けながら北へ向かっていた。そのリーダーにわずか四歳の上半身人間、下半身が黒の蛇である半人半蛇の男の子がいた。袋を持ち、大事な石版をそこにしまっていた。
「滅んじゃったね。僕らの故郷」
狼人イトバラクが答える。八歳だ。
「女王は決死の戦いで死んでいったんだ」
狐人リンダが厳しい表情で言う。女の子で7歳。
「自分の事しか考えない魔は故郷に帰っちゃったけどね~」
猫人ルネが茶々を入れる。同じく七歳の女の子
「なあ、西南には牛人が集うミノスという場所があるぜ? なんておいら達は北に行くの?」
疲れる表情で答えたのは六歳の牛人レノン。
「本当に人と平和に過ごせるのかな……僕は……僕は……憎いという言葉以外……」
アジ・ラーフラが答えた。
「わかんないよ……」
イトバラクが答えた。
名目上のリーダーは石版を持つアジ・ラーフラだが、実質上のリーダーはイトバラクだった。狼の牙と爪を活かして、人間が飼っていた夜の牧場にいる子羊などを襲って食べて飢えを凌ぐのがやっとだった。毛皮はアジ・ラーフラの毛布などにも使われた。
草原では騎馬隊に見つからないようにゆっくり歩き、騎馬隊が近づいたら地にふせた。
幸い半魔でも魔法は使えることが出来た。
といっても荷車に魔法をかけてゆっくり動き出すというものだが……。いざとなったら荷車を置いて逃げた。彼らの嗅覚は人間の数百倍、視覚は数倍あったから容易だった。
一年目の冬は黒き海を経由した。幸い、雪が降らない。だがそこには信じられない光景が広がっていた。
「見て! 騎馬隊が多数死んでるよ! それも丸こげだ!」
それは半魔達の目から見ても悲惨な光景であった。焦土の中に炭と化した人間達、病気で亡くなってそのまま腐っていく人。
魔にやられたのだ。
「ざまあみろ」
牛人レノンが吐き捨てるように言う。
「そんなことよりこいつらの武器とか奪おうぜ!」ルネが現実的な提案をする。
使えるものは持ち去ることにした。剣や鎧はすでに持っていたがとぎ石などの剣を維持する道具、焼け残ったテント、貴金属、篭手などである。
「お慈悲を」
なんと生きていたものが居た。だがもう助かりそうにもない。
「魔族の者たちよ……我に血肉を……お慈悲を」
指を刺したのはなんとアジ・ラーフラだった。
アジ・ラーフラに声が聞こえてくる。内なる声が。
――その者を魔族とするのだ
耳を塞いでいたにも関わらず聞こえて来る。
「大丈夫?」
リンダが声をかけるも返事がない。
アジ・ラーフラは己の下半身の血肉を抉り闇色の血肉を人間に埋め込ませる。
すると人間がうめきだし全身の血肉が蠢きながら黒色の皮膚になる。
が次の瞬間なんと人間の血肉が破裂した!! 心まで闇に染まっていない者に血肉を埋め込むと人間は耐えられないのだ。
「ふっふっふっふっ」
笑いながら四散した血肉を手でつかみ食べるアジ・ラーフラ。力がみなぎっていく。そして血だらけの手に大きな波動の球を産ませた。その波動の球を焦土の中に炭と化した人間達に次々投げ込んだ。爆音と共に唖然とする仲間たち。ある意味火葬であった。
――そやつは闇の者の一部となり赦しと慈悲を得た
この声をもって内なる声は聞こえてこなくった。四歳児には理解しえないはずの言葉と声が。
ふっと我に返るアジ・ラーフラ。
「あれっ? 僕は?」
そしてしばらくして周りの惨状を見て……さらに血で汚れた自分の手を見て頭を抱え込んで叫び声をあげた。周りは自分もああなることを覚悟した。そう、自分達も半分は魔の血が流れているからだ。




