第八章 第一節 暗黒への渇望 ※
アルボルズ山脈のはるか東の天空に城が聳え立っていた。天空人はそこを善見城と言う。かつてここは天帝アフラ神が支配していた。しかし、地下の暗黒世界に蠢く鬼神らが光の憧れから、天への侵略を行なった。正義の神阿修羅族を血祭りにあげ、陵辱し、さらに怒り狂う阿修羅を蹴散らし、ついに負けてしまったアフラ神とアフラ神についた神々は砂漠の大地に堕とされ、天から追放された。天空ですら暗黒の主に支配された世であった。支配した後、当初は天空から闇の者として支配し、破壊と恐怖を与えた。しかし地上の人間は憎悪ではなく、鬼である神々を畏怖し、尊敬し、愛した。鬼たちは愛と尊厳を初めて知ったが、戸惑いつつも恐怖と破壊を与え続けた。しかし、やがて鬼たちは支配下に置いた人間を傷つけることをためらった。心の中にある虚ろなものが、やがて満たされていくのを知ったからである。鬼は「愛」を初めて知ったのである。それ以来、鬼の神通力で恵みを与えるようになったのである。
そうはいっても元は鬼。破壊と絶望と惨酷を心の底から求めることに変りがなかった。本性が破壊と人の血肉を求めさせるのだった。そこで支配下に置いた大地ではなく、追放された大地の暗黒世界を支配する魔王アンラ・マンユと組み、表向きは配下となり、追放した神々のいるアフラ神とその地上の人間をもてあそぶことにしたのであった。
恐怖の天帝。天空の主の名をインドラという。
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半魔たちや魔たちの断末魔がこの天空にも聞こえる。そして元々人間だった魔の決死の声も……。
白きローブを纏い、艶かしい白き肌と銀の長髪、金の瞳を持つ者が玉座に座る。帝釈天であった。
「また光と正義の名の下に破壊と死が生まれたな。のう、広目天よ。彼は我ら鬼と何が違うだろうか」
「はっ。また阿修羅族の力を借りて闇を征伐したものと思われます。この目でしかと確かめてございます」
「おぬしはもともと千里眼を持つ鬼じゃからの……」
額に角を抱き、皮膚が緑色の広目天がそこにはいた。
「血がさわぐの。狩りに出るとするか……」
嬉しそうに呟いた後、怒号を響かせながら両拳に力を込める。その言葉と共に、インドラの事様が闇の者へ変わる。金の瞳は闇の瞳へ変わった。
真我を顕すべくその体から闇色の煙霧を生じさせる。妖霧は渦巻くようにしてインドラの躰へ集結する。妖霧は渦巻くようにしてインドラの体へ集結する。
集結した闇色の霧は……インドラの躰を包み、やがて甲冑として締め上げながら具現化していく。
その甲冑の表面には血管のごとき筋が浮かび上がった。惨烈な音と共に関節も外れ……躯体が音を鳴らし再組成しながら脈動する。銀の長髪が幡のように靡く。両指の手先の先端まで闇と私利に塗れるのをしっかり見届けた。
やがて脈動する甲冑とインドラ自身が同化を始める。白鬼は誇らしげに三日月の笑みを浮かべる。白磁を思わせる白鬼の顔も面頬となって覆われた。面頬は三日月の笑みを隠し……貌は無表情となった。
樹皮が割れるような音が走る。甲冑と一体化した面頬の額に、縦一文字の亀裂が走る。その亀裂が横にも広がると、醜悪と美を同時に湛えた眼が一つ現れた。
驕傲に満ち溢れた漆黒の角が、闇の兜の左右の割れ目をすり抜け赤き血を絡めながら生えてくる。更に面頬の下部の隙間が徐々に生じると四本の牙が次々と伸びるのが見える。すると甲冑の色がより漆黒に近くなった。面頬と顔の一体化を終えると貌は五体から響く音と共に尊大に満ちた三日月の笑みに変わった。その音は体の変化の終わりを示す音だ。
その姿は、暗黒の戦士。三つ目の鬼の一族。
真我を全て顕すと、インドラは右手で闇を掬いあげる。闇は我慾に満ちた右手に三叉矛を現した。
毒々しい闇色の三叉矛の石突を床に叩きつけ、鉛の声音で言葉を発する。
「……始めるとするか。阿修羅狩りを」
天界の支配者には似つかわしくない、苛虐に満ち溢れた笑みを浮かべて、インドラはそう言った。
「存分にお楽しみください。インドラ様」
その声掛けが、狩りの始まりの合図となる。
――よくみておれ。我々一族の誇らしき真の姿を!!
「充分お楽しみください。インドラ様」
「留守はたのんだぞ。夜叉王たる四天王達よ。それと天空城の主権代理は破壊神シヴァ……いや魔王サルワに委ねる」
「はっ」
「ギリメカラ!」
そういうと魔法陣を空に描き、闇の象を召喚する。象に乗るやいなや下界へ消えていった。三日月のような笑みを浮かべた広目天を残して。
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