第七章 第四節 希望の旅立ち
目が覚めたのは一週間後だった。遊牧民のテントの中だった。奇跡的に生き残った小隊の隊長がテントを作ったのだった。
「王よ、ご無事で」
「俺を王だなんて呼ぶな」
「いいえ、王です。今は焦土と化した大地ですが、我々は遊牧民です。新たな肥沃な大地があればそこに移住すればいいのです」
「俺は王になる資格なんてない。人間じゃないんだ……」
「お願いします、王になってください」
いや、できぬ……いつまた俺に刃が来るか……満身創痍の姿で答えた。
「いや、待て、こうしよう」
「赤の竜の旗を作ってくれ。そして私に従うことが出来るものだけ、西の肥沃な大地に移住しようではないか。一週間後、ここに決意を表明するものだけ来て欲しい」
「王……」
一週間後なんと大軍隊を失った直後にも関わらず騎馬隊が五〇〇人も集まった。
「行くぞ、肥沃の大地、永遠の浄土を求めて!」
鯉幟のような吹き通しの竜の旗がなびいた。
騎馬隊は西に行けば行くほど大きくなったという。
彼らの目指すべきは最果ての浄土の島。浄土にたどり着き、平和な大地で安息の日々を送るためである。もう、殺戮も争いも飢えに苦しむ世界も、魔も居ない世界へ。
希望の赤竜の旗がなびき、草原を駆け巡る。家族の命を奪った竜は討った。もう過去へのしがらみは何もない。アルトゥスはもう自由だ。
だが、彼らに待ち受けていたのはさらなる闇の逆襲であったことをこの時はまだ誰も知らない。そう……人間牧場を失った鬼族の逆襲が始まるのだ。
――ぐしゅる……くひゅう
闇の兜の割れ目から先端が割れた舌を出す。特徴的な舌の音だ。割れ目から見える皮膚は青色。角を頂く。暗黒戦士の正体は蒼鬼だ。暗黒戦士は騎馬民族を見て皮肉そうに笑みを浮かべる。
「お前たちは人間牧場に送る価値すらない」
なんと人間牧場は一つでは無かったのだ。というよりもヴィシャップが作った人間牧場は鬼族の援助のもとに作られたものだ。援助の見返りが肉の輸出である。
暗黒戦士は闇の渦を作って姿を消した。闇の側も希望の旅立ちが始まった。




