その後……
ゾロアスター教はその後結界を破りアラビア半島から出たイスラム教に駆逐されサーサーン朝ペルシャも滅びた。文明復興も中途のため高度文明も役に立たなかった。当初「剣か、貢納か、改宗か」の三択だったペルシャの民は貢納を選んでいたが非イスラムということとズィンミーと差別を受けたこともありほとんどの民がイスラムに改宗した。一方で東方に眼を向けると唐帝国では拝火教ことゾロアスター教に対する迫害が起きゾロアスター教は中国大陸から消滅した。これは単に光の神アフラ=マツダーとその光の使徒の消滅を意味するだけでなく、闇の者も消滅することを意味する。つまり魔と恐れる者が居なくなると魔も消滅するのである。
ロスタムはそこで逃れの民を守るべく暗黒戦士となって民を守った。
ズィンミーと差別を受けた彼らがたどり着いた先は光の神アフラ=マツダーを魔族アスラと罵るインド亜大陸であった。ここにゾロアスター教徒が住むことを許可するよう頼みこんだのである。願いは通じ、現在もゾロアスター教徒のかなりはインド・クジャラート州に住んでいる。
ロスタムは光の神も魔族も結果的に救うことになってしまった。
ロスタムは早速このことを封印されている闇の種に報告する。
「そうか……我の消滅は防いでくれたか。これで封印を破るときの楽しみが残ったというもの、ロスタム……いやクルサースパよ」
そう、真闇種子を倒すのは救世主クルサースパということになっている。その役目をロスタムが負い、茶番劇として真闇種子を倒すふりをして闇を存続させるのが使命なのだ。「クルサースパ」と名乗って……。
まさか光も闇も消えようとする事態が起きようとは……。
「今度はこのようなことが起きぬよう彼らを守り抜きます」
「有無、頼んだぞ」
その言葉を聞いた途端ロスタムは闇に溶けた。次にロスタムが現れたのは看視の塔の最上階。そして下界を見下しながら印を結び咒術を唱えた。
――闇の者は闇があれば暗黒の宇宙でさえも自由にどこへでも行ける
――闇の中にいれば喜怒哀楽も何もない
――それは全ての平和
――全ての安息も約束され、もはやそこには不幸はない
――魂は闇の世界では生きない
――死にもしない
――永遠に存在し、あり続ける
――空になれ!
――無こそ至高!
神咒を終え印を解くと闇種子の願いが塔の尖塔から波動と共にはるか極東の島まで広がって行った。すると世界中の三尸が次々消滅していった。まだ人間に寄生している三尸は消滅できないがこれを繰り返せばインドラが生み出した三尸はいずれ消える事であろう。ロスタムはインドラのような恐怖の力で支配する監視者ではない。あくまでも看視者なのだ。
ロスタムは今でもこの咒術を唱え光と闇の力のバランスを保ちながらゾロアスター教を守っている事であろう。「母」として……男として……新たな我が子と家庭とゾロアスター教を看守りながら。ゆえにここは「看視の塔」と呼ばれるのだ。
その時……息子が闇から現れた。
「師~! 終わった~?」
完全体である大魔は父でもあり母でもある。ロスタムは一見父に見えるがもう「父」とは呼ばれないのだ。
「ああ、終わったよ。――よ」
その名はかつての敵の名前にして天帝の座に就いた者の名。魔王に赦し……救われたロスタムは今度は息子の名をかつての敵を友の名と同一の名を付けたのであった。そして今度は共に天空を支配しようと……。光の者も闇の者も善人も中途半端な悪人も救うべく。そして救うべき最優先こそ中途半端な悪人という世にするために。
「師、あのね『天帝』の継承権を持つ指輪をもらったよ」
「えっ?」
息子は懐から取り出し箱の中身を見せてもらう。確かにその指輪は最下級とはいえ王位継承権のある刻印が掘られている。つまりインドラは正室にも側室にも属さない子孫を万が一「保険」のために残したのだ。しかしその保険は機能しなかった。
「天帝の座なんて要らないんだって。というか『君が天帝になるべきだ』って」
「その子の名前は?」
「――だよ。寂しいから僕が助けてあげたんだ。友達だよ」
初代インドラの目論見はこうして完全に潰えた。
<終>




