第四章 第三節 地獄に降り立つ勇者
地獄に降り立った。鬼たちが地獄に落ちたものどもを責めている……。かと思えば様子が違う。鬼も亡者もどんどん武器を渡されているではないか。
「いたぞ、暗黒竜だ!」
その声を聴くや否や震えながら立つ鬼や亡者に囲まれた。
「どけ!! お前らを殺すつもりはない。だが傷つけるものは……」
口腔に光の渦がたまっていく。それを吐き出した。
地獄内の洞窟に新たな空洞が生まれていった。
「やめろ!! お前らと戦いたくない。罪を償うのがお前らの使命のはずだ。それができぬというのであればお前らを消す!」
恐慌状態となる幽鬼らと獄卒。
「畏れなくていいから、閻魔がどこにいるかを案内してくれ!」
獄卒の長は投降状態のまま案内をした。
「裏切り者には死を」
暗黒物質の鎧を着た巨大な目から閃光がほとばしる。
「君たちは、私に殺されたいかね? それとも、暗黒竜と立ち向かうかね?」
その声は広目天であった。
「君のことはこの『目』でしっかり見させてもらったよ。人間に裏切られた気分はどうだい? 魔王の手先に落ちた気分は? そしてその姿を見て、だれがどう見ても魔王の手先にしか俺は見えんがね」
(こいつもか! 暗黒物質が埋め込まれている!)
「お前たちは俺が守る、だから武器を捨てろ!!」
鬼や亡者の前に立ちふさがったロスタム。
「そんなことがこれでも言えますかね」
目からまた巨大な閃光がほとばしる。
なんと己の鱗がとけていくではないか!!
「この光は天空から蓄えてきたもの。どうです? 暗黒の者には特に効きますよ?」
溶けていくのは暗黒の鱗のみだが、それでも斑のように広がっているので、自分の血肉までも溶けていく!!
「インドラ様を一度亡き者にした罪、ここ地獄で償うのです」
拳を握り締め、黄金剣を出した。剣の力を引き出した。暗黒色だった鱗が消え、黄金色の部分が際立っていく。
「そう来ると思ったよ。でも俺は暗黒戦士でもあるんだよね」
広目天の目から次に放たれたのはどす黒い閃光であった。
今度は黄金色の鱗がどんどん溶けていく!
「があぁぁ!」
咆哮を響かせ倒れると、後ろにいた獄卒と亡者も消えていく。
「どうです? 暗黒の者にも天空の者にも負けませんよ。だって私は天空を支配した四天王の一人なのですから」
(落武者が何を言ってるんだ?)
「では、後ろにいる亡者ごと死んでいただきましょうか?」
そう言ったとたん、大量の鬼や亡者に囲まれる。
「お前らなんか消し炭にしかならん」
閃光で周りの敵を消し去っていく広目天。
だが鬼の一人が同じ暗黒物質でできた鉾を巨大な目に突き刺す。
広目天の悲鳴が響き渡る。
「ふん、こんなものすぐに修復できるわ!」
しかし、その隙を見逃さなかった。
「今です! 我々ごと消し去ってください。もう今しかない!!」
その言葉に涙を流しながら光と闇が交る閃光を放った。
亡者も獄卒も消し去っていく。
そして、暗黒物質を纏っていた広目天の鎧も粉々に砕けた。
広目天は呻きながら立ち上がる。竜は巨大な剣を握り締めた。
「インドラがどうなったか知ってるな?」
そう言うやいなや広目天の胴体を二つに割った。




