鏡の裏にあった日記
とある家の遺品整理の仕事をしていた時、大きな鏡台の裏からノートがでてきた。本来なら見てはいけないものなのだが、私はノートをめくっていた。
○月☓日
何から書き出せばよいのだろうか。幸せか不幸せかは本人が感じるかどうかなので、誰かに決めてもらうものでもない。そして私は不幸だと感じる。とりあえず書いてみる。はきだしぐちにこの日記を書きはじめたのだから。
○月○日
気付けば怒鳴り声がやまない家だった。物心つく頃から両親は怒鳴っていた。なぜそんなに怒鳴って話すのか、私にわかるはずもない。この両親から産まれた私はただ、怒っている両親は怖い存在で、いつその矛先が自分にやってくるのかをビクビクしながら生きていた。耳元で聞こえる大きな声、これが夢だったらいいのに。私は想像力が乏しいのだと思う。だって、私の世界はとても狭い。
○月△日
人のあらさがしがすきな親だ。私がいいことを言っても否定される。悪いことを言っても否定される。どうしても否定したいらしい。ではなぜ私は生きているんだろう。なぜ。意味もなく考える。
○月□日
カッターで問題集を切り刻んだ。スッキリした。自分の手をきってすぐに絆創膏で傷口をふさいだ。血で服を汚れてしまうとまた怒られてしまう。この家では私は空気。存在をけす。ここに私はいるけれど、私はここにはいない。消えてしまいたい。
○月△日
ああ、またお金のことでもめている。お金がないとこんなにも人は醜い生き物になるのだろうか。いや、お金が問題ではないと思う。この息をしている人間の姿をした化け物。私もいつかこんな化け物になってしまうのだろうか。耳をふさいでも聞こえる怒鳴り声。この地獄のような密室空間にいつまでいないといけないのだろうか。そんなことばかり考える。学校は親がいないから楽しい。先生も友達も優しい。いろんな考えの人がいる。私はこの家から一刻も早くでたい。
○月☓日、この日記も最後のページになってしまった。書いてみたが、この日記はすぐに処分しないといけない。もし見つかったら私はどうなるのだろう。この日記と一緒に私も消えていなくなりたい。
ノートはここで終わっていた。この日記が処分されずに残っているということは、これを書いた人は消えてはいないのだろうと思った。ただ、この人が、幸せに暮らしていればいいなと思い、そっとノートを閉じた。
なんのおもしろみもないお話ですが、なろうラジオ大賞3に参加させていただきます。