2020 9/1(7)
少し長いです。よろしくお願いします。
扉を開けて入った先には、今日理科が登校する前に見た自分の部屋だ。脱ぎっぱなしのパジャマに散らばっているいくつかの本、普段弄っているパソコンが机の上に置かれている。
試しにパソコンの電源を入れて立ち上げる。普段自分が使っているパスワードを入力すると、入ることが出来た。
クローゼットを開けると、自分の服や下着が入れられていた。どうやら本当に自分の部屋のようだ。後ろを見ると入ってきた扉があった。試しにもう一度扉を開けてみるとさっきの真っ白い部屋に出てきた。自分の部屋とあそこの部屋は繋がっているみたいだ。
もう1つ扉がある。その扉は普段朝ごはんを食べるときに、学校から帰ってきたときに、夜ご飯を食べる時に、お風呂に行くとき帰るときに出入りするときに使う扉だった。試しにその扉を開けてみると、自分の知っている空間ではなかった。
観光地のホテルの中のように見える。足を踏み出して辺りを見渡すとエントランスのような広い空間になっていて椅子やソファー、小さな机が置かれていて壁に大きな円形の時計が置かれていて時刻は午前11時50分になっていた。椅子に他の人たちも座っている。大体3グループに分かれていた。
伊藤・緋色がスマホを見て何かを話している。
明坂・茅野・星名・椿が何かを話し合っている。
奈那子・楓・宮永が何かパンフレットのようなものを持って3人で見て話し合っている。
清水と瀬奈の姿がない。
誰に話しかけようかと思ったが、お腹から「グぅ~」と大きくなった音が聞こえた。9人が音のした方に振り向く。9人の視線は理科に向いていた。
理科(違います。私じゃないです。だからこっちを見ないでください)
理科は9人の視線を追うように自分の後ろを見る。そこにはさっき出てきた扉があって「12 朝倉理科」と書かれていた。扉を見て何が何か分からないという感じを出して首を傾げると、他の人は興味が失せたのか話し合いに戻っていった。
理科(…入りづらい)
ただでさえほとんどの人と初対面で話しかけづらい上に、自分の会話能力の低さがあり、更に音を出した本人だから入りづらい…。
理科(あれ? 清水さん姿がない)
試しにスマートフォンを取り出すと、個人チャットに清水さんからチャットが来ていた。
清水『理科ちゃん、私の部屋に来て』
清水『無視しないで』
清水『お願い返事をして』
清水『理科ちゃん。もしかして裏切るの?』
清水『返事をして』
理科「……こっわ」
一方的にチャットが来ていた。今もピコンと新しいチャットが来ていて全てこっちに来いと催促している内容だ。
エントランスの方を注意深く見てみると【ご自由にお取りください】と看板がある。看板の下には多分スーパーで売られている全てのお菓子が商品棚に置かれている。他の人を見てみると、明坂・茅野が何かスイーツを食べながら談笑していた。看板は一つだけでなく沢山置かれていて、その下にスイーツやおもちゃ、ぬいぐるみ、ボードゲーム、裁縫道具、楽器、機械、本、ゲームのハードとソフトなど一通りの娯楽が用意されていた。
試しにお菓子コーナーに寄ってみると、煎餅、チョコ、ガム、クッキー、ポテトチップス、ポッキーなど幅広いお菓子が置いてある。飲料コーナーにもコンビニに置かれているように棚に水、お茶、炭酸飲料、缶コーヒーなどある。
見ている間、ずぅっと通知が来ている。うるさいなと思いつつクッキーとポッキーを一箱手の取り、ミネラルウォーターを2つ取って清水の部屋に向かうと扉には「2 清水社巫女」と書かれている。
チャットで来たことを伝えるとガチャと扉が開いた。お菓子と飲み物を両手に持って入るとぬいぐるみが沢山ある部屋に入った。
犬・猫・ウサギ・熊・ペンギン・カメ・イルカ・ライオン・ゾウ・サメ・狐・コアラ・パンダと数えきれない種類に大小さまざまな大きさのぬいぐるみが置かれていて、少し気味が悪かった。
理科(…?)
ベッドの上には清水が内股で三角座りをして小さな熊のぬいぐるみを抱いている。顔は膝の上に置いてあるスマートフォンを見ていて、理科の顔を見ていない。
理科「あ…の…」
お菓子と飲み物を持ってくるのに遅れましたと言おうとしたら扉がガチャリと閉まり、鍵がかけられたような音が聞こえた。
入ってきた扉を開けようとドアノブを捻るが全く回せない。どうやら閉じ込められたようだ。
口じゃ会話にならないからチャットで話そうとアプリを開こうとすると
清水「こっちに来て」
とさっきまで伏せていた顔を上げて命令口調で言ってきた。
逆らってチャットみたいにずぅっと言われると自分の精神が危ないと思い、大人しく近づく。
清水「もっと」
もっととなるとベッドに座れと言っているようなものだが…
清水「ベッドに腰かけていいから」
ベッドに腰かける。
理科『お菓子と飲み物を持ってくるのに時間がかかりました。すいません』
清水「返事の1つくらいする余裕はあったでしょ」
若干睨みながら答えてくる。
理科『すいません』
清水「…。これ上げる」
そう言って渡してきたのは黒猫のぬいぐるみだった。受け取らないでいると
清水「貰ってほしい」
涙目でお願いしてきた。このまま受け取らないとまたうるさくなりそうだなと思い、素直に受け取る。黒猫の目がなぜか生きているようにこちらをジッと見ているような感じがするが気のせいだろうか…。
清水「お菓子と飲み物ありがとうね。一緒に話したいな。いいかな?」
理科は自分のスマホの画面を見せて答える。
理科『チャットでいいなら』
清水「ふふ、いいわよ。いつか口で話せるようになれるといいわね」
理科『そうですね、私もそうなれるようになりたいです。何を話しますか?』
清水「そうね…。他の10人何をしていたか分かる? というかあの10人と接点ある?
私は同じクラスの柊椿のことは知っているけど、話したことのないクラスメイトみたいなものでね…。理科ちゃんは伊藤ルキと同じクラスだったよね…。彼女のこと何か知っている?」
理科『他の10人はいくつかのグループになって何かを話していましたよ。内容まではわかりませんが…。10人と接点はないですね…。清水さんと同じで伊藤さんとは話をしたことがない…はずです。伊藤さんのことは何も知らないです』
清水「あらそうなの…。困ったわね…。こんな状況だしもう1人くらい味方が欲しいところね…」
理科『そういえば瀬奈来夏さんの姿を見ていませんね。他の10人じゃなくて9人でした』
清水「瀬奈来夏? あぁ…。あのファッション大好きの人ね。何度も教師に服装違反で注意されているみたいだけど…。話したことないのよね…。確か…異常なまでにお洒落に執着しているとかなんとか…。一緒にいるお洒落グループの人たちも時々彼女の執着が怖くなるとかなんとか…」
理科『知っているじゃないですか』
清水「これって知っていると言えるのかな…。直接話したことないから知っているとは言えないかな」
理科『そうなんですね…。私は保健室登校中心ですからクラスメイトとの交流はほとんどなくてどんな人かと聞かれても力になれそうにないです』
清水「保健室登校? 確か2年B組の星名さんも保健室登校だったような気がするけど」
理科『そうですね…。何度か見ていますけど、話したことはないです』
清水「そもそもなんで理科ちゃんは人と話すのが苦手なの?」
理科『…。わかりません。気が付いたら話せなかったとしか言えないです。家族とはスラスラ話せますけど、他の人と話すときは声がつっかえて…言わなきゃと思えば思うほど…言葉が出なくなってしまうという感じです…』
清水「でもさっき緋色さんとスラスラ話せていたよね?」
理科『あれは自分でも驚きました。一度も話したことが無いはずなのに、家族と話すときみたいにスラスラと言葉が出てきたので…。なんで話せたのか自分でもわかりません』
清水「聞いた後に驚いた顔をしていたのはそういうことね…。緋色さんだけこの現象を楽しそうにしていたね」
理科『そうですね…。正直怖いです。よくわからない力も使えるようになっていて…。あの時24個表示されていましたけど全部覚えることが出来なかったので不安です。攻撃系の力がいくつかあった気がします』
清水「能力ならチャットアプリの設定で見ることができるよ」
理科はチャットアプリの設定を開くとあの時書かれていた24個の能力が表示されていた。
理科『本当ですね。これで安心できます』
清水「使用者によっては安心できないけどね。特に緋色さんとか」
理科『はは、そうですね。安心できませんね』
清水「軽いわね~。そんなんじゃ最初に狙われるのも理科ちゃんかもね」
理科『え? あんなに泣きじゃくっていた清水さんが最初に狙われそうですけど?』
清水「忘れてよ…。私もあんなに自分が取り乱すと思わなかったし…」
そんなこんなでお菓子を食べながら会話をする2人。実際に話しているのは清水1人なので、清水が独り言をブツブツ話しているように見えてしまうだろう。
話しているとまた理科のお腹がグぅ~と鳴った。それを見た清水は口元に手を当ててクスクスとにやけて笑っているのを、彼女の肩をチョンと突き飛ばすとさらに笑っていた。
清水「そういえばもうお昼よね。何か食べに行きましょうか」
ベッドから立ち上がり身体をポキポキと鳴らしている。理科も続くように立ち上がる。
清水「結構話していたわね…。理科の腹の虫を聞いたら私もすごくお腹が空いていたのを思い出したわよ」
理科『忘れてくださいよ』
清水「クスクス…大丈夫、そのうち忘れると思うし…。あぁ、渡した黒猫は理科ちゃんの部屋にでも飾っておいてね」
理科は「なんで?」と思ったが、特に断る理由はないので清水の部屋から出て自分の部屋に入って貰った黒猫をパソコンの隣に置くことにした。
理科「これでよし」
直ぐに自分の部屋を出て、扉の前で待っている清水さんと合流をする。
清水「ほかの奴らどこに行ったのかしらね~。瀬奈さん以外誰も部屋にいないみたい」
理科『どこかに出かけているのでしょう多分』
清水「何その根拠のない推測。……実際シナリオって何か分からないものね。何かの事件が起きてそれを解決しろとかそういう感じかなと思っていたけど、もしかしたら殺し合いになるのかもしれないわね。そうじゃなかったらわざわざ攻撃系の力を入れるとは思えないけど…」
理科『こんなゲームを私達に仕掛けてくるくらいですし…しかも生存とかなんとかも書かれていたました。わざわざ生存がどうとか書かないと思うんですよ。もしかしたら私たちの中にこのシナリオを開発側の人がいるかもしれませんね』
清水「それは…否定できないというか…まだ始まったばかりでしょうし何も断定できないわね。ただ…攻撃系がある以上内乱になる可能性も十分にあるわね。今後も一緒に組んで協力していかない?」
理科『いいですよ。よろしくお願いします』
清水「こちらこそよろしくお願いします。私のことは社巫女でいいわよ」
理科『分かりました社巫女さん。そろそろご飯を食べに行きましょう。本格的にお腹が空いて倒れてしまいそう』
清水「そういえば冷蔵庫があるわね…何かあるかな」
冷蔵庫の方に向かい中を見る清水。中身を見て何かを呟いていると
清水「うん、これなら十分に作れそう。良かったらご飯を作るけど食べる?」
理科『何作るんです?』
清水「オムライスかな」
理科『分かりました。お願いします』
清水「ふふふ、任されました」
ニコッと笑って台所に食材を持っていき、手慣れた動きで調理を始める。
することのない理科は自分に何か出来ることはないかと考え、近くの棚を開けると食器やランチョンマット、箸・スプーン・フォークなどが入った引き出しを発見した。
2人分のランチョンマットをテーブルの上に置いて、その上にスプーンとグラスを置いていく。
理科(飲み物は…あそこから取ってくるか)
清水の部屋の行く前に寄った飲料コーナーに向かい新しいミネラルウォーターを数本取りに行ってテーブルの上に置く。
理科(あとできることは…待つくらいかな)
近くのテレビのスイッチを入れて適当にチャンネルを回して待っているとご飯が出来たと声がかかり、2人で楽しくご飯を食べた。家族以外と一緒に食べるのは本当に久しぶりだった。
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