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1 没落令嬢カトレア

 ハゲ神に飛ばされて、意識を取り戻してみればクラスメイトが六人。

 やったねこれでぼっちじゃないね、とはならない。元のクラスでぼっちだった人間が、異世界でクラスメイト与えられても変わらずぼっちだ。

 世界のことも知らない俺、マジ世界的ぼっち。


 他クラスにちょっと話すやつがいないでもなかったが、そいつはここにいない。


「これで揃ったか」


 先に意識を取り戻していた六人の中心で、腕組みした乾怜二が声を掛ける。クラスでも指揮を執ることが多く、この場でも全員から暗黙の承諾を得ていた。


「さっそくだが、魔王討伐に向けて各人の役割を確認したいと思う。七人合わせて『七聖者』らしいからな――俺は『斧の聖者』だ」


 堂々と宣言して、手に巨大な斧を出現させる。


 ――おおっ。

 なんかすごいな。

 さっきの空間で『剣神』スキルをもらったとき、俺もやったやつだ。召喚された人間には武器が決められてるってのも、なんというか、それっぽいぞ。

 ちょっとテンション上がってきたかもしれない。

 まあ、俺は家政夫なんだけどね!


 次に手を挙げたのは、須藤凜々花。気が強くサバサバした性格で、男友達も多いらしい。その中に俺は含まれていない。当然だね。


「ウチは『書の聖者』や。なにができるかは、まだわからん」

「わ、私は『杖の聖者』です……足を引っ張らないように、気をつけます」


 流れに乗り遅れないよう、おどおどしながら名乗りを上げたのは島村百花。眼鏡をかけていて物静か。いかにも魔女、といった雰囲気が既に出ている。


「あー、アタシは『弓の聖者』だわ。弓道部やってたからかな……?」


 手に持った弓と矢を苦笑いしながら見つめるのは、花岡澪。ゆるくパーマのかかった髪が特徴的な弓道部の主将。


「僕が『槍の聖者』……まあ、頑張るよ」

「『盾の聖者』だ」


 残り二人の男は乗り気ではないようで、面倒そうに言うと視線をこっちへ――つまり俺へ寄越してくる。

 というか、残ったから、全員のが集まる。

 黙っていると乾怜二が、


「なるほど。漆谷は『剣の聖者』か」

「や、俺は家政夫」


 みんなみたいになにかを出そうとしたが、なにもでてこなかった。

 せめてモップとかでてこいよ! 寂しいだろ!


「…………家政夫?」


 嘘だろうと言わんばかりに眉根を寄せる乾。ごめん、ほんとなんだって。

 だからこのまま俺のこと連れてっても、レベル1のスライムに当たって砕けるからね? なんだそのパワーワード。

 やめろよ、仲間とか言うの。置いてけないとか言うの。


「そんなはずないだろう、神は『七聖者』だと言っていたぞ」

「いや、……ほんまやわ」


 目を見開いてこっちを見ているのは、『書の聖者』こと須藤凜々花。

 なんだお前、俺のことがわかるのか。


「んにゃ、なんか『鑑定』っちゅースキルがあるねんけどな。じーっと見てみたら、みんなのことわかって……」

「それで、漆谷は家政夫だと」

「嘘はついとらん。偽装も、この短時間ではできへんやろ。する理由も見つからんし」

「むぅ……」


 腕組みをして渋い顔をする乾。


 ごめんななんか。

 そもそもこいつら、俺が神様ぶっ殺そうとしたせいで巻き込まれたんだもんな。そう考えるとファンタスティック申し訳ない。

 そんなこと微塵も思ってないけどね。元凶の神共が悪いに決まってんだろ。

 でもまあ、それはさておき。

 俺というお荷物を背負わせるわけにもいくまい。

 こいつらに世界を救ってもらわなきゃ、俺の安全も確保できないわけだしな。

 ということで、


「俺は適当な街で適当に生きるからさ、行ってくれ」

「……すまんな」


 うっわこいついいヤツかよ。

 そこはもっとさ、手厳しく「使えないやつはいらん! 視界から消えろ!」みたいに切り捨ててくれてもいいんだよ?

 そういう挫折とか、屈折が俺の覚醒フラグになるんだから。

 優しくされたらなんにもならないじゃん!


 でも、……そうだよな。いくらぼっちとはいえ、むしろぼっちだからこそ、わざわざ冷たくする理由もないのだろう。


「気にするなってか、こっちこそなんか変な感じになっちゃってごめんな」

「ほんまや、どないしたら家政夫になるん?」


 須藤も気軽な調子で絡んできてくれる。惚れそう。

 陰キャだからちょっと明るく接されるだけで惚れちゃう。

 こいつ、……俺に気があるんじゃないか。とかじゃなくて、シンプルに心が温かくなるし。


「ははっ、悪い悪い」


 だから俺も笑って誤魔化して、


「近くの街までは送る。気をつけて生きろよ」

「ほんと、恩に着る。いつか利子つけて返したいよ」


 世界だってこんなやつらに救われるなら本望だろう。

 俺は性根が腐ってるからいいんだよ! とか豪語しちゃう誰かより絶対いいと思う。

 それ誰? 俺。

 ったく、俺みたいなのは勇者に向いてないんだって。ましてや聖者? やめてくれやめてくれ。むず痒くて赤いポツポツが出てくる。


 まあ、そんな感じで。

 俺の追放は、非常に和やかなムードで行われたのだった。



「さて、……家政夫にされたわけだが」


 っていうか冷静に考えてさ、職業が家政夫固定ってどういうことだよ。

 生まれた時から家政夫! って子供だったらトラウマもんだからな?

 ある程度の年齢になってるから「まあ、職があるだけましか」って言えるけど、ほんとそこんとこどうなってんだよ。


『七聖者』あたらめ『六聖者』と別れてやってきたのはここ、

 ――桜花都市レイノア

 一年を通して木々がピンク色の花弁をつけるという、なんともおめでたい街だ。


 でもって、さっき須藤凜々花が言ってたスキルってやつ。俺にもありました。

 ありましたありました。

 これで異世界楽しめます。ありがとうございます神様。

 いやいや、一時はどうなることかと思ったけど、なんとかなりそうじゃないか。

 むしろ魔法とか使ってみたかったし。整地できないのはぶっ⚫したくなるけど、それとは別の話よ。


 不思議な力が宿っているのがわかる。

 まだ詳しくは見てないけど、さて、なにがある?


「《スキルオープン》」


 ――『生活魔法』炊事洗濯にはもはや欠かせない、日常を豊かにする魔法。

 ――『収納魔法』買い出しには欠かせない、亜空間に物を収納する魔法。

 ――『上流階級の嗜み』なんでもそこそこできる。


 ……うん。

 まあ、とりあえずいろいろ言いたいことはあるが。


「なんでもそこそこできるってなんだよっ!!!」


 ちっとも嬉しくねえ。

 時代は極振り。徹底的に一つの道を突き詰めてなんぼのこのご時世に、言うに事欠いて「なんでもそこそこできる」だぁ?


 THE・家政夫じゃねえか……。

 あいつ、情け容赦ってものを知らないのかよ……。

 悲しくて涙が止まらねえよ……。


 どうして十七にもなって自分の才能に打ちのめされて号泣しなきゃいけないんだよ……くそっ! くそっ!


「くそぉおおおおおおおおおおおおおおお!」


 雄叫びなんかあげてしまったからだろうか。

 たぶん、俺はめちゃめちゃ目立っていた。

 ひとしきり叫んでゼーハーしているところに、声。


「あー! いた! やっと見つけたわよ!」


 なんか知らんけど、鮮やかな赤髪の女の子が近づいてきていた。


「こら! こんなところでなに油売ってんのよ!」


 でもって、怒鳴っている。

 誰に?

 たぶん、俺に。

 そうじゃなかったら俺には見えないなにか。幽霊? この世界でも俺は死んでいたオチ?


「あんたよあんた! 〝ランバート・ホフマン”ってのはあんたでしょ!?」

「それは確実に違う。人違いだ」


 漆谷秋吉のどこをどういじろうが、そんなハリウッド俳優みたいにはならない。

 せいぜいSASUKEレジェンドにちょっと似てるくらいだ。


「とぼけないで! 黒髪黒目なんて滅多にいないわ! それに、天性の家政夫もね!」

「天性の家政夫ってなにそれ……?」


 どんだけ重たい呪いだよ。

 現代日本だったら大問題だ。


「百年に一人しかいない伝説の家政夫なんでしょう? 私にはわかってるのよ」

「そんな伝説の剣みたいに言われても……」


 確かに『剣の聖者』は空白だったけども。


「とにかく来なさい! あなたが就職する場所はもう決まってるのよ!」

「ええと……自己紹介してもらってもいいか?」

「…………」


 そこで初めて、少女は言葉に詰まった。

 周りがざわつく。


「なあ、あれって……」「もしかしてマーティン家の?」「おぞましいわ……」「よせ、娘は無実だって言ってただろう」「そんなのどうして信じられるのよっ……!」「私たちのこと、恨んでるに決まってるわ」


 なんか不穏だな。

 あっさりした感想になってしまったが。実際は結構深刻らしかった。

 女の子はきつく唇を噛んで、肩を震えさせている。


「違うのに……」


 悔しそうに言って、目には涙がたまっていて。

 けれど絶対に暴れまいと、涙を流すまいと拳を握る。


 …………。


 不覚だが、見蕩れた。絶対に負けまいとするその姿に、第三者の、事情を知らない俺だからこそ。

 彼女の持っている芯の強さが、ありありと感じられてしまった。

 どうやら、家政夫にされたのは表面的な話だけではないらしい。


「はぁ……。うっし!」


 頬を叩いて気合いを入れ、少女の前に膝をつく。うやうやしく見上げ、頭を垂れた。

 口調もさっきまでと入れ替える。


「名前を教えてください。我が主」

「えっ…………」


 これは本物だ。

 まだ異世界に来て一人目の人間だが、俺はもう、見つけてしまったのだ。

 本物の主人ってやつを。守ってみたいと思ってしまう相手を。


 ぶっちゃけると、顔がかなりタイプだってのはある。

 けどな、それだけじゃこうまではしないぜ。


「いかがなさいました? くだらぬ野次などお気になさらず、それとも、今ここで黙らせましょうか?」

「……いいわ、そんなことしないで。だって、私のお父さんはなにも、悪いことなんてしていないんだから!」


 大衆へ聞かせるように叫び、息継ぎを一つ。


「カトレア。カトレア・マーティンよ!」


 家政夫がなんだか、正直なところ俺は知らない。

 だけど、守ってやろうじゃないか。

 くそったれな神が与えたこのクラスで、見るからにピンチのお姫様のことを。


 それくらいの夢は見ていいだろ?

 だってここは、異世界だ。



 ――忠誠心が一定値を超えました。パッシブスキルを発動します。

 ――スキルアンロック『忠誠』あらゆる能力に上方補正がかかる。


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