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冴えないゲーマーでも異世界なら美少女のために最強になれますか?  作者: 城野白
2章 炎剣少女とケモミミ従者の魔剣学院
23/42

2 入学試験

「ついた! ついたわよ!」

「わぁぁ」


 揺れには慣れたらしく、カトレアは元気を取り戻していた。

 その横ではノアも身を乗り出してキョロキョロしている。


 爆走を続けた馬車は、二日後に目的のあるソフィスへ到着した。街門をくぐってすぐにわかる、この街の特徴。


 ――傭兵都市ソフィス


 エルドレッド魔剣学院の卒業生が、そのままここで傭兵になることが多いという。だから道の両側には武器屋や防具屋など、戦いに必要な物を売る店が普通に並んでいる。食料品店との棲み分けもなく、日常へ溶け込んで。


 見るからに強そうな人たちも歩いている。俺なんかだともやしっ子扱いされそう。


 そのまま馬車は街を進み、中心部にある巨大な。あまりに巨大な建造物の前で停車する。

 重厚な黒の要塞、といった感じだ。無秩序に四方八方へと広がっている。何度も増築されたのだろう。

 これがエルドレッド魔剣学院……。


「でっか」


 見上げれば首が痛くなりそうで、両端は視界に収まらない。奥行きもありそうだ。

 学校と言えば高校までしか知らない俺にとって、このサイズ感はしっくりこない。そこらへんの城よりも広いんじゃないか?


 馬車を降り、行者の人にお礼を言って、中に入っていく。


 巨人用にしか見えない扉は開かれていた。そこを抜けると、教官らしき女性が腕組みして立っている。

 細いフレームの眼鏡をかけて、神経質そうな印象。


「む、君たちが入学希望者か」

「そうです!」

「そ、そうです」


 二人は背筋を伸ばし、姿勢を正す。


「そこの君は?」

「俺は入学希望じゃないです。付き添いみたいなもんで」


 ふうん、と納得すると、


「私はエリナ。剣術の授業を担当している、教師だ。今日は二人の試験を担当する」


 それだけ言うと、


「ついてきなさい」


 踵を返して歩き始めた。

 嫌な感じはしないが、淡々とした人だな。機械的というか、こなしているだけというか。だからなんだってわけじゃないけど。


 エリナ先生についていくと、開けた空間にで出た。

 下は地面、部屋の形は円形で広い。反対側にも扉があって……天井付きのコロッセオみたいな空間だ。


「コロッセオだ」


 コロッセオだった。

 エリナ先生は手元にある書類へ目を通すしつつ、指示を出してくる。


「先にカトレア・マーティンの試験を行う。次にノア。ランバートは私と一緒に来るように……ランバート?」


 なにかが引っかかったような雰囲気だったが、エリナ先生はずんずん歩き出す。ノアを控え室で待たせると、俺たちは観客席へ。

 座ってしまえばもう、完全に誤魔化しようがない沈黙。初対面の相手とこの緊張感は耐えがたいものがあって、質問してしまう。


「あの、入学試験ってなにをするんですか?」


 エリナ先生は表情を変えないままで答える。


「訓練用の剣を使った実戦。相手は、在校生」

「在校生……?」


 実力を測るためだけなら、教師が相手をしてもよいのではないだろうか。いや、違う。そのためだけじゃないから、そうしないのだ。


「まさか」


 一つの考えがよぎったところで、カトレアの相手が現れた。

 片手剣を装備した、俺と同い年くらいの男。その目はとても新入生の実力を測るような雰囲気ではない。

 殺気にも等しい剣呑さを持っていた。


「在校生は負ければ退学。エルドレッド魔剣学院は、そういう場所だ」

「……っ」

「この試験で多くの生徒は、生まれて初めて真剣の意味を知る」


 中心近くで相手と向かい合うカトレアは、明らかに緊張していた。怯えているようですらあった。

 現れた在校生の彼に、状況を説明されたらしい。


 だが、恐れたところで、震えたところで時間は待ってくれはしない。


 俺にできるのは、ただ両手を組んで祈ることだけだった。







 手が震える。じわりと冷たい汗が滲む。

 カトレアはなんとか細剣レイピアに手を添える。


「始めよう。そっちからでいい。ルールだから」


 少年は殺気をより強くして、自分の片手剣を抜いた。刃が潰されているとはいえ、はっきりとした敵意をもって向けられるのは初めてのことだった。


 相手は魔物ではないのだ。同じ人間同士。

 そして、負けた方は魔剣学院にいられない。

 ゆっくりと息を吐いて、カトレアも構えた。


 肌がビリつく感じ。一寸先が見えない、不安定な感覚。相手が自分よりずっと強く見える。手も足も出ない未来が見える。

 その恐怖の中で、一つだけはっきりしたことがあった。


 ここが、彼女の従者――ランバートがいる場所なのだと。なんでもないふうに「勝ったぞ」と微笑む彼が相手にしていたのは、こんなにも恐ろしいものだったのだ。

 自分もやっと、その場所に足を踏み入れたのだと。


 気がついたら、震えは収まった。


 この先には一人じゃない。ランバートがいて、ノアもついてくる。


「お願いします」


 はっきり言って、鋭い突きを放つ。


「――ッ!」


 さっきまで明らかに動揺していたカトレアは、明らかに変貌していた。少年はその変化に初動が遅れる。後ろに跳んで距離を取るが、そこに追撃。

 カトレアの鋭い突きが、何度も襲いかかる。



 ――いいか、カトレア。

 ――細剣レイピアの長所は、他の剣と比べて間合いが長いことだ。

 ――だから見極めるんだ。

 ――相手の攻撃が届かず、自分だけが攻められる間合いを。



 相手の体全体を観察する。次の動きを予測して、一手先んじて行動する。


 だが、少年もこの学院に籍を置く一人。


「舐めるな!」


 強引に剣を絡めつけ、距離を潰す。

 つばぜり合いからカトレアを押し飛ばすと、反撃に転じる。

 よろめいた少女は、十分な踏み込みをすることができない。体勢も明らかに悪い。


 だが、その瞬間。


 カトレアの中で積み重なった経験が形になる。

 ランバートとの訓練で、終盤になると稀に現れる状態。全身に力が入らなくて、ちゃんと踏み込めないのに、やけに鋭い動きができることがあった。

 地面を完璧に掴んで、すべての力を伝える感覚が、ついにスキルとして花開く。


 ――熟練度が一定値を超えました。スキルを開放します。

 ――『妖精剣技フェザーステップ』 浅い踏み込みで高威力の剣技を放つことができるようになる。独特の剣術。


 それは、カトレアの人生で初めて訪れた福音。

 熟練度上昇によるスキルの開放。


 勝利を確信した少年の喉には、細剣レイピアの切っ先が。

 真っ直ぐな瞳で相手を見据えるカトレアの首にも、刃が触れている。


 ほとんど同時の決着。

 静寂が流れる。

 見つめ合った少年少女は、離れて刃を収める。


 エリナは腕組みしてしばらく黙っていたが、立ち上がると堂々と言った。



「入学を許可する」

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