おまけ ご褒美
家に帰った俺たちは、パーティーをした。
いろいろと問題が片付きすぎたせいで、逆になにを祝うかわからなかったが、とりあえず祝った。買ってきた食材を俺が料理して、机の上をいっぱいにするくらい並べた。もちろん、デザートのケーキも買った。
それが終わってからも三人でゲームをして、遊んで、話して。家族みたいな時間を過ごした。
ノアが眠そうにしていたので、そこで切り上げることになった。後片付けをさっと終えた俺は、地下室から出て庭に立つ。
ふと見上げた空には、まばゆいほどの星が輝いている。
空気が綺麗だからだろうか。この世界の夜は、日本よりも星がよく見える。
月はなかった。
寂しいとは感じなかった。
懐かしいとは感じるが、今はもう、この世界で生きていこうと思っている。それでいいんじゃないかと、納得できる居場所があるから。
ただ。
整地だけは諦めるつもりはない。
「なっはっはっは! 憂うことはもうなにもない! 出発まで存分に平らにしてやる!」
スコップ(またの名をシャベル)を取り出し、地面に突き刺す。
「もう、なにやってんのよ。バート」
後ろにカトレアが立っていた。
「なにもかも平らにしているんだ」
「なにもかもはしちゃダメでしょ。ほら、ちょっと来て」
主様に呼ばれたのでは仕方ない。スコップを地面にさして、カトレアのところへ行く。
じっと俺のことを見つめてきている。隣に立つ、という感じではなかったので向かい合う。
「どうした……?」
とても真剣な顔をしていた。
唇をきゅっと結んで、ルビーのような目を少しだけ潤わせている。
「私、バートにすごく感謝してる」
「それは光栄なことだ」
「あなたが思ってるよりずっと、私はバートに救われてるの。だから……」
「だから?」
「ご褒美をあげなきゃって、思ったのよ」
「まあ、もらえるものなら。もらうけど」
どこか会話がぎこちなくなる。変な空気だ。
こんな感じのことは、今までにはなかったから。どうすればいいかわからなくて。固まってしまう。
「ふふっ、バートもそんな顔するのね」
「うるさいな……。だいたい、ご褒美なんてなくたってな」
「目、閉じて」
ふわりと甘い匂いがした。
首に手を回される。温かくて柔らかい感触。
カトレアがつま先立ちで背伸びして、顔を近づけてくる。目を閉じて、いつもの可愛らしさが、今はもっと魅力的に見える。吸い込まれてしまいそうになる。
そして目を閉じる間もなく、唇に柔らかいものが当てられた。それがなにかは、考えずともわかる。
脳の奥がしびれるような幸福感。
さっきまであった緊張感のすべてが、一瞬にして溶けてしまう。
触れていたのは一瞬で、すぐにカトレアは元に戻ると、手を後ろに回してはにかんだ。
「これからもよろしくね、ランバート」
「あ……おう」
「おやすみ」
「おやすみ」
振り返って、すたすたと駆けていくカトレア。
ええっと、こういうとき、なんて言えばいいんだっけ。
そう言えば前に、こんな話をしたことがあったっけ。だから、俺が言うべき言葉は、これだ。
「ぎえー……って、嫌がってるみたいだな…………」
けれど驚いたし、報酬としては十分すぎると思った。
そのことは、胸の奥を満たす温かな感情が証明してくれていた。
これにて一章は終わりです。
二章【炎剣少女とケモミミ従者の魔剣学院】からもよろしくお願いします!
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なにはともあれ、今後ともランバートとカトレアたちの物語を見守っていただければと思います。
次章からもっともっと面白くするぞ!!