間話 こんなはずじゃなかった
場所は天界。
二つの世界の神が顔を突き合わせている。
片方は頭抱え、悩ましげに。もう片方は不敵な笑みを浮かべ、観戦でもするように。
「なぜ……なぜじゃ。なぜあやつは『家政夫』なのにあんなにも」
「ははっ、僕の採用が効いてるね」
「なに?」
「いやだってさ、勇者の素質を持った人間をちょうだいって君は言ったわけだ。そんでもって、漆谷秋吉は――今はランバート・ホフマンなんだっけ。とにかく、彼は最高の素材なんだよ。こっちの世界では芽吹くことのない、奇跡の才を持っている」
スキルを習得できる量と、どこまで熟練できるかということは本人の才能に依存する。
大抵は剣術スキルなどの戦闘系一つに、魔法系一系統、生活系一つが限界である。
それを、話にあがっている彼は既に各二桁ずつは習得して、それでいて止まる気配がない。
熟練度もほぼ限界値まで到達している。
初めて扱うスキルでも、呼吸をするように使いこなしてしまっているのだ。
「そっちの世界には勇者っていうクラスはないんだよね」
確認するよう、地球の神は問うた。
「勇者は闇を払う者の名であって、役割ではないからの……」
「じゃあ、勇者が『家政夫』を趣味でやってるだけ、みたいなものなんだろうね。いや……通常の職業より圧倒的に、『家政夫』から展開されるスキルツリーは多いからね。もしかすると、歴代最強になるかもしれないよ」
「……っ」
ごくりと、喉が震えた。
「僕たちの前に彼が現れることも、案外、そう遠くないことなのかもね」
「まさか、……そんなこと、あるわけないじゃろ…………」
自信なさげにうなだれる彼の眼下では、世界のある場所が――桜花都市レイノアの一角が映し出されている。
レイノア剣舞祭の予選が行われていて、そこにランバートは参戦していた。
剣を握って数日とは思えない流麗な体捌きで、歴戦の強者たちを圧倒している。それが当然のことのように、もはや本人は驚いた様子すらない。
今はカトレア・マーティンという主人の下にいるからいいが……。
あれが、自分の意志で力を振るい始めたらと思うと。
……ぞっとする。
今日中にもう一話投稿します