Magic4 僕の初仕事
目を覚ますと、さっきと同じようで、少し違う景色が広がる。特に眼前に広がる景色は全くと言っていいほど違う。白い手も、服を押し上げる双丘も、腰からふとももを覆うスカートも、全て初めてのような、知っているような不思議な感覚。特にこのふくらみは、思春期の男子なら気になってしまうもので、つい手を伸ばそうとする。
「起きたみたいだね、気分はどうかな?」
「うわっ!?だ、大丈夫」
急に話しかけてきたのは妖精のレイル。自分の体については一度置いておき、魔法少女にはつきものの妖精と会話しているという事実を噛みしめる。
「だったらよかった。いきなりだけど、さっきのディスペアの残党がまだ生きてるんだ、早く倒して浄化しよう」
「え、まだ生き残ってたの?」
さっき僕を葬った攻撃で全ての力を使い果たしたものかと思っていたけど、想像以上にあの怪物はしぶといらしい。そして、その怪物こと、ディスペアと戦うのは他でもない僕、恋夜の役目だ。
「さぁ、レンヤ。変身魔法を展開だよ!」
「おお!これは妖精から怪物を倒すため変身しろって言われるやつ!本物だ……!!!」
いきなりの展開だけど、魔法少女ものあるあるを自分が実際にできたことにテンションが上がりながら、恋夜の記憶から魔法の記憶を呼び起こし、気合いたっぷりに口に出す。
「展開、マイハート!!!」
自分の体が内側からどんどん熱くなり、光と炎が吹き上がり、服を着ていたはずの僕の体は全て炎に包まれる。つまり、一瞬ほぼ全裸になっている。そして炎の中から、さっきまで穿いていたスカートよりさらにふわふわした感覚のスカートや、ひらひらしたコスチューム、髪が長く重くピンク色になり、大きなリボンが結ばれる。そして首元に謎のもこもこした飾りがつくと、全身の炎が消える。
「おおっ!変身するときってこういう感覚だったのか!」
自分の体をところどころ触りながら見回す。紛れもなく魔法少女になっていることを実感し、感動が僕の中から大量に湧きあがり、今にも泣きそうなくらいだ。
「さあ、ラヴリーアローで敵を倒して!」
「わかった!いくぞ!おおっ本当に出た!」
言われるがまま、さっきの戦いで使っていた弓矢を自分の手元に出現させる。それを一本ずつつがえ、ディスペア1体1体に逃がすことなく命中させてゆく。こんなに正確だが、自分には弓道の心得があるわけではない。この体が、戦い方を覚えているのである。
「すごい……これが魔法少女!本物!」
僕の気分はどんどん高揚していき、その度に矢が纏う炎はどんどん増大していく。そうしているうちにいつのまにか敵の数は残り僅かとなっていた。そろそろ決めよう、と考えると、頭の中に技名が浮かんでくる。
「愛に沈めっ!バーニングアロー!」
とびきりの力と魔力を込めて、燃え上がる矢はディスペアを貫き、灰すら残さずに消滅させていく。それと同時に、さっきまでディスペアが破壊したものや、ラヴァーライオの攻撃に巻き込まれて焼けていたものが全て元通りになった。
「やったね!レンヤ!」
「……ああ!やった!……倒したぞ、恋夜!」
魔法少女の変身を解き、レイルとハイタッチを交わす。僕の魔法少女としての初仕事を完遂したのだ。
「あれ?なんで俺こんなところに寝てるんだ?ってやばい!部活行かないと!もっと練習して次こそレギュラーになるんだ!」
怪物を生み出していた澤井も無事助かって、周りにいた人々も元どおりの時間を過ごし始める。ただ、僕はひとつ気がついてしまった。元どおりになっていないものがあることを。
「……なあ、レイル。『僕』はどうなったんだ?」
「死んでしまった人間が蘇るなんて、都合良いことがあるわけないよ」
魔法少女の妖精には似合わないような、現実的な言葉が返ってくる。しかし、内容自体は予想通りだ。そうでなければ、僕なんかのために恋夜が命を差し出す必要がないからだ。しかし、まだ、疑問はある。
「……じゃあ、僕の死体すら残ってないのは、どうしてだ?」
「元からそんなもの、なかったことになったんだよ」