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Magic3 れんやとれんや



「ねえ、もしよければなんだけど……あなた、魔法少女(わたし)になってみない?」


 彼女から言われたことに、僕は理解が及ばなかった。


「ラヴァーライオ!何を考えているの!?」


 突然現れたライオンのような姿のマスコット。こいつも今彼女がいうことが理解できていないらしい。


「この人の魂をわたしの体に入れるの。それで代わりに戦ってもらって、わたしは死ぬ。そうすれば、この人はわたしとして生き延びられる、そしてわたしは解放される。悪い取引じゃないと思うわよ?」


 魂を入れ替える、そんなことができるかは疑問だが、魔法はなんでもありなんだろうか?


「確かに魔法を使えば可能かもしれない。でも本当にいいの?そんなことをしたら、魔法少女をやめるどころか、君の人生もここで終わってしまう」


「いいのよ、別に。未練あるような立派な人間じゃないもの。それに、そこで今浮いてるあなた。この、魔法少女ってやつが好きなんでしょ?なってみたくないの?」


 少女はこちらをみて問いかけてくる。結論から言ってしまうと、なってみたいと思ったことは何度だってある。女の子になりたいってわけじゃないけど、魔法少女としての存在に憧れていたのだから。


「どうやら同意みたいよ」


「……そこまで言うなら止めはしないよ」


「ありがとう、レイル。そして、さよなら。辛かったけど、楽しい時も、あったかも」


「こちらこそ、レンヤ。そして、お疲れ様」


 僕を置いて、魔法少女とマスコットが別れを告げあう。魔法少女ものだと定番の感動シーンを、幸か不幸か、目の前でそれを見届けるのとになってしまった。

 少女は僕の肉体をそっと地面に寝かせ、魂となった僕に近づく。そしてゆっくりと、包み込むように抱擁されて、僕の意識は彼女の中に沈むように落ちていった。


 意識を取り戻した時、僕の周りの景色は一変していた。そこはあたりに死体が転がり、断頭台や銃などがいくつも散らばっている。


「ここは……?」


「そうね、わたしの心の中、かしらね。とっても散らかってる」


 目の前にいたのは、僕を助けてくれた少女。


「あなた、名前は?」


「……野崎(のざき)漣矢(れんや)


「……そっか。これは、運命ってやつなのかもね」


 さっきまで悲しそうな顔しか見せなかった少女は、何に気づいてか初めて微笑んだ。


「わたしはね、花咲(はなさき)恋夜(れんや)っていうの」


「なんか、似てる」


「うん。ただの偶然で、こじつけかもしれないけど。きっと似ていたから、こうして出会えたって思うと、素敵じゃない?」


「……そうだな」


 さっきまで魔法少女だった少女……恋夜は、話してみると、本当に普通の少女だ。


「……ごめんなさい。わたしはあなたを救えなかった。だから、その代わりになるかわからないけど、わたしの命をあげる」


 でも、普通の少女から、僕みたいな普通の少年に、受け渡されるものはあまりにも重い。そんな普通の少女が人生を手放すほどの覚悟を、受け止めきれる自信がない。


「……本当に、いいのか?」


「構わない。あなたにはわたしの代わりを任せていい気がするの。戦うのは辛いけど、あなたは魔法少女が好きなんでしょ?だったらきっと、乗り越えてくれる。わたしよりも、きっとうまくやれる」


 なんだか、すごく期待されている気がする。本当に荷が重いんだけど、でも、魔法少女が僕に託してくれた願いなら。


「……うまくできるかわからないけど。僕でいいなら、君の命、預かるよ」


「……ありがとう。あなたはこれから、生まれも育ちも、性別も、もしかしたら年齢も、なにもかも違う人生になる」


「……そっか、これから僕は、別人として……君として生きることになるんだもんな。ちゃんと、できるかな?」


「わたしとしての記憶はちゃんと体に残ってるから、慣れればきっと大丈夫。お母さんと、お父さん、それから友達とか、先生とか、とにかく、みんなによろしくね」


「……うん」


 僕の終わるはずだった命は、別の命となって生きながらえる。全く違う人生に、これから割り込んでいってしまうことは、内心ではとても心苦しい。でも、こんなに清々しい顔をした彼女にはそれを見せるわけにはいかない。


「そろそろ時間かな。それじゃあ、頑張ってね漣矢……いや、これからは恋夜。そして、愛の魔法少女ラヴァーライオ。あなたが絶望から人を救ってくれることを、ずっと祈ってるよ」


「……ああ。君として、君の分まで、精一杯生きる。……ありがとう、僕を救ってくれて。君は、最高の魔法少女だよ」


「……こちらこそ、ありがとう。わたしも、あなたに救われたから。それじゃあ、ね」


「……ああ」


 いつのまにか流れていた涙が、同時に地面に落ちた時、光と炎と共に、空間は崩れ去っていった。そのまま僕の意識は闇に包まれた。

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