Magic2 貫くは魔法の矢
「わたしは……ラヴァーライオ」
「魔法少女だ!!!」
画面の中だけのものかと思っていたのが本当にいたのか、それとも僕は夢でも見ているのか、死んで天国に来ているのか。兎に角、今僕の目の前に魔法少女がいる。
「……魔法少女か……そうかもね」
僕の叫んだ声に反応してくれた。それだけで僕の心臓は跳ね上がり、呼吸は荒くなっていく。この麗しい少女の名前はラヴァーライオというらしい。
「……怪我はなさそうね。それにこの空間にいながら意識がはっきりしてるなんて」
ああ、魔法少女が自分のことを気にかけてくれている。もはや言葉も出てこない。そんな幸せを噛み締めていると、澤井の様子が変わった。
「終わりだ……オワリダアアアア!!!!!」
「澤井っ!?」
叫んだ彼の体が裂け、中から脱皮するように化け物が飛び出し、しかもみるみるうちに大きくなっていき、真っ黒で巨大なダチョウのようなカタチを作る。
「な、なんだ、あれ」
さらに、周りにいた人々からも黒い塊が飛び出し、それは巨大化こそしないものの同じカタチになった。人が次々と化け物に変わり、自分もそうなるのではないかと、そんな恐怖で足が動かなくなる。
「とりあえず、ここから離れなさい。ぼーっとしてたら死ぬわよ」
「は、はい!!!」
ただ唖然とするだけだった僕は反射的に返事をして、重い体を動かしそのまま逃げようとする。でも、目の前で魔法少女の戦いが始まろうとしているのに見届けないことなど僕にはできない。
「がんばれーラヴァーライオー」
だから、物陰でこっそり応援することにした。
「オワリダアアアア」
「オワリダ」
「オワリダ」
化け物が突っ込んでくると、魔法少女は迷わず跳躍して上を取り、弓に火の矢をつがえては射って射って射りまくる。
「ったく、キリがないわね」
「オワリダァァ!!」
敵もただではやられはしない。数体が焼き消されていることなど気にもとめず、魔法少女に向かって次々と襲い掛かる。しかし彼女はその中に隙を見つけ、さらに高く跳び上がると弓を構えて思い切り引く。
「まとめて吹っ飛ばす……サウザンドロアーズッ!」
技名を叫びながら放たれた矢は無数に分裂して地上に降り注ぎ、派手に爆発する。物陰でも吹き飛ばされそうな爆風が治ると、怪物は消滅していた。
「おお……!!」
炎の中に立つ彼女の姿は、何やら物憂げな雰囲気を漂わせてる。明るい炎と、背後に立つ巨大な影のコントラストも相まって非常に美しい。……巨大な影?
「危ない!」
「え?」
刹那。影は一本の矢へと変わり、魔法少女へと突き進んでいる。まるで自身が浴びた攻撃への意趣返しがごとく。
「うおおおお!!!」
攻撃に気づいた僕は、思考するよりも早く体が動き、あれに負けじと彼女のもとへと進む。彼女はやっと思考が追いついて振り返るが、時すでに遅し。もはや彼女の眼前に迫ったというところで。
僕の
中で
時が
止まった。
「が……は……」
痛い。痛い。胸が痛い。下を見ればきっとどうなってるかわかるけど、もう体がそんな動きすらさせてくれない。
「嘘……なんで……?」
涙声が僕の耳に届く。ああ。良かった。魔法少女は死んでない。それでいいと安心すると、なんどかふわふわとした感覚がしてくる。僕が、僕の体から離れ、空の上まで、飛んでいくような。
「なんで!わたしが死ななかったのよおおお!!!」
魔法少女は感情に任せ、僕に刺さっていたものを粉々にした。僕の体はその場に倒れ込み、魔法少女はそれを抱きかかえる。生きていたらどれだけ幸せなシチュエーションだろうと思いながら、僕はその姿を空中で見ていた。
「また……守れなかった……嫌だ……なんで、わたしは……うう……」
魔法少女はただの少女に戻り、泣きながら虚空を見上げた。
「あぁぁ……」
僕と少女の目が合った。
「……そこに、いるの?」
明らかに僕に向けて言葉を投げかけてきた。僕は答えようにも、何も発することができない。
「ねえ、もしよければなんだけど」
真剣な眼差しで、もうこの世にいなくなる僕を見つめてくる。そして、彼女はゆっくりと言葉を続けた。
「あなた、魔法少女になってみない?」