MagicA 魔法少女好きで何が悪い!
僕は、魔法少女が好きだ。
『いくわよ、ルビー!』
『ええ、決めるわよサファイア!』
見目麗しい少女たちが、キラキラふわふわの衣装を纏って戦う姿が好きだ。
『『ブリリアントスパーク!』』
『ぐわあああ!おのれ魔法少女ジュエルスターズ!』
時には対立し、時には力を合わせ、人々を守っている姿が好きだ。
『私たちがいる限り!』
『みんなに涙は流させない!』
もう一度言おう、僕は魔法少女が好きだ。
「漣矢!また女の子のアニメ見てるでしょ!」
テレビの向こうの少女たちに夢中になっていたのに、そこから引き戻しにくる母の声。
「いいじゃんか別に」
「そんなんだからあんたモテないんだよ!」
「それは関係ないだろ!」
まったく、母とは会話が噛み合わない。だいたいテレビ番組なんて何を見ようが自由ではないか。どうしてわざわざ僕から癒しの時間を奪おうとするのか。わけがわからないよ。
「それはそうと漣矢、おつかい行ってきて。牛乳の500mlのやつ、よろしく」
休日の楽しみを妨害した上に、おつかいまで頼むとはなんとも図々しいことだ。でも、下手に反抗しても面倒なだけだ。
「はいはい、お金は?」
「後から出す」
「忘れんなよ、じゃあ行ってくる」
「気をつけて行ってきな」
適当に会話を終わらせてさっさと家を出る。目的地は近所のスーパー。
せっかく行くなら食玩の1つでも買って帰れば少しは気がまぎれるだろうかと考えていると、道の途中でうずくまっている人を見つけた。
「あの……大丈夫ですか?」
いかにも具合が悪そうなので声をかけてみた。しかし反応はない。それに何やらボソボソと呟いているような気がする。仕方がないので、もう少し近づいて耳元で再挑戦することにした。
「すみませーん、聞こえてますかー?……ってあれ?なんか見覚えが……」
少し思い返すと、すぐに答えは出た。僕のクラスメートの1人、サッカー部に所属する澤井だ。普段は気さくなムードメーカーといった感じの男なのだが、今はまるで別人のようにどんよりとしている。
「澤井、だよな?どうしたんだよ、救急車呼ぼうか?」
「……終わりだ……終わりだ……」
「え?」
さっきまでボソボソとしていて聞こえなかった声がどんどんはっきりしてくる。
「終わりだ、終わりだ、終わりだ、終わりだ終わりだ終わりだ終わりだ終わりだ終わりだ」
「お、おい!しっかりしろよ!」
何度も何度も虚空に向かって、しかもどんどん勢いを増しながら同じ言葉を繰り返す澤井。あまりにも様子がおかしいので、急いでスマホを取り出して119番通報をしようとする。が、何故か手が動かない。こいつの声を聞くたびにどんどん自分の身体が重くなる。
「終わりだ終わりだ終わりだ終わりだ終わりだ」
「おわりだ……って何言ってるんだ僕は!」
頭に声が直接響く感じがする。それだけではなく、耳に届く「終わりだ」という言葉もどんどん増えていく。周りを見渡すと、道行く人々も立ち止まり、うずくまり始め、そして何かをつぶやき出す。
「終わりだ」
「終わりだ」
「終わりだ」
嫌だ。こいつらと同じにはなりたくない。なってはいけない。そう考えるも、体に力が入らなくなり、自然とうずくまる姿勢になってゆく。もうダメだ。耐えきれない。
「……おわりだ」
ああ、ついに本気で言ってしまった。するとなんだろう、この解放感は。ああ、このまま死んでしまっても……。
「勝手に終わりにはさせないよ!」
僕の弱った思考に活を入れるがごとく、終わりだという声を沈めるがごとく、凛とした少女のような声が響いた。その瞬間、僕の心は一気に活気を取り戻し、声の方を見た。すると、そこにいたのは。
「わたしは……ラヴァーライオ」
派手なピンクのリボン、フリフリした服に、その勇ましい姿。紛れもなく、僕が愛したもの。
「魔法少女だ!!!」