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Prologue ハートの魔法少女

 街中に悲鳴が響く。そこにいたの巨大な犬のようなカタチをした異形、名は"ディスペア"とされている。あれは一体どんな感情なのかと考えながら、わたしはその目の前に立つ。


展開(オープン)、マイハート!」


 呪文を唱えると、わたしの身体中が熱くなり、光に包まれる。その中で普段は絶対着れないような、フリルがふんだんにあしらわれた衣装をまとい、いつもより長くなり、さらにピンク色に染まった髪を、猫耳にも見える派手なリボンで結んだ姿に変わる。


「これ以上、好きにさせない」


 長いように感じる一瞬の中でラヴァーライオと呼ばれる姿に変身した。わたしはこの力に選ばれ、この怪物を倒す義務がある。だから、いつものようにそれを遂行する。


「ステナイデエエエエエ!!!」


 ディスペアが咆哮する。どうやらわたしが戦っているこいつは、人間の深い絶望から生まれているらしい。察するに、好きな人に振られでもしたんだろう。


「可哀想にッ!」


 感情をぶつけながら、わたしは矢を放つ。愛の力で強くなると最初は説明されたけど、実際感情なら何を乗せても攻撃できてしまうらしい。


「ステナイデ……ステナイデエエエエエ!!!」


 痛みが苦しみか、それとも怒りか悲しみか、怪物は叫びながらわたしのほうに向かってくる。でも、全然、わたしには届きそうもない。


「……愛に沈め……」


 愛を謳いながら憐れみと怒り、そして罪悪感を込めて、弓を引く。


「バーニングアロー!」


 掛け声とともに放った矢は、空中で燃え上がってディスペアを目掛けて飛んでいく。


「ステナイデェェェェ!!!……」


 断末魔をあげて、怪物は消えてゆく。それと同時に壊れたものが元に戻り、怪物を生み出した人間もそこに残される。さっきまでパニックだった人々は、何事もなかったかのように日常を再開する。


「……はあ、また死ねなかった」


 元の姿に戻り、ため息をつきながら落ち込んでいるわたし。そこに駆け寄ってくる小動物、もとい妖精。ライオンをちびっこくデフォルメしたような見た目で、名前はレイル。


「死にたいなら、なんで戦うの?」


 無駄に可愛らしい声でレイルは問うてくる。この質問はもう何度されたか覚えていない。毎回答えているのに。


「……それじゃあ、意味ないのよ」


「だから、それはどういうこと?」


「……これは贖罪なの、だから楽に終わらせるわけにはいかない」


 わたしは、なんども救えなかった。そんなわたしが戦ってもいいことなんてないはずなのに、残念ながら、わたしには戦う資格があった。


「うーん、やっぱりわからない」


 やはり、理解はされなかった。だったら言わなきゃ良かったなどと後悔したが、もう遅いので仕返しでもしてやることにする。


「じゃあ逆に質問、この力、どうすれば手放せるの?」


「この世界からディスペアがいなくなるか、君が死ぬか、どっちかだね。でも、力に選ばれる人間は簡単には見つからない。ラヴァーライオが死んでしまったら、それこそ絶望的だよ」


 わかりきった答えが返ってくる。使命を果たすが、果たせぬまま死を迎えるか、それ以外にはもう何も残されていなかった。


「……まあ、そうよね」


 ディスペアは人間の絶望から増殖し、いずれ人を滅ぼす。その前に根絶しなければならないが、その力を持てるものは少数だ。残念ながら、わたしは人間を危機に晒してまで戦いから逃げられるほど非情にはなれない。


「ラヴァーライオ!またディスペアが現れた!あっちの方だよ!」


 レイルが騒ぎ出す。わたしは期待を胸に抱きながら、それを目指す。『わたしは人を守るために最期まで戦った』という、自己満足を得るために。もう、なにも失わないために。

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