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白崎篤紫は普通の世界旅行がしたい。  作者: 澤梛セビン
六章 迷宮王国アディレイド
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九十九話 懐かしい街並み

 もし歩いて入国していたら、たぶん入ってすぐのところで立ち止まってしまっていたと思う。

 視界に飛び込んできた街並みは、篤紫と桃華の想定を越えていた。

 そんな二人を乗せた馬車を、馬の姿のヒスイが牽き、大通りをゆっくりと駆けていく。


「ねぇ、篤紫さん……ここって、東京かしら?」

「いや違う。違うと思うけれど……俺も今、雰囲気がすごく似てると思っていた……」

 篤紫達が入った場所は郊外の住宅街で、大通りの左右に閑静な住宅街が広がっていた。

 真っ直ぐに伸びている大通りの先に、ひときわ大きな塔が天を貫くような勢いで立っている。その塔の周りには、膨大な数の高層ビルが所狭しと建ち並んでいた。

 その姿は、高層ビルが建ち並ぶ東京の都心と酷似していた。いや、もしかしたら高層ビルの数だけなら、ここは東京を遙かに超えているかも知れない。

 高層ビルの周りには、雑多なビルもたくさん建ち並んでいる。この光景は間違いなく大都会と言える規模だった。


 ヒスイが牽く馬車は、その都心に向けて滑らかに走って行く。

 道路は黒っぽいアスファルトのような物で舗装され、街中には当たり前のように車が走っていた。

 車はちょっとくたびれたボンネットタイプの四人乗りの、トラックタイプの車がほとんどだった。時折、箱形の車も目にする。その光景は、ずっと馬車が走っている世界を見てきた篤紫たちにとって、ある意味異様な光景に映った。


 道路は四車線あって、外側を馬車が走り内側は早く走れる車が走るようになっているようだ。少し先に、馬車も走っている。全ての乗り物が車で構成されているわけではなさそうだった。


「なあ、あの車……」

「あれって、ルーファウスちゃんが作っていたタイプの車じゃないかしら?」

 信号で止まっていると、目の前を真新しい小ぶりな車が走り抜けていった。

 パース王国でルーファウス達が作っていた小型のトラックだ。魔石発動機を小型化できたことで、床下に搭載できた。そのおかげでその車は、四人乗り小型でありながら、荷台をかなり広く確保できていた。


「隣の国と交易があるって言っていたから、車も売り始めたのかしら?

 待って、そう言えば……隣の国ってここのことよね」

「このアディレイド王国で合っていると思うよ。ほら、パース王国からアディレイド王国までのマップが完成している。今気が付いた。

 これは間違いなく、パース王国の誰かがアディレイド王国まで来ていると言う証拠だよ」

 魂樹が普及していないからと、ずっとマップアプリを開いていなかった。いつの間にか、アディレイド王国の周辺までマップが反映されていた。

 しばらく地底世界で過ごしていたから、外の流れは一切把握できていなかったからなぁ。この間ルーファウスにあったときも、順調だって言う話を聞いただけでそれ以上は聞かなかったし。


 いずれにしても、あの時の停止空間はパース王国だけでなくアディレイド王国も上手く避けていたようだ。




 ヒスイの牽く馬車は郊外を抜けて、少し走った先にあったお店の駐車場に馬車を停めた。あれからも呆然と周りの景色を眺めていた篤紫と桃華は、馬車が止まったことに気がついてゆっくりと馬車を降りた。

 ビルに挟まれるように建つその店舗は、見た目だけならコンビニエンスストアにも見える。

 緑の馬だったヒスイが、少女の姿に変わった。ポシェットから探検家セットを取り出して、急いで着ている。


 ヒスイは二人が見ている前で御者台に上って魔神晶石に手を触れた。


「ヒスイは何を始めた……って、えっ、変形させるのか?」

 篤紫と桃華が見ている前で、馬車はその姿を変えていく。


 御者台の頭上に日よけ程度に伸びていた屋根が、前に伸びていき途中から下に折れて馬車の前方を覆った。馬具が付いていたアームが縮んでいくと、やがてそれは車のバンパーに変わった。

 屋根が下りて視界が覆われていた前方には四角く空間が空き、フロントガラスにも見える透明な素材が、四角く空いた空間に広がった。


 馬車特有の大きな車輪は、だいぶ小さくなって車体の中に引っ込んだ。ホイールの周りに黒いタイヤが覆い、見た目がぐっと車に近づく。

 少し前までいかにも馬車然としていた車体は、瞬く間に現代的な車へと変化した。まあ……色合いは木目のままなんだけどね。


 形は一昔前に流行っていた運転席の下にタイヤがあるバン形状で、タイヤサイズが直径一メートル程あるので何か違和感がある。どちらかというと、オフロード車に見える。

 車内に入る扉は馬車だったときと同じで、左右に両開きの扉があるだけ。乗り降りする高さは馬車と変わっていないので、一メートル位上にあるステップに足を掛けないといけない。

 中にいたヒスイが扉を開けて出てきた。あ、今度はちゃんとは階段がせり出てくるのか。


「今までと同じように、魔神晶石を取り外して収納できるのか?」

 ヒスイは頷くと、再び階段を上って車内に入っていった。

 篤紫と桃華も顔を見合わせると、ヒスイに続いて車内に足を踏み入れた。



「これはバスに近いのか?」

「そんな感じね。運転席にヒスイちゃんが座って、他に八人乗車できるみたいね。外見も少し大きくなっていたから、使い勝手もよくなったかしら」

 車に乗ると、後席二列目と三列目の座席がある通路に出る。三人がけだった二列目と真ん中に通路があって左右に分かれていた三列目が、再び形を変えていた。

 二列目と三列目のシートが七三の割合で分割され、分割した間が通路に変わった。通路は右寄りにあって、一列目に行くと右側に魔神晶石を填める台と、ヒスイが座る小さな椅子があった。そこにヒスイがちょこんと座っている。

 そして一列目の左側には二人がけのベンチシートがあった。


「ヒスイが運転すると言うことは、いわゆる自動運転というやつか」

 そもそもがヒスイしか運転できないようで、ハンドルやアクセル、ブレーキが無い。考えてみたら御者台周りが変形しただけなので、原動機すらも積んでいないはずだ。

 ここまで来ると、これは車ですらないのかもしれない。




 篤紫達がゆっくりと魔神晶石車の中を見ていると、隣の駐車スペースに車が入ってきた。

 顔を向けるとそれは箱形の車だった。

 赤く塗装された車体は、所々塗料が剥がれている。窓が四枚ほど付いていて、窓から見えた座席数から十人くらい乗車できるように見えた。

 後退で停車したため、ついでに振り返ってその車の前方を見ると、ボンネットが張り出していた。いわゆるボンネットバスと呼ばれる形の車だ。

 入り口は……左側か、考えてみれば道路は左側通行だったな。


 そう思って視線を戻すと、ちょうど車の陰から乗車していた人たちが出てきたところだった。

 その姿に、思いっきりギャップを感じて思わず篤紫は首をひねった。


 彼ら彼女らはまさに、ザ・冒険者と言った出で立ちをしていた。

 重厚な金属鎧を全身に纏い、背中に大きな剣を背負った男。黒い革鎧を着て、いかにも斥候らしい姿の女。胸当てと部分鎧を組み合わせて、背中に大きな盾を背負った男など、いかにも戦闘を生業にしている人たちだということが分かる。

 さらにその後ろから来た、手に杖を持った男女のうち、男の方と思わず目が合った。

 反射的に篤紫が頭を下げると、男も少し目を細めながら軽く頷くように会釈をすると、視線を外して建物の中に入っていった。


「ここって何だろう? あの人達って、もしかしてさっき説明にあった探索者なのか?」

「そうみたいね、見て。入り口のドアに、探索者ギルド何とか支部って書かれているのが見えるわ」

「いや、何とか支部って何だよ……」


 どうやらコンビニでは無く、探索者ギルドのどこかの支部のようだ。とすると、近くにダンジョンがあるのかもしれない。

 少しすると、黒い革鎧の女が店の制服を着た男を伴って出てきた。

 リアゲートを開けると、中に何かあるのか検分を始めたようだ。制服姿の男は脇からタブレット端末を取り出すと、何かを描き込みし始めた。


「ねえ、あれって魂幹のタブレットよね? パース王国からもう伝わったってことなのかしら?」

「そうかもな、ほら見てごらん。二人とも腰元にスマートフォンが浮かんでいるよ。魂樹も一般化しているみたいだね」

 ガイウス国王も、隣国とは友好的な関係を築いている、と言っていたからさっそく国家レベルで交流、伝達したのかも知れない。

 一通り確認が終わったのだろうか、ボンネットバスのリアゲートを閉めると、二人は再び建物の中に入っていった。


「ね、私たちも中に行ってみない?」

「桃華はダンジョンにでも潜るつもりか?」

 いきなり桃華に手を引かれて、篤紫は思わず転けそうになった。その二人の前をヒスイが歩いて行って、魔神晶石車の扉を開けていた。


「私ね、一回冒険者ギルドで冒険者登録して、ダンジョン攻略をしてみたかったのよ」

「いや待て、冒険者ギルドじゃなくて、探索者ギルドな」

「どっちでもいいのよ。行きましょう、冒険が私たちを待っているわ」

 そう言えば、色々ダンジョンをいじった経験はあるけれど、普通にダンジョンに足を踏み入れたことって、一回も無かったか?


 そんなことを考えながら篤紫は、桃華に手を引かれるまま探索者ギルドの扉をくぐった。


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