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白崎篤紫は普通の世界旅行がしたい。  作者: 澤梛セビン
六章 迷宮王国アディレイド
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九十八話 アディレイド王国

新章開始です

 ウルルを出発してから二週間ほど経った。

 正直言って道中に道なんて物は無く、ヒスイの馬と魔神晶石の馬車じゃないと無理だったと、改めて実感していた。


「しかし、道が無いって言うのはなかなか大変なんだな」

「そうね……ヒスイちゃんが無理矢理道を作りながら走っているから、早く進めているのよね」

 アウスティリア大陸は割合平地が多い。

 と言っても、その平地が真っ平らとは限らないのが、最大の罠だったりする。


 気候的には砂漠気候に当たるけれど、砂地だけでなく岩地や礫地があって地面の条件はあまり良くない。さらに丈の短い草木や、時折あるまとまった森などで普通ならまっすぐ走ることはできない。

 もっとも、草木は塩害でほとんど枯れかかっているため、見晴らし自体はそれほど悪くないけれど。


 そんな中でも、ヒスイ馬と魔神晶石馬車のコンビは恐ろしい動きをしていた。

 岩は先に魔力を跳ばして砕き、多少の礫岩は蹄で踏んで粉砕していく。馬車の車輪も、礫岩程度なら踏みつぶし、通り過ぎたあとには綺麗な轍が続いていた。

 オルフェナだったら、さすがにここまでスムーズには進めなかったはず。


『失礼なことを考えている気がするのだが、我もこの程度の道は問題なく走れるぞ。タイヤの幅が広いのと、車体が軽いから多少はダンプするが。

 それに森の木程度なら、突っ切っても我の車体には傷一つとして付かぬぞ』

「そうよ、オルフェナちゃんは凄いんだから」

 後ろの馬車内からオルフェナ以外の声が聞こえたため慌てて振り向くと、中にシズカが座ってオルフェナを抱っこしていた。

 他にも、タカヒロとユリネも中でくつろいでいる。

 篤紫は完全に動きが止まった。


 知らないうちに、二人掛けしかなかったはずの座席が拡幅されて、三人掛けになっている。さらに後方の真ん中に、通路を挟んで二座席追加されていた。

 待って、三人はいつの間に馬車に乗ったんだ?


「あら、シズカじゃない。どこから中に乗ったのかしら?」

「車内の後方に両開きの扉があるでしょう? あそこから入ったのよ。大樹ダンジョンに繋がっているのよ。

 大樹ダンジョンには、みんなが普段使っている扉があるでしょう。それとは別に、大樹を一周回った反対側に、馬車内に入るための扉があったのよ。

 三人で散歩していたら見つけたのよ。もちろん周りに誰もいないから、誰かが間違えて入らないように取りあえず柵で囲っておいたわ」

 馬車内の後部にも扉があることは知っていたけれど、大樹の裏側に続いていたのか。何とも、無駄な仕様だな……。


 その間も馬車はヒスイが引っ張っているから、勝手に進んでいる。

 それでもさすがに御者台に誰も乗っていないとマズいので、篤紫と桃華が座っている。街に行ったらヒスイはゴーレムだということにすれば、特に大きな問題にはならないと思っている。

 振動もない、すこぶる快適な馬車の旅だ。


「それで、何か用があってこっちに来たんだよな?」

「ええ。大樹ダンジョン側の扉の場所を動かしたいんだけれど、取りあえずヒスイちゃんに聞かないといけないからって思って、待っていたのよ。

 そうしたら車窓に、単調だけれど広大な景色が流れているじゃない? 三人でけっこう感動しながら見ていたのよ」

 しばらく前から車内にいたのか。知らなかった。

 これはあれか、オルフェナがしゃべり出さなければずっと気付かなかったパターンだな。


「そっか、確かにシズカさん達は、この馬車に乗るのって初めてだもんな。

 ヒスイに用事があるなら、ちょっと止まって貰うから待っててくれ」

 そう言って前に向き直ると、やっぱりというか既に馬車は停まっていた。さらに馬のヒスイが馬具を自分で外して、馬車の横に歩いてくるところだった。


 そのまま器用に口で馬車の扉を開けて、中に顔だけ入れた。

 待って、馬の鼻の辺りから今、手が出ていなかったか?


「ヒスイさん、少し大樹ダンジョンの件で確認したいことがあるのですが、いいですか?」

 タカヒロが緑の馬姿のヒスイに話しかけると、ヒスイは馬の首を縦に振った。

「ありがとうございます。この馬車内の扉が繋がっている大樹側の扉を、街の方に移動させたいのですが、大丈夫ですか?」

 街というと、商館ダンジョンを置いた方か。

 大樹の直径がどれくらいあるか分からないけれど、確かに裏側だと使いづらいもんな。


 篤紫が窓越しに話を聞きながら、タカヒロの言っている構想を頭の中で描いていたら、どうねそれを読み取ったらしい。しばらく首を傾げて考えていたヒスイが、首肯していた。


 せっかくなので篤紫と桃華も馬車内に入って、馬車の中にある扉の接続先について一緒に話し合った。

 最終的に商館ダンジョンとタナカ邸の間に離れを建てて、そこに出られるように調整する話になった。確かにその方が便利だよね。考えてみれば、この馬車内に家族以外の人が勝手に入ってきたら、何となく嫌だし。


 あとは設計と施工を三人にお任せする話をしたら、しっかりと頷いてから大樹ダンジョンに戻っていった。

 戻っていく時にタカヒロがオルフェナを抱っこしてたまま戻って行ったんだけど、良かったのだろうか? オルフェナも何も言っていなかったし。まあ、いいのか。何かあればきっと戻ってくるよな。


 篤紫と桃華は再び御者台に戻り、馬のヒスイも自分で馬具を装着し、進む先にあるだろう街に向かって出発した。




 それから三時間ぐらい走っただろうか。遠目に大きな壁が見えてきた。

 確かパース王国と取引がある国が、もの凄く高い壁に囲まれている国だって言っていたか。囲っている壁が、パース王国の倍はあるのだとか。

 記憶にあるパース王国の国壁は、目測で十メートルはあったはず。その倍だから、遠くにあるあの壁は単純に二十メートルあるということか。


 やがて、道なき道から街道に出ることができた。

 魔神晶石の馬車が走ってきた荒野と違って、パース王国から続いているこの街道は、それなりにちゃんと整備されていた。

 そもそもがこの間の洪水で水浸しになっていたはずなのに、乾いた塩でやや白くなっている周りの荒野と違って、綺麗に整地されていた。普通の馬車でも問題なく走れるくらいに、しっかりと均されている。


 このまま行ってお昼くらいには街に着けそうだった。

 ウルルがあった地域からそれなりに南下してきたこともあって、気候がいくらか涼しくなって過ごしやすい。海も近いのか、風が湿り気を帯びている。

 空は雲一つなく、突き抜けるほどの青空が広がっていた。



 そのまま街道を走っていくと、やがて国を囲む壁まで辿り着いた。

 門には土地柄か、だれも並んで待っている人はいなかった。

 アウスティリア大陸自体が、そもそも孤立した大陸というものあるけれど、魔獣生息域の関係で人類の生活範囲はほとんど拡大していない。必然的に商隊を組む商人以外はほとんど街道の行き来がないわけで、

 そんな経緯もあって、篤紫たちは難なく門まで辿り着くことができた。


 大きな門は今は閉まっていて、横の通用口に門番が二人立っていた。篤紫達の馬車にはしばらく前から気がついていたようで、槍を脇に立てて待っていた。

 篤紫が門の前に馬車を停めて地面に下りると、そのうち一人が近づいてきた。


「こちらはアディレイド王国の北門です。遙々パース王国からお疲れさまでした。簡単に注意事項だけ説明させて頂きます。

 当国では出国の際にのみ、出国税と言う形で税金を徴収しています。

 入国に関しては、特に制限を設けてはいません。このあと門を開きますので、門が開ききってからお通りください。

 ちなみに、アディレイド王国には初めて来られましたか?」

「ああ、初めてだよ」

 篤紫が答えると、門の近くにあった棚から小さな冊子を取り出して、篤紫に手渡してきた。


「こちらがアディレイド王国に関する案内と、国内法に関する簡単な冊子になります。

 国内にはダンジョンが多数ありますので、基本的には自己防衛をして頂くことになります。喧嘩程度であれば問題はありませんが、殺人、窃盗、などの反社会的行為に関しましては憲兵隊で取り締まりをいたします。お気をつけください」

 旅人向けにアディレイド王国についての要点が描かれている冊子なのだろう。なかなか文明度の高さが覗える。

 門番が合図をすると、ゆっくりと扉が開き始めた。


「この国の中にダンジョンがあるのか?」

「はい。ダンジョンを中心にして国が形成されています。

 中央に塔型のダンジョンが一つ、その周り一帯も大がかりなダンジョンとなっています。その他にも国内各地に地下型の大小様々なダンジョンが点在しています。

 詳しい内容は、国直営の探索者ギルドにてご確認ください」

 パース王国のルーファウスが、魔道具を作るための素材や魔晶石の一部は、隣の国から輸入していると言っていた。おそらく地理的に言ってここアディレイド王国のことなのだろうな。

 人間だけの国だと言っていた。魔族はいないのだろうか……?


「お待たせいたしました。扉が開きましたので、どうぞお通りください。

 それでは、アディレイド王国へようこそ!」

 扉が全て開かれ、左右に門番が二人ずつ並んだ。


 一抹の不安を感じつつ、篤紫達一行はアディレイド王国に足を踏み入れた。


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