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九十話 ナナナシア、星に還る

「取りあえず、扉に穴を空けてみるか」

 魔道銃を取り出して、扉の端っこに向けて構えた。

 扉の端に穴を空けるだけなら、もしこの街が復興してここを再び使うようになったとしても、そんなに分からないよね?


 念のため少し離れたところで、魔力を込めてトリガーを引いた。込めた魔力はいつもの十万。篤紫が四つん這いで通れる位の穴が開くはずだ。


「ぐっ、まずい――!」

 弾丸がドアに着弾すると同時に、大爆発をおこした。近くにいた篤紫は、当然ながら爆発に飲まれて吹き飛んだ。

 爆発は付近の瓦礫を巻き込み、礫が派手に爆散する。寝転がっていたドラゴンも瓦礫に貫かれながら、遅れて吹き付けてきた爆熱に灼かれた。

 吹き飛んだ瓦礫は、上空にいたドラゴンの柔らかい腹部を貫通して、幾多のドラゴンが地上に落下した。


 篤紫は近くにいたドラゴンの背中にぶつかって上空まで跳ね上げられ、体勢を整える暇も無く錐揉み状態のまま、領壁を遙かに越えて外の草原に落下した。

「うわっ、痛てっ、痛いって。やり過ぎたなこれは。あんなに威力があったのか」

 遅れて、辺り一面に瓦礫が雨のように降り注いだ。

 周りの草原一帯が、降り注いだ瓦礫で真っ白になった。


「あの建物はダンジョン相当の施設だったんだな。魔道銃の威力を始めて体感したけれど、これはえげつないな。ドラゴンの頭が消滅するわけだよ。

 あれ、そう言えばヒスイはどこだ?」

 起き上がって、周りを見回してみた。

 さすがに爆発で吹き飛んだためか、ヒスイは追いついて――。


「あ、ヒスイいた……」

 篤紫の隣にちょこんと座って、いつもののっぺりした顔で篤紫を見上げていた。

 同じように爆発に晒されたのだろう、着ていた服が焼け落ちていた。その代わりに、体表を変形させて同じデザインの服に変えている。最初見たときにシンプルなワンピースだったことを考えると、かなり進歩している。

 もっとも、全体が透き通った緑色なので、あまり意味はないのだけれど。


「おお? 桃華から電話だ」

 篤紫は立ち上がり、街の方に向けて歩き出した。

 その篤紫のあとを、ゴーレムを五体取り出したヒスイが付いてくる。どうやら、篤紫が散歩を始めたと思っているらしい。


「……あー、もしもし?」

『もしもし篤紫さん? モニター越しにもの凄い音がしたんだけれど、大丈夫なの? そのあとすぐ、画面が真っ暗になっちゃったわ』

 言われて自分の胸元を見ると、カメラにしていたブローチが跡形もなく消えていた。

 どうやら爆発の際に壊れたらしい。不壊処理をしていなかったから、簡単に壊れてしまったんだろうな。それ以外の持ち物は、ホルスターベルトから始まって、全て破損していなかった。魔術凄すぎ。


「カメラが壊れちゃってる。それが原因だな。

 街の外まで飛ばされたけど、体は大丈夫だよ。白竜領のソウルブロックがある場所が分かったんだよ。

 入り口の扉に穴を空けようとして、魔道銃で撃ったら反射されて爆破しただけなんだけどな」

『またいつも通り無茶するわね。先に魔道ペンとかで削って、状態を確認してからやれば良かったのに。

 篤紫さんは変身の魔道具を過信しすぎよ?』

「あははは、ごめん。今度から気をつけるよ」

『そう。ならいいけど、ヒスイちゃんも無事なのよね?」

「ああ。いつも通りゴーレムを取り出して遊んでいるよ」

 ヒスイを見れば、ドラゴンの鱗などが破片として散らばっているのを、ゴーレムと一緒に集めて回っている。それらを、腰のポシェットに次々に収納していってる。


「そっちはどうだ?」

『さっき、セイラちゃんの意識が戻ったのよ。それで今は、竜人のみんなのソウルメモリーを、魂樹化してもらっているわ。

 まだ何人か意識が戻っていないけれど、体の傷は完治しているから、しばらくすればみんなみんな気がつくと思うわ』

「ありがとう。ソウルブロックに着いたら、また連絡するよ」

 一通り話をして電話を切ると、ヒスイがゴーレムを収納して篤紫の横で待っていた。思わず篤紫の口に笑みが漏れる。

 どんだけ空気が読めるんだよ。


「それじゃあまた、白竜領の領事館に向かいますか」

 頷くヒスイを引き連れて、篤紫は街に駆け出した。




 案の定、白竜領の領事館の前には巨大きなクレーターができていた。深さは目視で五百メートル位ありそうだ。

 周りの瓦礫がすべて吹き飛び、完全に更地になった街は、再びドラゴンに溢れかえっていた。見ればクレーターの壁に沿ってたくさんのドラゴンが横になっているのが見える。


 相変わらず、即時にドラゴンが補填されるらしい。

 篤紫はため息をつくと、再びドラゴンの背中を伝って白竜領の領事館まで足を進めた。


 領事館は、やっぱりというか何も損傷が無い状態でその場所に建っていた。結果的に、入り口の前に大きなクレーターを生成しただけだったことになる。

 篤紫が扉に近づくと、ヒスイが先に走っていって篤紫が穴を空けようとしていた場所の前にしゃがみ込んだ。そのまま顔だけ篤紫の方に振り返る。


「どうかしたのか、ヒスイ? もしかして代わりに穴を空けてくれるのか?」

 ヒスイはコクコクと頷くと、扉の方を向いておもむろに指を突き刺した。篤紫は思わず目を見開いた。

 まるでバターをナイフで切るかのように、ヒスイの指がスーッと扉に刺さっていく。そのまま下端から、立ち上がりながら真っ直ぐ上に切れ込みを入れていき、軽く上に手を伸ばした状態から、横に切っていった。


 コトン、という音とともに高さ四十メートルある扉の下端が四角く切り取られた。ヒスイは一旦扉から手を離すと、手をついて切り取った扉の欠片を奥に押し込んでいく。篤紫の見ている前でヒスイが奥の方に消えていった。


「なんともあっさりと、切り取れるんだな……」

 時間にして十秒くらいだと思う。呆然と穴を眺めていたら、中からヒスイが戻ってきた。

「ありがとう、ヒスイ。付いていけばいいのかな?」

 頷いて先に歩き出したヒスイに、少し屈みながら着いていく。通ってみて分かったのだけれど、扉の厚さは一メートル近くあった。それをヒスイは軽々と切り取ったということだ。

 この建物がダンジョン壁と同じ扱いだとすると、篤紫の手持ちの道具ではそもそも切り取れなかった。


 中に入ってから、念のため切り取ったドアの角を元の位置に押し戻した。

 この大きさだと人間サイズでないと入ることはできないけれど、念のため塞いでおくことにした。

 といっても、普通に竜人族が扉を開ければ問題なく開けられるのだけれど。


 入った場所は、エントランスホールになっていた。確かに、黒竜族の領事館に行ったときと、同じ構造になっている。ここから左の廊下を進んだ先に、会議室があったはずだ。

 ただ、さすがに他の場所は知らないため、あとの案内はセイラにお願いしないといけない。

 篤紫は腰元から魔神晶石を取り出すと、馬車を展開させた。



「篤紫さん、魂樹の登録。全員終わったわよ」

 馬車の扉から大樹ダンジョンの中に入ると、桃華が手持ちの籠を持って待っていた。中には厚手のタオルが敷かれていて、ナナナシアが静かに寝息を立てていた。


「ありがとう桃華。セイラさんは……?」

『私はここにいるわ。桃華殿から話は聞いていたわ。領事館に着いたのね?』

 振り仰ぐと、セイラが仁王立ちして立っていた。無事元気になった姿を見て、篤紫は安堵の息を吐いた。瓦礫に倒れたときに頭を打っていたようだったから、けっこう心配はしていた。

 あの……スカートの中、ピンク色のパンツが見えているよ?

 ただ気にしていると話が進まないので、取りあえずパンツは気にしないことにした。


「ああ。無事に中に入れた。ソウルブロックの場所まで案内して貰ってもいいかな?」

『もちろんよ。あなたたちは、命の恩人よ。ナナナシア殿が星に還るのに、手つかずのソウルブロックが必要なのよね?』

 白竜族のソウルブロックは、完全に竜人のネットワークから切断されているはず。

 フェイメスに連絡した時にしっかりと確認は取った。竜晶石を管理している白竜系の竜人族は、竜晶石に直接ソウルメモリーを繋ぐことで、竜晶石に魔力が込められるようになる。

 つまり、白竜領のソウルブロックに接続していた竜人は、これで全員が外れたことになる。



 ソウルブロックは、思ってもいないところにあった。

 エントランスにはいってすぐ。正面の壁に埋まっている大きな石がソウルブロックだと聞いた時に、篤紫と桃華は思わず半眼で固まった。


『街に住んでいる竜人達が気軽に魔力を補充できるように、どこの領都でも領事館のエントランスに置いてあるのよ

 ここの白竜領では、この白濁した石がソウルブロックよ。

 でもおかしいわね……何だか輝きが鈍いわね』

「ああ。暴走して、魔獣のドラゴンを生み出し続けていたみたいだからな。

 ソウルブロックとして残っているのは、ここのだけだし」

 見上げると二十メートルくらい上にあったので、セイラの手のひらに乗せて貰った。


 近くに寄ってみると、まるで真珠のような柔らかい光沢を放つ石だった。

 篤紫と桃華は二人して首を傾げた。

「どうすればいいのかしら。ナナナシアちゃんの手を持って触れればいいのかしら?」

『もう、私達はこの石と繋がっていないから、何もできないわ』

「とりあえずやってみるか」

「そうね。篤紫さん、お願い。籠を持っていて貰えるかしら」


 セイラがソウルブロックの前まで両手に乗せて運んでくれた。篤紫が籠を持って近くに寄せて、桃華がナナナシアの手を持ってソウルブロックにゆっくり触れた。

「えっ……」

「はっ?」

『消えたわ……ね』


 するっと。

 本当になんの予備動作も無く、ナナナシアは石に吸い込まれていった。

 三人は、その場で呆然として固まった。


「えと……星に、還ったんだよな……?」

「……ええ。そんな気がするわ」


 苦労してここまで来た割に、あっけないものだった。


 そして、篤紫のスマートフォンから着信音が鳴り出した。


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