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白崎篤紫は普通の世界旅行がしたい。  作者: 澤梛セビン
三章 アウスティリア大陸
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三十六話 妖精の容態

新章に入りました。


無事海の上に出たようです。

 朝日に照らされて、綺麗な珊瑚礁が広がっていた。

 商館ダンジョンから起き出した篤紫は、氷船の甲板で大きく伸びをしていた。と同時に、軽いため息をついた。


 オオエド皇国に行き先をセットしたのもつかの間、案の定出発直前になって、行き先が変更された。

 アウスティリア大陸。マップにそう案内があったその大陸は、いわゆるオーストラリア大陸だ。確かにオオエド皇国がある北半球に向かうより、せっかく近くにあるのだから寄っていこう、的な判断は分かるのだけれど……。


「篤紫さん、おはようございます。エアイズロック楽しみですね」

「おとうさん、おはよう」

「……エアーズロックだよ、お母さん」

 しばらくすると、徐々に家族が起き出してきた。挨拶を返すと、女性陣は朝食を作るために甲板下のキッチンに向かっていった。


 ガンッ、ガンッ――。


 妙な音がし始めたので、甲板の縁まで行って、海を見下ろしてみた。そこでは、全身を棘に覆われた魚型の魔獣が、氷船に体当たりをしているところだった。ただ体当たりする端から、魔獣の棘が砕けていた。

 篤紫は首を傾げると、再び遠くの綺麗な珊瑚礁に視線を向けた。

 船から観光するには最適だけど魔獣の領域だと、潜水は無理そうだな……。


「おはようございます。何か考え事ですか?」

「タカヒロさん、おはようございます。本当はオオエド皇国に向かいたかったんだけど……プッ」

 振り返ったら、タカヒロがオルフェナを抱っこしていたので、思わず吹き出してしまった。

 いや、絵にはなるんだけど、あまりタカヒロのイメージになかった。まだ縫いぐるみじゃないだけ良かったと思う。

 ちなみにミュシュは、さっきシズカが抱っこして行った。


『篤紫が何を考えているか分かるが、これでもユリネと取り合いをして、タカヒロが勝ったのだぞ』

 もう駄目だった。篤紫はその場で崩れ落ちて、肩をふるわせるしかなかった。


「オルフェナさん、篤紫さんは調子が悪いのですね」

『ふむ。さすがだなタカヒロ』

「篤紫さん、タカヒロさん。朝ご飯にしますよ」

 ちょうど朝食に呼ばれたこともあり、タカヒロはオルフェナを抱えたまま、甲板下のリビングに下りていった。


「反則でしょ、タカヒロさん……」

 篤紫もお腹を抱えながら、甲板下のリビングに向かった。

 誰もいなくなった甲板には、氷船の側面を攻撃指定魔獣の、悲しい鳴き声だけが響いていた。




 朝食を終えて、篤紫は商館ダンジョンに来ていた。

 目の前の、ずっと眠ったままの妖精コマイナを見ながら、首を傾げていた。


「篤紫さん。操船をタカヒロさんとユリネさんに任せて、本当に大丈夫なのかしら?」

「景色を見ながらゆっくり氷船を走らせても、夕方までにはアウスティリア大陸に着くから、操作に慣れるためにはいいと思うよ」

「夏梛とカレラちゃん、シャーレも喜んで操舵室に上がっていったわよ」

「……だ、大丈夫だよ。きっと」


 ミュシュを抱きかかえた桃華が、心配そうに妖精コマイナを覗き込んできた。

 家族みんなにも頼んで、妖精コマイナの様子を見て貰っていたのだけれど、ワイバーンに攫われた辺りから一度も目を覚ましていない。


「いくら見ても、体内の魔力は正常に流れている。現状は、自然に目が覚めるまで待つしか無い状態かな」

「もどかしいわね。不調の原因さえ分かれば、何とかしてあげたいのだけれど。

 眠っているだけで、苦しんでいる様子が無いのよね」

 よく見ると、胸の辺りが小さく上下している。寝顔すらも穏やかで、一見何も問題ないように見える。ただ、元がダンジョンコアということもあって、普通の生き物と同じように捉えることはできない。


『……むにゅ……』

 桃華の腕の中にいるミュシュが身じろぎした。目を開けようとして開かないのか、ウサギの手で一生懸命目をこすっている。

 女性陣全員にかわいがられていたから、それなりに疲れたのだろう。それでも嫌な顔一つせずに、みんなに嬉しそうな顔を向けていた。

 ずっと一人で機械の相手をしていた。やっぱり寂しかったと思う。


『……あ、桃華さん。ごめんなさい、わたくし寝てしまっていたのですね』

 くりくりの目で桃華を見上げた。桃華はミュシュ抱きかかえたまま、優しく頭を撫でている。


『ところで……あの……そこの女の子、調子が悪いのですか?

 昨日から気になっていたのですが、ずっと電波を発信していて、発信元の脳がすごく熱くなっているみたいです』

「電波? 待って。魔力波じゃ無くて、まさかの電波なのか。

 ということは、ミュシュには電波が見えるってことなのか?」

 突然篤紫が大きい声を出したからか、ミュシュが目をつぶって頭を抱えた。長い耳がしゅんと垂れ下がった。


「篤紫さん?」

 当然ながら桃華に叱られて、今度は篤紫が小さくなった。

 電波は全く想定していなかった。そもそも魔道具はあっても、機械は一切無い世界だ。腰元にあるスマートフォンですら、魔力波で世界中が繋がっている。それだけ、魔力を元にした魔法文明がすごいのだけれど。

 それがまさかの、電波。


「ごめんミュシュ。糸口が掴めたんだ。

 つまり、コマイナが起きないのは、電波を飛ばしていてその先の何かが掴めないからなんだな?」

『そう……だと思います。

 そもそも外に出てびっくりしたのが、周りを見回しても一切電波が飛んでいないことなのです。

 わたくしのあやふやな記憶からの判断なのですけど、コマイナさん? から出ているのは、通信系の電波に間違いないです』

「ありがとう。ミュシュ、助かった」

 篤紫はミュシュの頭をそっと撫でると、桃華に目で合図をしてその場から駆け出した。


 商館ダンジョンから扉を抜けて、馬車、氷船の甲板を経由して操縦室に飛び込んだ。

「あらら、篤紫さん。船の操縦って思いの外楽しいわね」

「タブレット持って行くよ。しばらくマップが無いから、みんなでゆっくり操船の練習でもしていてもらえないかな」

「はいはい、分かりましたよ。

 篤紫さんの許可が下りたので、三人も操船してもいいわよ」

 ちょうど操船していたシズカに断りを入れて、操縦桿の前にあったダブレット端末である魂根を持ち出した。


 待って、いま聞き捨てならないセリフが聞こえたぞ……?


 まあ、氷船はいまスローモードにしてあるから、暴走する危険性は無いか。夏梛やカレラ、リメンシャーレが操船しても大丈夫だ。

 急いで来た順とは逆に、商館ダンジョンまで駆け抜けた。




 商館ダンジョンのリビングに戻ると、妖精コマイナはコア台から小さなベッドに移動されていた。頭には、小さな氷袋が乗せられている。

 ベッドの横では、桃華が膝立ちで氷袋に魔法を使っていた。その隣では、ミュシュが心配そうに妖精コマイナの顔を覗き込んでいた。


「これから遠隔で、コマイナダンジョンの一部を書き換えるから、二人はコマイナを熱くなりすぎないように見ていて欲しい」

「わかったわ、冷やし気味でいくわね」

『……えっと。何もできませんが、わかりました』

 思わず篤紫は、ミュシュの頭を撫でていた。やっぱりこの子はいい子だ。

 見た目は金属の光沢なのに、相変わらず手に触れた感触はサラサラだった。


「そう言えば篤紫さん。前は眼鏡をかけていたはずなのに、いまは眼鏡をかけていないのかしら?」

「え、今さら?」

 篤紫は思わず転けそうになった。無意識に放り投げていたタブレットを、慌てて受け止めた。


「眼鏡は、ワイバーンに攫われた辺りから無いんだよ。

 不壊処理していないし、帰還登録もしていなかったから、今頃バラバラになっているんじゃないかな」

 実はあれが、試験的な着替えの魔道具だったんだけれど、汎用性が無かったから今のイヤホンジャックに刺すタイプにしたんだよな。


「結婚したときからずっと眼鏡かけていたから、ないと違和感あるわね」

「わかった、コマイナが元気になったらまた作るよ」

 伊達眼鏡だけどね。


 あらためてタブレットを目の前に持ってきた。


 待っていろよ、妖精コマイナ。すぐに元気にしてやるからな。


まさかの、電波。


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