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白崎篤紫は普通の世界旅行がしたい。  作者: 澤梛セビン
六章 迷宮王国アディレイド

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百七話 こんなの絶対にダンジョンじゃない

 車から降りたところで、目の前の光景に篤紫は思わず肩を落とした。

 ちょうどと言うか、車を停めた豪邸のすぐ近くに、件の塔がそびえ立っている。塔から見ても、正面入り口左側にあるこの豪邸は、はっきり言ってやんごとなき身分の人が使うための駐車スペースだと言うことは理解できた。

 コテージだと説明があったはずなのに、普通に豪邸が建っているのだ。


 まあ、それはいい。

 さっきの桃華の説明から、ある程度は予測できていた。

 ただ問題は、塔の入り口。塔に入っていく探索者が、全て車で中に移動していることだろう。誰一人として、徒歩で塔に向かっていない。


「なぁ、桃華……あれっていったい、どういう光景なんだ?」

 後ろから篤紫に続いて車を降りてきた桃華が、塔を眺めている篤紫の隣に並んだ。


「何って、見たまんまよ。このタワーダンジョンは、中は基本的に車で移動するのよ。探索範囲が、徒歩で移動できるような広さじゃないってことかしら」

「いや、ダンジョンなんだろう? そんな意味不明なダンジョン聞いたことがないぞ」

「でもここだけが例外みたいよ。他の街中にあるダンジョンは、普通に徒歩でしか入ることができないみたいだから。

 それにしたって、入り口付近にはちゃんと車の駐車場が完備されていて、探索から戻って来たときに、荷物を車に乗せて帰ることができるみたいなのよ」

「聞いているだけで、お腹いっぱいになってきた……」


 桃華は『待ってて』とだけ言うと、カードを持って豪邸の玄関口に向かった。玄関でたぶん認証だけ済ませたのだろう、すぐに魔神晶石車に戻って来た。

 それをぼーっと見ていた篤紫は、ヒスイに服の袖を引かれて再び車の中に戻った。


「えっと、桃華はこれからダンジョンに行くんだって?」

 ヒスイがコクコクと頷く。

 袖を引かれて車内に入ると、既に桃華が定位置に座っていた。時間操作で先回りされたらしい。

 篤紫が桃華の横に座ると、ヒスイの運転で車が動き始めた。ちなみにオルフェナは、運転席横の籠でずっと座っていたらしい。

『わざわざ車を下りなくても良かったのだぞ。どうせすぐに出発することぐらい、分かっていたであろう』

 前が見えないと不便だと思い籠ごと持ち上げたら、ヒスイが意を察してダッシュボードを変形させてくれた。その上に、オルフェナが乗った籠を乗せると、落ちに異様にしっかりと固定したようだ。

 よし、これで羊車の完成だ(謎)


 車が路上に出ると、後ろでシャッターが閉まり始めた。

 何だか分からないけれど、全てが自動らしい。無駄に先進的な設備に篤紫が目を見開いていると、隣で桃華が電話をし始めた。

 どうやら、シズカとペアチフローウェルに連絡を取っているようだ。途中でスマートフォンの上にアディレイド王国案内小冊子を乗せて、その上にカードを載せて上からタップした。

 小冊子とカードが水色に光り輝き、すぐに光が収まる。

 その後少し話をすると、電話を切ったようだ。


 あ、もう一回同じ作業をするのね。


 たぶん最初に電話した先がシズカで、二回目がペアチフローウェルなのだろう。

 てか知らなかったんだけど、何気に小冊子って重要なアイテムだったの?

 道理で桃華が小冊子を大切に扱っているわけだ。ここに入る門でカードを手渡されただけだったのに、当たり前のようにここに案内された理由は、小冊子に何か魔法的な機能が備わっているからなのだろう。




 アディレイドタワーダンジョンには、スムーズに向かうことができた。

 渋滞していたのは駐車スペースに向かうときだけだったようで、ちょうど前を通過していく車を見送った後、すぐにダンジョンに入ることができた。

 常時開かれているタワーダンジョンの門をくぐると、一瞬の目眩の後に景色が一気に変わった。


「いや、いやいやいやいやいや駄目でしょ、これは」

 まるでテーマパーク。色鮮やかに街並みが目の前に広がっていた。

 車が五台くらい並んで走れるほどの大通りが、まっすぐにお城まで続いている。遠目に見ても巨大な城だ。そのお城は中央下側が半円に抉り取られていて、そこに透き通った緑色の石が鎮座しているのが見えた。

 お城の前には、車が七台ほど駐車している。


 道の左右に並んでいる街路樹は、まるでガラスでできているかのように透き通っていて、枝葉が煌びやかに発光していた。

 さらにその周りに立ち並んでいるのは、どう見てもお土産屋さん。ただ、中には人型に近い容姿の魔獣がいて、普通に売り子をしている感じだった。まさにカオス。

 道路脇には車が停められていて、店では探索者が普通に買い物をしている。


「もう、帰っていいかな……」

「篤紫さんちょっと待って、まだ中にすら入っていないわよ。ここはあくまでも、入り口前のエントランスなんだから。

 小冊子によると、あそこに見えている魔王晶石に魔力を注ぐことで入場手続きが完了するんだって。昔は、魔石を一人一個ずつ入れてから入場していたみたいね」

「……うわ……マジか、本当にここってテーマパークなのか……」


 車がゆっくりと進んでいく。

 篤紫は既に何が何だか分からなくなってきていた。


 普通はダンジョンコアはダンジョンの要、ダンジョンマスターが最奥階層で厳重に守っている。それが、入って見える場所に完全に露出しているのだ。

 さらに、魔力を注げだと? アホかと。魔力を注いだら、普通はマスター権限が移動してしまうじゃないか。

 それなのに、ここで魔力を注いでいくらしい。

 常識がどこかに飛んでいった。


 お城に近づくと、予想以上に大きい。

 目測で千メートル以上はあるように見える。窓一つ取ってみても縦枠だけで十メートル以上ありそうだ。どのパーツも至極精緻に作られていて、巨大な建造物として、非常に高い完成度を見ることができた。

 ただ実際に誰かが住んでいるわけでも無く、実体はお城の形をした超巨大なオブジェクトだったりする。


 当然ながら魔王晶石も遠目に見ていた時より遙かに大きい。

 車を停めて、こちらは普通サイズの階段を上ってお城の下まで行くと、ここでも見上げる程大きい魔王晶石が篤紫たちを出迎えてくれた。

 直径は二十メートル、歪な卵形のそのダンジョンコアは、今も探索者数人が魔力を注いでいる真っ最中だった。


「注ぐ魔力量は、お好みでいいんですって。注いだ魔力量によって、形成されるダンジョンが変わってくるわ。

 逆に、脇の階段から進める上下のメインタワーは、魔王晶石関係なく進むことができるわ。魔王晶石ダンジョンに入る時には、魔力を注いだ後に車に乗って裏手に回ると、ゲートがあって開く仕組みよ」

 つまり三種類のダンジョン形態があると言うことなのか。

 上下のダンジョンは徒歩で、魔王晶石で起動したダンジョンに関しては車で移動する仕様だと……滅茶苦茶だ。


 確かに、車で移動した方が楽だから、手続きだけして魔王晶石ダンジョンに向かう人が多いのだろう。

 そうなると、通常通り徒歩で進んでいく上層と下層のダンジョンは行く人が少ないどころか、そもそも人が行かないんじゃないのか?

 そりゃあ、一週間に一回スタンピードが起きるって言われても、当たり前に納得できる。人間誰しも、楽な方に進みたいものだからな。


「そんで、俺たちは魔王晶石ダンジョンに向かえばいいってことなのか?」

「そうね。上と下は私達の家族が他の探索者に配慮しながら殲滅していると思うから、任せておけば問題ないと思うわ。

 タワーダンジョンの都合で三種類のダンジョンがあるけれど、魔物素材や鉱物資源、そのほか加工の原材料になるものを入手するだけならば上層と下層のダンジョンに行くのが一番都合がいいみたいなのよ」

 階段を上って少し歩くと、巨大な魔王晶石の下に着いた。


 相変わらず、五つくらいのパーティが魔王晶石に魔力を注いでいた。

 よく見ると、パーティ全員が必ず隣の人に触れながら、魔王晶石に手を当てている。中には、小冊子を全員で持ったまま、魔力を注いでいるパーティもある。


「篤紫さんちょっとしゃがんで」

 言いながら桃華がしゃがむと、オルフェナに乗っていたヒスイが横に飛び降りた。桃華はオルフェナの背中に小冊子をそっと乗せる。

「オルフには鼻先で魔力を注いで貰うわ。篤紫さんとヒスイちゃんには、この小冊子に触りながら魔力を注いで貰えるかしら?

 オルフェナの背中に直接触ってもいいんだけど、小冊子があると世界形成の際の精緻さにかなり違いが顕れるらしいわ。せっかくだから、条件がいいダンジョンに向かいたいから、お願いね」


 ヒスイがさっそく小冊子に触れながら、魔王晶石に触っている。

 篤紫も特に反対する理由も無いので、小冊子に触れながら魔王晶石に手を当てた。そして、次の瞬間に激しく後悔することになった。


 魔王晶石に触れた途端に、ごっそりと魔力が吸われていく。

 完全に想定外だった。


 魔力自体はすぐに回復するから、無くなる分には問題は無いと思う。

 ただ『魔力を流す』と言われていたから、正直この状況に戸惑いを覚えた。篤紫としても、触っただけで魔力を一切動かしていない。

 それなのに、もの凄い勢いで篤紫の魔力が吸われていっている。


 隣を見ると、先に魔王晶石に手を触れていた桃華が、大きく目を見開いていた。

 そのまま足元を見ると、鼻先で魔王晶石に触れていたオルフェナは鼻が離れないのか、必死に顔を動かしていた。

 さらにその隣で魔王晶石に触っていたヒスイも、たぶん同じように魔力が吸われているのだろう。首だけ篤紫の方に向けて、困ったような空気をだしていた。


 ごめんみんな。やっぱり、何か問題が起きたらしい。


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