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06 オーガの森へ

 少しの休憩の後、俺たちは森の奥へと進んでいた。

 オークは浅い所に多く生息しているようで、奥に進めば進むほどエンカウント率は減っていった。


「兄さん、そろそろ警戒してね。今後は、絶対にハイドが成功する保障なんてないんだから。初めてのものは全部警戒することを癖づけて。できれば、安全地帯の外では、警戒し続けられればいいけど。PKに襲われるかもしれないから」

「了解だ。でも、【旅行安全】でPKに襲われたらステータスが上昇するし、そうそう俺を見つけられるような奴がいるとは思えないけど」

「なに甘い事言ってるの、お兄。先手を取られて麻痺かけられたら、即死だよ、お兄紙装甲なんだから。それにこのあたりのモンスターがお兄よりもレベルが高いから忘れてるようだけど、お兄よりもレベルの低い相手にはかかり辛いんだよ、お兄のハイド」

「お、おう。分かった」


 アリサに凄まれると、ものすごく威圧感がある。

 長身、銀髪の狼娘。おまけに美形。俺を殺す気か。


 だが、実際、俺がここまでうまくモンスター相手に立ちまわれているのはマサのおかげだ。俺のレベルがあたりのモンスターのレベルを超えないように、うまく調整して俺を連れ歩いてくれている。

 感謝感激雨あられ。


 俺が楽しめる範囲で、丁度良く俺が強敵に挑む快感を覚えられるように導かれている。まさにゲーマーによるゲーム漬けへの調教だ。


 しかし、周りを見渡すとあたり一面、木ばかりだ。

 近くの木の幹を触ってみる。


 木の皮の感触。それに若干感じられる湿り気。

 森の匂いもしっかり感じられるし。


 これで時たま遠くから聞こえるモンスターの咆哮さえなければ、ここでのんびりしたいのに。


 【索敵】にモンスターが引っ掛かった。2時の方向、50メートル! ってやつだな。


「よし、一体目のオーガだね。あいつはアリサに任せて、僕と一緒に見ておいて。兄さんは初見でオーガとは戦わせられない。ここで死に戻られたら時間も食うし。しっかり観察しておいて」

「了解だ」

「じゃ、アリサ。頼んだ」

「オッケー、じゃ、ゆっくり片付けるね」


 どうやら、アリサは俺が観察するためにじっくり時間をかけてくれるらしい。

 ありがたや。


 アリサがテッテテーとオーガへと近づく。


 オーガは巨大だった。身長は三メートルはあるだろう。大きな口に額には一本の角。

 角もあるし、これなら鬼として認識されるかな。いや、角があれば鬼だと認識されるなら、鹿もユニコーンも鬼になってしまうか。


 ……ああ、そういえば、【鑑定】!


 【鑑定】

 <オーガ>LV.10

 ――【鬼退治】特攻対象です。


「マサ、オーガに【鬼退治】効くみたいだ」

「うん、ちゃんと【鑑定】で見たんだね、えらいえらい」

「ああん?」

「いやね、そろそろ何でもかんでも教えてあげるだけじゃダメかと思ってね。兄さんが自分で気づいてくれた方がいいこともある。今後の冒険はソロで行くつもりでしょ? 兄さんは」

「そうだな。ありがとう、いろいろ気遣ってくれて」

 

 そうこうしているうちに、アリサはオーガの目の前に到着していた。

 だが、オーガはアリサに気付いていない。【旅行安全】のスキルはオーガにも効いている。


「おーい! 始めるよー!」

 

 アリサがこちらに振り向いて大きく手を振った。

 何やってるんだ、あいつは。モンスターの目の前で。

 いや、あいつのことだ。大丈夫なギリギリのラインを分ててやってるんだろう。


「よいしょ!」

 

 そんな可愛らしい掛け声とともに振り切った拳は、一撃でオーガの膝をぶち抜いた。


 突然のダメージに、オーガは咆哮を上げ、大地に倒れこむ。


 なんだ、あの攻撃力は。一撃であんなでかいモンスターの身体をぶっ壊すとか、パないぞ。

 ゆっくりやるとか言ってた割に、遠慮なくいったな、おい。


 オーガのHPを見れば、今の一撃で2割ほど削れていた。


 攻撃力が高い……しかも、アリサが攻撃するたびにほとばしるエフェクトがいちいち派手だ。あれは、ダメージ判定の赤いエフェクトだけじゃない。いろいろとスキルを使って戦っているんだろう。

 しかも、スキルとスキルの間の無駄がない。あれはきっとアリサ自身がしっかりと体の状態を分かってつなげているんだ。


 アリサとの戦闘を見ていて、オーガで気を付けるのは巨大な体躯と鋭い爪くらいだというのは分かった。あとは首を狙うなら牙だな。角はどうやら弱点らしい。早々にアリサにへし折られて悶絶していた。


 オーガの行動パターンは分からないが、巨体に似合わないスピードと一撃の重さに気を付けて、今まで通りにダメージを喰らわないように動けば攻略はできる。

 どれだけのダメージが入るかがネックになるか。


 アリサは地面に倒れてまともに動けないオーガの頭を拳で沈めて、戦闘を終わらせた。


「どう、兄さん。やれそう?」

「大丈夫。やれると思うよ」

「じゃ、次はダメージが通るかどうかの確認だ」

「SPが8残ってるけど、【鬼退治】のレベルを8まで上げればいいのか?」

「ううん、ある程度戦闘に余裕が出るところまででいいよ。今後、ソロでもやっていくなら、【鑑定】【採取】【索敵】とか、他にも上げておかないといけないスキルはたくさんあるから」

 

 そうだよな。攻撃の威力だけ上げるだけでは、この先の冒険がつらくなるもんな。



「私がタゲをとって、適当に避けとくから、攻撃するときと、抜ける時は声かけて」

「わかった」


 近くにいた二体目のオーガで俺のための実験が始まった。

 アリサの職業の闘拳士には相手の注意を引き付けるスキルがあるらしく、それでアリサと戦闘をしている間に、俺のダメージの状態を見るらしい。


「いっくよ――そい!」


 アリサの掛け声から戦闘が始まった。

 赤いエフェクトがアリサの身体から立ち上る。

 どうやらこれでターゲットはとったらしい。


 俺は<鳥>と<風>を抜刀する。

 攻撃力が高いのは<鳥>の方だ。

 

「攻撃するぞ!」

「どうぞー」


 AGIに任せてオーガめがけて突っ込み、二刀を振り切った。

 一つだけの赤と金のエフェクトを横目に、俺はそのまま走り抜けた。


「抜けた!」

「了解」


 どうやら、俺が攻撃しても、ターゲットは移らなかったらしい。


 だが、これは……

 特攻ダメージしかもクリティカルこみでも微小だ。

 しかも、ダメージが通ったのは<鳥>だけだ。

 <風>ではダメージを与えられなかったということか。


「アリサ、もう一回!」

「ほいほーい」


 先ほどと同様に切りつける。

 今度はどちらともダメージが通らない。


「抜けた」

「了解」


 <鳥>はクリティカルで総ダメージがおよそ2倍になってようやく、オーガの防御力を上回ることができる。

 <風>は分からないが、<鳥>よりも攻撃力は低いため、あまり期待はできないか。


 俺はマサの元へ戻った。


「クリティカル入って8ダメージだね」

「何でそんなことわかるんだ?」


 そんな数値はどこにも出ていない。


「【鑑定】だよ。レベルを上げると見えるようになるんだ」

「ほう、やっぱりそう言う基礎の部分もレベルを上げないといけないのか。で、8ってどうなんだ?」

「いい方だと思うよ。たぶん、平均的なステータスのレベル十のプレイヤーと同じくらいのダメージだと思う」

「クリティカルと特攻入れて、ようやく普通の人と同じ威力ってことか」

「うん。特攻ダメージが3倍くらいになれば倒しやすくなると思うよ」

「今が2倍だから、えーっと、とりあえずメニューを開いて、【鬼退治】のレベルを上げてっと、2.2倍になったな。ってことは、レベル6まで上げれば大丈夫か。SPは8あるからいけるな」


 これでも、クリティカルが入らなければダメージが入らないのは変わらないが。


「よし、行ってくる!――アリサ、もう一回!」

「待ってました!」


 アリサはまるで鬼ごっこでもしているかのように、オーガの攻撃をよけ続けている。いやもう、本物の鬼とやってるのだから、ごっこじゃない。


 これでどうだ!

 二刀は、赤と金のエフェクトを散らしながら、オーガの脚を切り裂いた。

 それを確認して離脱する。


「離れた! もう大丈夫」

「じゃあ、倒しちゃうね! それ!」


 ぶっ飛ばされるオーガをしり目に納刀する。

 確かな手ごたえを感じた。この二刀で、オーガのHPの3割を削っていた。


 ようやく、確かなダメージをこの手で与えることができた!

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