幕間 天使の暇つぶし
天使ナンバー77番。
あれだけ時間のかかっていた彼女が担当したプレイヤーたちも、その多くはすでに冒険に旅立った。
未だ、あれこれやっているのは残り2人。
これで、かなり仕事も楽になった。
あとはチュートリアル後にアイテムを渡せば、仕事はいったん終了。
今後は、不埒な行動をプレイヤーが取らないか、監視を続けるのが主な任務だ。
『おっと、あの子、チュートリアルが終わったのね』
先程送り出したプレイヤーがチュートリアルを終わらせたことが知らされる。
登録名は確か、コハクだったか。
アバターの作成でやりたい放題やった子。
あのステータスでは、ろくな冒険すらできないだろうに。クククッ
『プレゼントを渡さないとね。どれから選べばいいかしら』
チュートリアル終了時にはアイテムをあげることになっている。ポーションから性能のいい武器まで。
一応、ランダムではあるのだが、余りにも悲惨なステータスのプレイヤーには、何かしらの補填が付くよう、担当の天使が決定権を持っていた。
『あらら、用意されている中では最高ランクの物ばかり、どれだけLUKにつぎ込んだんだか』
名称がびっくり宝箱なんていうふざけたものなだけはあって、LUK値もきちんと含まれてアイテムが選出される。
コハクに与えられるアイテムは、R+ランクのものだった。
いくつかランダムにアイテムが抽出され、その中から77番が選ぶことになる。
『うーん、あんなステータスなのに、ソロで冒険するみたいだし、武器の方がいいわね。攻撃力アップのアクセサリーとか支援系の護符なんてあげちゃったら、ひどいことになるわ』
そのことはコハク自身も分かっているのか、性能のいい武器が来ることを、運営様システム様どうかお願いしますだとか何とか言いながら、<びっくり宝箱>を開いている。
77番はいくつかの選択肢の中から、名刀セットを選択した。
選択肢の中に唯一あった武器が、この<花鳥風月>のみだった。
四振りの刀それぞれに一つずつスキルが付与されている、かなり性能のいい武器だ。
もっと攻撃力のある武器を選んであげられれば良かったのだけれど、選択肢になかったのだから仕方がない。
でも、なんだか喜んでいるようなので、良しとする。
『まったく、あんなバカ神にお願いするくらいなら、私にしなさいよ。あんたの面倒見てるの、私なんだから』
運営様もシステム様も旅の神のこと。
神なら今頃は、地上でどこぞの国王と密談を交わしているころだ。
そんなものに祈りをささげても、何の意味はないというのに。
自分の仕事も落ち着いたことだしと、少しこのプレイヤー行動に興味を持ったので、監視ではなく観察することにした。
『へぇー、座敷童の【気配遮断】って結構性能いいのね。NPCにはほとんど認識されてないわ』
コハクの同行者2人にはかなり視線が集まっていた。
当然、気配を消すスキルを持っていないことに加え、あれほどの美形ならば視線を集めるのも当然だ。
それに引き換え、コハクはと言えば、誰の視線も集めない。
たまに駆け出しのプレイヤーの目に留まるのは、装備がコハクの気配遮断の足を引っ張っているからだ。
しかし、77番がかなり好き放題した結果、同行者以上の美形に作られているのに、ここまで気配を消せるとは。
77番ですらも驚きだ。
『ええー、でも、それはずるいんじゃない? なんでそんなに存在感薄いのよ。ほら、馬鹿イノシシ! 右よ、右! 何で気付かないのよ!』
あまりの気配のなさに、攻撃を受けたモンスターですら、気付いていない。
未だ霊体系のスキルを持っていないのにもかかわらず、すごいものだと77番も感心する。
『スキルの効果以上に気付かれにくいわね。自前のプレイヤースキルってことかしら』
『それよりも、あんた、どんだけクリティカルを連発すれば気が済むわけ? ちょっと、弱点攻撃のほうが出しやすいですって? だめよ、そんな奴のいうこと信用しちゃ。言ってる事おかしいから、そいつ――ああ、もう、だから、何でそんなに連発するのよ!』
一度、町に戻ってきた彼らは、どうやら武具を揃えたいらしい。
『ちょっと、あんたがそんな町の行商屋で買ったりなんてしたら、この先の冒険が続かないわよ、まったく』
ただでさえ、低いステータスなのだ。
防具やアクセサリーはきちんとしたものを揃えなさいよ。
何とか伝える方法はないかと探ってみると、なんと【縁結び】という天上から干渉できるスキルを持っている。
『なるほど、座敷童だもんね。元は幸運の女神の僕。今はただの精霊族に堕ちてしまったようだけど、天上とのパスが通っていてもおかしくはないわ』
『ほら、こっちよ、こっち。ここにいいところあるから。ほら、見える? この光の方よ!』
始まりの町で最も品のいいものを揃えている店に案内した。
なんだかこのプレイヤーにかなり肩入れしてしまっているように感じるけれど、自分の給料のためだ。いたし方がない。
旅の神には、彼らはこの世界をゲームだと認識して、ゲームをしに来ていると伝えられている。
でも、ここはゲームじゃないから、公平じゃないの。
私が干渉してあげられるスキルを取らなかった自分を恨みなさいな。
気分はできの悪い息子を導いている感じ。
子供はいないし、結婚すらしていないけど。
こんなブラックな部署では交際する時間すらないし。
『よし、そこよ、行ってらっしゃいな』
こんな感じで、旅の神だけではなく、天使は天使でそれぞれ楽しんでいる。