05 モンスターとの戦闘
「よし、この店での買い忘れはないかい?」
「はい、たくさん見繕ってくださってありがとうございました。買い取りもしてくださって……」
「気にすんじゃないよ、<イノシシの上肉>だろう? この辺りじゃそうそうお目にかかれないよ。あれは旨いもんだ、いいものだよ」
「また何かよさそうなものを見つけたら、見せに来ますね」
マサには無理だろうといわれていたけど、試しに見せてみたら買い取ってもらえた。
でも、上肉にとどめておいた。それでも、かなりの収入になってしまったのだが。これを極上肉にランクアップしてしまうとどうなるのか。恐ろしくて、試すことすらできなかった。
「ああ、待ってるよ。ああ、そうだ。嬢ちゃんのその刀。それを鍛えたいなら、東の果ての海を越えたところにある鬼の島に行くといい。あんたにその刀を渡した旅の神がそこで拾ってきたもんだろう」
「東の海を越えた鬼の国」
「ああ、ただ、あんたのレベルじゃ、まだ無理だろうがね。50は足りないよ」
今のレベルキャップじゃいけないのか……いや、【鬼退治】が上手くはまればなんとかなるはずだ。
とりあえず、今後は東の鬼の国を目指して進む。その目標ができた。
この後行く予定のオーガが出る森も東の方だったな。東の方には鬼が集まるんだろうか。
鬼門の方角と言えば丑と寅の間つまり北東の方角だ……あまり関係なさそうだな。
「ありがとうございました。それじゃあ、また」
「ああ、またおいで」
木製の重い扉から外に出て、マーヤさんのお店を後にした。
細い裏路地を行きとは反対に進んでいく。
「なんだ、結構いい人だったな」
「お兄は結局、人見知りモードのままだったけど」
「しゃあないだろ、早々、治ったりはしないよ」
「さてと、マーヤさんのところで、防具と武器にアクセサリーもそろえたし、後はポーションなんかの冒険に必要なものを買いに行こうか。それならそこらの雑貨屋でいい。今のところ店ごとにそう変わるものじゃないから」
「じゃあそれを買ったら、冒険のスタートだな」
「いやー、兄さんがいると、探索が楽だなー。モンスターが向こうから寄ってこないし、クリティカルは出やすいし、HPは勝手に回復していくしなー」
「なにが言いたい」
「うんうん、LUKの高い人とパーティ組むと楽しいねー。宝箱とか何が出てくるかワクドキだねー」
「だから、何が言いたいんだ?」
「これで、支援特化なら何も言うことないんだけどなー」
「今のままでも、いろんな人とパーティ組んだら楽しそうなのになー。やっぱり姫プレイしなよ。いろんな人が貢いでくれるよ」
「やらんよ!?」
くだらない雑談をしながら進むのはゴブリンの群れの中。
こいつら、ことごとく俺を無視する。
【旅行安全】のスキルの効果でこちらから仕掛けるまでは、戦闘状態にならない。だから、群れの中にいても、一対一で戦うことができている。
ゴブリンの首めがけて左手に持った<風>を振る。
赤黒いのと金のエフェクトが散った。
だんだんと弱点攻撃のコツがつかめてきたみたいだ。
クリティカルと弱点攻撃が両方重なれば、なんとかダメージを与えることができる。
俺のハイドは効いたまま倒しきることができるので、少々もたついても大丈夫だ。
ゴブリンとの戦いで、モンスターと戦うということに慣れておかないと。
俺のレベルも2つ上げながら順調にオーガの森へと歩を進めていた。
「うん、兄さんも戦い慣れてきたんじゃない?」
「まあ、慣れてはきたかな。って言っても後ろから見つからないようにチクチクしてるだけなんだけど」
「ハイドが上手いよ、兄さんは。さすが現実でも人の視線から逃げてるだけはあるね」
くっ、その通り。
だからこの技術が誇れない!
「弱点攻撃も高確率でできるようになってきたね」
「まあ、さっきからゴブリンばっかり斬ってるからな。これだけやれば慣れるよ」
「そろそろ他のモンスターが混じり始めるころだよ」
「他の?」
「オークさ」
「げぇ? あの豚?」
「うん、オークは鼻が利くからね、今までのようにハイドのかかりは良くないかもしれないね。それに体が大きいし、今までは首ばかり狙ってたけど、そのまんまじゃ倒せないよ」
「ハイドの方は大丈夫だと思う。でも首が狙えないならどうすればいいんだ?」
「うんうん、兄さんも順調にUTOにはまっていってくれてるようだね」
マサは嬉しそうにうなずく。
なんだ、そんなに俺とゲームできるのが楽しいのか? うれしいね。
ただし、俺はお前たちについていける気はしないんだが……
「弱点攻撃の前段階として、部位損傷攻撃があるんだ。同じ場所に攻撃し続けるっていうのがね」
「それなら狙うのはアキレス腱のあたりか膝かってことか?」
「そんな感じ。後は、自分が飛ぶかだね。その<鳥>の刀、飛べたりするんでしょ?」
「名前からして察しは付くか」
「このあたりで一度、その刀のスキルを使っておいた方がいいよ。ぶっつけ本番は危ないから。今なら僕らでフォローできるし」
「そうだな。よろしく」
ならまずは【連花】からにしよう。
幻術にかける魔法。幻術ということは、攻撃はできないだろう。残像を残すわけでもなく、分身するわけでもなく、相手の脳内に無理やり幻術を送り込む魔法だ。
とりあえず目の前のゴブリンに試し打ちだ。
【連花】
俺がゴブリンに切りかかる映像をあらかじめイメージしておいて、その幻覚を送り込む。
俺自身も自分の送った幻術の内容をうっすらと知覚するようだ。でなければ連携のとりようがないしな。
幻術を見せているゴブリンを観察する。
正面から切りかかる俺の幻覚にゴブリンは反応した。
【気配遮断】などのハイドに関係なく脳に俺の存在を無理やり送り込んでいるので、ゴブリンは俺の姿を見ることができている。
手に持った棍棒を俺の幻覚めがけて振り回した。
もちろん幻覚なので俺にダメージはない。幻覚の俺が斬りかかったゴブリンにもだ。
だが、だいぶん混乱しているようだ。
これはハイドに使えるな。
効果時間は発動からおよそ10秒。CTは30秒だ。
続いて【飛鳥】。これは分かりやすい。
飛んだ高さは3メートルほど。移動速度は、陸上での移動と同じくらい。体の向きを変えなくても全方向に移動できるな。
でも、空を飛んだ経験なんてないから慣れない動きだ。これは要練習だな。着地の練習も必須。タイミングをミスると、無防備に落下する。
このゲームで初めてのダメージが、着地ミスでの落下ダメージだった。泣ける。
読んで字のごとく【疾風】。
これは、効果記述のまんま。移動速度の上昇。ただし、AGIの上昇とは違って、おれの知覚や思考のスピードは上昇しないため、体の制御が上手くいかない。これも要練習だ。ぶっつけじゃなくてよかった。
そして最後は、お待ちかねの遠距離魔法【月光】だ。
一体のゴブリンに狙いを定めて。
【月光】
<月>を振るう。
光の刃が生まれ、ゴブリンへと飛んでいった。
「あんまり効いてないな……」
「ほら、戦闘中にぼーっとしない」
突然魔法が飛んできて、驚いているゴブリンをそのままにしていたら、マサに怒られた。
でも、あいつ気付いてないし……ごめんなさい、なんでもないです。
マサは一撃でそのゴブリンを消し飛ばした。
「そう残念そうにしなくても、物理防御力の高い相手に使えばいいよ」
「でもなー、せっかくの攻撃魔法だし。もうちょっと活躍の場所というかさ」
「ま、それは兄さんの使い方次第だけどさ。【月光】だけじゃなく、他の魔法にも言えることだけど。間合いには気をつけてね」
「魔法の間合い? 届くか届かないかとかそんな話?」
「それも大事だけど、そうじゃなくてさ。魔法が発動した場所に他のものがあったらどうなると思う?」
魔法が発動した場所に他のものが?
【月光】の刃が発生した場所に、例えばモンスターの体があったとしたら。
「その何かが爆発する」
「残念。魔法が発動しない、でした」
「どうしてさ」
「この世界の魔法というのは、魔力に呼び掛けて発動してるんだ」
「それが?」
「僕にもあのゴブリンにも体内に魔力はある」
「他人の体内の魔力に呼び掛けられますか? って話か」
「そう、僕は勝手に魔力強度って呼んでるけどね。多くの場合、魔法よりもモンスターの肉体の方が魔力強度が高いんだ。だから魔法が撃ち負ける」
「ちょっと間合いをミスって、魔法の発動位置がモンスターの体とかぶると、ピンチってことだな」
「その通り、ちょっと、試してみたら?」
俺は、ちょうど真横にいたゴブリンに【月光】を放つ。発動位置が重なるように。
「たしかに、発動した手応えすらなかったな」
「うん、だから、気を付けてね。こんな近くで魔法を使うことはないだろうけど。もしそうなったら、かなりのピンチだから。あと、めったにないだろうけど、魔法と魔法が重なることもある。そうなったら暴発するよ。気を付けてね」
「了解だ!」
<花鳥風月>のスキル練習のために、ゴブリンを駆逐し、俺のレベルが1あがって満を持してオーク戦となった。
でっかい豚だ。二本足で立つでっかい豚だ。でも、そんなにデブではない。体はすごく引き締まっていた。そう言えば、豚の体脂肪率はものすごく低いらしい。ようはデブは豚ではなかった。つまりは、オークはデブではなかった。
そんなくだらないことを考えていても大丈夫なくらいには、オークとの戦いは楽なものだった。
楽とは言っても、俺に攻撃が当たらないというだけで、俺の攻撃はダメージ量がかなり少ない。
ゴブリンよりもダメージ量が少なくなっている。防御力が高いんだろう。
一体倒すのに、だいたい40回は斬りつけなければならない。
でも、戦ってる相手に気付かれないのが大きい。三太刀あびせて、やっと気づかれるくらいの影の薄さだ。
後はオークの大ぶりの攻撃を注意して回避。その後はAGIに任せて高速で死角に回ってかく乱。俺の存在が認識されなくなってから、攻撃の再開。これを慌てずに繰り返せば、オークとはかなり善戦できる。
あとは、他のオークに乱入されないのも助かるな。【旅行安全】結構便利だった。戦闘中以外のオークに攻撃が当たらないように気を付ければいい。
モンスターをかく乱するのに<花鳥風月>のスキルは有用だ。
幻術は言わずもがな、平面移動だけでなく立体移動ができるようになったし、速度の幅も出た。
ただ、【月光】だけがあまりうまく使いこなせない。もう少し考えるとしよう。
俺のレベルが2上がって、オーク戦には一区切りをつけた。
コハク LV.8(+5)
種族【座敷童】 職業【桃太郎LV.8】(+5)
HP 31(+10) +7 MP 31(+10)
ATK ― MAT ―
DEF 8(+ 0) +15 MDF 4(+0) +10
DEX 15(+ 2) +7 MND 14(+5) +2
AGI 14(+ 3) +7 LUK 26(+0) +8
スキル SP 8(+5)
【気配遮断LV.2】【縁結びLV.10】【健康祈願LV.3】【戦勝祈願LV.3】【交通安全LV.1】
【家内安全LV.1】
【鬼退治LV.1】【キビ団子LV.1】【トレジャーハントLV.10】
【鑑定LV.1】【隠密LV.1】【索敵LV.1】【採取LV.1】【命中LV.1】【回避LV.1】
【器用LV.1】【俊足LV.1】【幸運LV.1】
装備
<防具>
緑風の防具一式 HP+5 DEF+15 MDF+10 DEX+5 AGI+5
<武器>
花鳥風月
<アクセサリー>
01.彗星のネックレス DEX+2 AGI+2 MND+2
02.陰影のアンクレット 隠密の効果上昇
03.陰影のブレスレット 隠密の効果上昇
04.幸運のお守り LUK+5 回避行動の成功率上昇
05.四つ葉のクローバー LUK+3 HP+2