22 晩餐会
あの後、現実でお昼に目を覚まし、そのままお昼ご飯を食べてゲームへとログインした。
そこからは、セレナとお話したり、エリーゼちゃんと遊んだり。後は、御当主の奥さん、アシュリーさんと食肉用の牛を狩りにいったりもした。もちろん極上肉だ。これが今晩の夕食になるらしい。
死に戻ったときにぶちまけたアイテムも返してもらった。レアリティの高いものばかりだったと驚かれた。
冒険も何もない平和な時間はあっという間に過ぎ去った。
晩餐会も終え、今回の事件についてと、なんだかその裏のことがあるようなので、それについてお話があるようだ。
エリーゼちゃんが退席し、御当主のブラックさんとアシュリーさん、フルハートさん、セレナと俺。後は何人かの使用人たちだけが残った。
「さて、今回の一件について話す前に、ゾルーディア家当主として、礼を言う。感謝しているよ。何度言っても言い足りない。それほどに今回の一件は当家の……いや、帝国の危機であったとさえいえる」
なんだか、スケールの大きな話になっているようだ。
女の子を一人助けたはずが、大きな家のお家騒動になって、それが今度は国家の危機だという。もうやめてくれ。お腹はいっぱいだ。
「リレーフが独りであれだけの勢力を持つことは考えられない。背後で動いていたものがいる。カレアント帝国第二皇子、アーノルド。裏にいたのは皇族だ。手紙などの証拠品もすべて王宮に提出してある。つまり、ゾルーディア家乗っ取りだけではなく、裏では国家転覆の謀が進行していたということだ。それが今回の一件で明るみに出た」
なんてことだ。俺は知らずのうちに、国家転覆の邪魔をしていたらしい。それで平和なら、まあ、結果オーライだ。
「リレーフと第二皇子。ともに跡継ぎは上の兄だと決まっていた。しかし、その二人には野心があった。そのあたりの鬱憤が、今回の事件に発展したようだな」
「では、今回の立役者に礼を尽くさなければならない。まずは、ゾルーディア家当主として、私からだ。お前には、三つの褒美を遣わそう。
一つ目は娘を救ってくれたことに。
二つ目は息子を救ってくれたことに。
三つめはゾルーディアの家を救ってくれたことに。
受け取って欲しい」
御当主が使用人に指示を出す。
トレーを持った使用人が俺の方へ進み出た。
スッとそのトレーが俺の前に置かれた。テーブルの上のトレーには、鮮やかな布が敷かれ、その上に黒い指輪が乗っていた。
黒い指輪には青い薔薇の意匠が施してある。花びらの数までは数えられないが、これはおそらく――
「我が、ゾルーディア家の家紋の入った指輪だ。我々の友人である証をセレナの大親友のお前に贈る。詳しい使い方は、後でセレナに聞くといい。何かあれば、我らの傘下の者を訪ねるといい。その指輪を見せれば、特別待遇でもてなしてくれるだろう」
そっと、その小さな指輪を両手で持ち上げ、観察する。黒い指輪の部分も金属ではなさそうだ。うっすらと透けて見える。
【鑑定】
<青薔薇の指輪>
ゾルーディア家の家紋の七枚花弁の薔薇の意匠が施された指輪。この指輪を見せれば、帝国の裏ではどうにかなる。
「黒に青薔薇はお前だけの印だ。何か問題を起こせば、お前だというのはすぐにわかるからな。ほどほどにしておけよ」
なんだかくぎを刺されたようだ。ま、そんなことはするつもりはないから、怒られることはないだろう。
空になったトレーが下げられ、次のトレーが置かれる。
今度もまた黒い指輪だ。シルバーがポイントで入ってる。
「次だ。お前の気配を隠すスキルについては初めに見せてもらったな。お前自身の技術は素晴らしい。だが、それだけでは生き残れない。きちんと装備も整えなければな。これはその一助になれば嬉しい」
【鑑定】
<夜霧の指輪> R
AGI +5 MND +5
効果:【気配詐称LV.4】【闇夜の霧と為れLV.4】を装備者に与える。
スキル付きのアクセサリーだった。ものすごい高価なものでは?
俺の手元には、青薔薇の指輪が残っている。ストレージに入れてしまうのもあれだったので、右手の人差し指にはめておいた。
トレーの指輪は中指に。
左手の薬指と小指もだったかな? そこは避けておけば、いいだろう。
次のトレーにはごついナイフが乗ってきた。ちょっとびっくりした。
「お前が今後、戦っていくうえで、必要になるだろうものだ。ジュリアスの意見も参考にした」
【鑑定】
<静寂の暗殺用短剣> R
ATK +12 MAT +12 AGI +18
【忍び寄る静謐】不意の一撃のクリティカル発生率UP クリティカル威力大UP
【飛閃・鴉】闇属性の回転する刃を生み出す MP 20 CT 60sec
【影縫い】視界内の影から影への移動が可能 MP 20 CT 90sec
自分の顔が引きつっているのが分かる。
名前からして物騒だし、効果もやりすぎではないか。
ご褒美だからもらえるものは貰っておこうかと思ったけど、ここまでくるともらいすぎかなと思ったりもする。
「私からは以上だ」
それを聞いてほっとする。
流石にナイフは出しっぱなしにしておくのもよくないので、ストレージにしまった。
……私から、は?
「では、次は俺だ。君は貰いすぎだと思っているかもしれないが、我々、ゾルーディア家に恩を売ったということはこういうことだ。最後まで静かにもらえるものは、もらっておくといい」
俺の前のトレーが変えられる。そこに乗っていたのは、これまた指輪と首輪が三つかな。
「指輪ばかりで悪いが、アクセサリーは指輪以外が被ってしまうとつけられないからな。指輪なら十個まで大丈夫だ」
【鑑定】
<指輪>N
効果:【情報遮断LV.10】【情報詐称LV.10】を装備者に与える
名前とリアリティと効果がかみ合っていない。
スキルレベル10の効果を二つも持っているくせに、ただの指輪にレアリティNだって!? ありえない。何をしたんだ、あの人は。
「君が俺のことをどう思っているかは分からないが、これでも帝国の裏社会を統べる家の次期当主だ。命の恩人に贈るのなら、このくらいの物は作成できる」
でた、負けず嫌い。夫婦そろって、面倒な。
しかも、自家製らしいぞ。指輪本体がどうかは分からないが、この効果を付与したのは、フルハートさんのようだ。
「君は自分の情報の価値というものを分かっていない。それが、他人に筒抜けだということの恐ろしさもだ――私の情報隠蔽のスキルはこの帝国でも随一だ。見破れるのはこの帝国には父上くらいだろう」
「帝国に私一人ということは、外には五人でも十人でもいるかもしれないということだが」
「……そうそうその隠蔽を掻い潜ることのできる者には出会わないということだよ」
一瞬、怖い人だったんだと思い直したが、それでも自分のお父さんにはたじたじらしい。
その指輪は左手の人差し指にはめた。
「その首輪は、君のペットにだ。後で付けてやるといい」
そう言われて、背筋が凍る。
この首輪は三つ用意されている。つまり、俺の【キビ団子】というスキルの詳細まで把握されているということだ。
「そういうことだ」
やっぱり、怖い人たちだよ。いや、俺には相当やさしく接してくれているのだとはわかってはいるけれど。端々ににじみ出るオーラが、真っ黒だ。
「自分の命を救ってもらった対価がそれで足りているとは思っていない。何かあったら、私を頼るといい。私のできる範囲で、力になる」
「なら、次は私ですね」
次はアシュリーさんだった。
「ごめんなさいね、私にはそんなにすごいものは贈れないの。私からはこれを」
そのトレーに乗っていたのも指輪だった。後は本が一冊。
【鑑定】
<料理人の願い事>R
効果:【解体LV.5】【採集LV.5】【釣りLV.5】を装備者に与える。
<この世の食物辞典>
保有者は【情報閲覧:食物】の権限を得る
すごいものだった。言葉を信じた俺が馬鹿だった。
しかも、アイテム名そのまんまだな。アシュリーさんの願い事が手に取るように分かる。いい食材持って来いということだ。
相手に贈り物を与えながら、自分にもメリットを用意するとは、この御仁、デキる!
「極上肉がたまったら持ってきますよ」
「ええ、待ってるわ。でも、あなた、私がこれだけだと思ってる? 残念、私の手料理はそんなに安いものじゃないの。元は王宮の料理長だったんだから。いくらお金を積んだって食べられる料理じゃないのよ」
思った以上にヤバい経歴の持ち主だった。御当主と出会う前には料理長だったのか。出会った後に料理長になったのか。ものすごくそのあたりが気になる。
「最後は、私ですね」
そうなって、ようやくセレナの番になった。
うん、セレナと出会ったことから、この大騒動が始まったんだ。
「こんなにハードルが上がるとは思っていませんでした」
確かに、今までにもらったものを見れば、俺なら悲鳴が出る。
「ですが、私も負けず劣らずだと思いますから、楽しみにしておいてください」
セレナの笑みに、俺は苦笑を返すことしかできなかった。




