02 資金調達は難しい
「兄さん、どう?」
一体目のイノシシを倒して、ドロップを見てニヤニヤしていると、弟のマサが寄ってきた。
「どうもなにも、ダメージに関しては御察しだよ。でも、気付かれてなかったみたい」
「【気配遮断】の効果だね。【隠密】も取ったし、【旅行安全】はこっちから攻撃を仕掛けるまでは、気付かれにくくなるスキルだし。かなり気配を隠すことができるかも。リアルの兄さんと一緒だね」
「うるせぇ……」
イノシシが俺を無視していたのは、俺のスキルの効果だったようだ。
【気配遮断(座敷童)】
気配を遮断し存在が気付かれにくくなる。
自分よりもレベルの高い相手に対して、効果上昇。
【隠密】
気配を隠しやすくなる。
【旅行安全】
モンスターと出会っても戦闘状態になりにくい。
罠にかかりにくくなる。
デュエル外でのプレイヤーとの戦闘行為でパーティ全体のステータスUP。
「兄さん、キャラメイクで1ポイントも使わないで出てきたから、かなりスキルは充実させられたよね。さすがにソロでやっていくのは心配なんだけど」
「いや、マサも知ってるだろ? 俺には人見知りっていうスキルがあってな。知らない人がいるだけでステータスがダウン。パーティメンバーにデバフをかけるっていう」
「はいはい、分かったよ。まったく、せっかく座敷童が出たんだから、支援職取っていればかなりいいキャラクターになったのに……」
「一人で冒険するってのに、誰を支援するんだよ」
あの時、神官、あと巫女もあったし、どっちかを取っていれば良かったんだろうか。
いや、そうなればだれかとパーティを組まなくてはならなくなる。それはお断りだ。
マサとアリサならともかく、二人が連れてきた人でもできればお断りしたい。
このゲームには大きく分けて種族スキル、職業スキル、通常スキルの三つがある。
種族スキルを習得するのにはSPが10必要で、その他は1ずつ。スキルレベルを上げるのにも1ずつ使用するらしい。
種族スキルで戦い方が大きく変わってくるので、持っていかれるSPは多い。職業スキルとの兼ね合いで取り方を考えていくんだが。
それぞれの兼ね合いで取れたり取れなかったりもある。
俺の場合はそれが特に顕著だった。
座敷童の種族特性を最大限に発揮するには、支援系スキルを多くとる必要があった。しかし、桃太郎の職業スキルには支援系スキルがあまりなく充実させることができない。
桃太郎の攻撃型スキルは、種族特性で取得することすらできない。【刀術】などの武器を扱うアシストをしてくれるスキルも取れなかった。
先程の【気配遮断】【旅行安全】は種族スキル。【隠密】は通常スキルだ。
「そうだ、さっき攻撃したときのエフェクトなんだけどさ。金色になったり、黒っぽくなったりしてたけど、あれって?」
「金色はクリティカルが入った時、赤黒くなったのは弱点攻撃が成功したときだね」
「弱点攻撃とな」
「うん、モンスターにも弱点が設定されていてね、そこに丁度攻撃を当てることができれば、ダメージ量が上がるんだ。兄さんは首のあたりを攻撃したときに出たんじゃない?」
「なるほどな。じゃあ、俺がソロで冒険していこうと思ったら、クリティカルと弱点攻撃が出るようでないと苦しいんだな」
「クリティカルの発生率と威力をあげるスキルも取ったし。クリティカルがないとろくにダメージ与えられないと思うよ」
えっと、種族スキルの【戦勝祈願】のことだな。
【戦勝祈願】
パーティ全体のクリティカル発生率をUP。クリティカル威力をUP。
パーティ全体ということなので、俺にも支援がかかる。これを頼りにモンスターと戦っていくことになるわけだ。
「それに弱点攻撃はできるようになっておいた方がいいよ。というより、クリティカル出すよりも簡単だから」
「そうなのか?」
「弱点を狙って、そこに当てればいいだけだからね。LUKとDEX頼りのランダム要素の高いクリティカルよりも安心して使えるよ。もしかしたら出るかも、じゃなくて、当たれば必ずできるものだから」
「わかった。頑張る」
「それで、キャラクター作り直す気はないの?」
「ないよ。運がいいからな」
「なに……イノシシのドロップなんてたかが知れてるよ?」
「<イノシシの極上肉>」
「なっ、馬鹿な。王族に売りつければ国をも崩壊させるという……ごめん、兄さん。僕、兄さんのLUK値嘗めてたよ」
「そうか、分かってくれたならいい」
「ちょっと、僕にくれない?」
「金は払えよ」
「……冗談だよ」
もともともLUKが高かったし、LUKやドロップのレアリティが上がるようなスキルも取った。
種族スキルの【縁結び】。職業スキルの【トレジャーハント】。通常スキルの【幸運】。の三つ。
【縁結び】
巡り合わせがよくなる。LUK超上昇。
【トレジャーハント】
ドロップ率上昇。
高レアリティのドロップ率上昇。
宝箱から出現するアイテムの高レアリティ率上昇。
LUK上昇。
【幸運】
幸運を呼び込む。
LUK上昇。
ちなみに【縁結び】と【トレジャーハント】のスキルレベルは10だ。
いや、諸事情でそう言ったスキルレベルを早急に上げる必要があったんだけど。
それが俺の装備しているこの四振りの刀。
<花鳥風月>
四振りで一つの武装だ。
左腰に差した<花>を抜き、その波紋を眺める。
うん、かっこいい。
「お情けアイテムの使い心地は?」
「最高だな」
「キャラクターメイクで爆死したおかげだね」
「違うし、俺の超幸運スキルのおかげだし」
マサの言うお情けアイテム。
これは、チュートリアル終了時に運営からもらえる<びっくり宝箱>から出てきたものだ。
何が出てくるかは開けてみるまで分からない。
キャラクターステータスがあまりにも悲惨だった場合には、つり合いを取るために少しレアリティの高いものが出るらしいとのβの迷信から、お情けアイテムという名称がついたらしい。
これにはSPを5ポイントまで使うことによって、レアリティの高いものが出やすくなるという効果があり、もちろん俺は5ポイントすべてをつぎ込んだ。
これで、武器が出て来なければ冒険の出だしからかなり悲惨なことになる。
俺がモンスターにダメージを与えられるかどうかは、俺の持つ武器のステータス次第なのだから。
その為に、【縁結び】【トレジャーハント】をレベル10にあげたし、これで俺の冒険の助けになるものが出て来なければ、キャラクターを作り直すことも考え始めていたのだ。
マサが<中級ポーション>をだし、アリサが<紅蓮のブレスレット>というアクセサリー。
ATK+10で、火属性魔法の威力上昇の効果を持つアクセサリーだ。だが、これが来ても俺の体の攻撃力が上がるわけではないから意味がない。
武器を待ち望むしかなかったのだ。
そして来たのが、この<花鳥風月>。
<花鳥風月> R+
名刀、花・鳥・風・月の四振り。
<花>
ATK+8 MND+8
【連花】支援魔法。相手に幻術をかける。MP 10 CT 30sec
<鳥>
ATK+12 AGI+5
【飛鳥】一定時間飛翔することができる。MP 10 CT 30sec
<風>
ATK+10 AGI+8
【疾風】一定時間移動速度UP。MP 10 CT 30sec
<月>
ATK+6 MAT+8
【月光】光属性の攻撃魔法。光の刃を飛ばす。MP 5 CT 5sec
それぞれに魔法スキルがあるという、かなりのレア装備だ。
これが出た瞬間には思わず跳びあがってしまった。
何と言っても、これで俺も魔法が使えるのだから。
俺は覚えられずとも武器が覚えているものなら、使えるらしいのだ。
せっかくゲームをしてるんだから、ビーム出したり炎を吐いたり。やってみたい。
しかし、こんなレア装備が出たとなると、俺のLUKが高いことを鑑みても、かなりやりずらいステータスのキャラクターとなってしまっているようだ、このコハクは。
「じゃ、ここでレベルが3になったら、一度、始まりの町に戻ろうか」
「あれ? オーガの森に行くんじゃなかったのか?」
「その装備で行くつもり? 防具も初期のままだし。ここには、一応お金を稼ぎに来てるんだよ。装備を整えるためのね」
「そ、そうだな。あ、でもさっきの<イノシシの極上肉>を――」
「そんなの、買ってくれるところがないよ」
「そうなの?」
「買い取ってほしかったら、王都のお肉屋さんにでも行かないと。そんなの買わされたら、簡単に店が破産しちゃうから」
「そうか、じゃ、地道に稼ぐとします」
時間をかけてイノシシを倒す。
さっそくドロップしたのは<イノシシの極上肉>と<イノシシの上質の牙>。
……資金調達、かなり時間がかかりそうだ。
コハクLV.3(+3)
種族【座敷童】 職業【桃太郎LV.3】(+3)
HP 21(+6) MP 21(+6)
ATK ― MAT ―
DEF 8(+1) MDF 4(+1)
DEX 13(+1) MND 9(+1)
AGI 11(+1) LUK 26(+1)
スキル SP 3(100-100+3)
【気配遮断LV.2】【縁結びLV.10】【健康祈願LV.3】【戦勝祈願LV.3】【旅行安全LV.1】
【家内安全LV.1】
【鬼退治LV.1】【キビ団子LV.1】【トレジャーハントLV.10】
【鑑定LV.1】【隠密LV.1】【索敵LV.1】【採取LV.1】【命中LV.1】【回避LV.1】
【器用LV.1】【俊足LV.1】【幸運LV.1】
装備
<防具>
初期装備一式
<武器>
花鳥風月
【健康祈願】
パーティ全体のHP・MPを10秒毎に1回復、状態異常を10秒毎に確率で解除する。
【家内安全】
戦闘中でない場合、所有者がいないエリアで半径1メートルの破壊不能な結界を張る。一度張ってしまうと、何者にも侵入を許さない。CTは使用した時間と同じ。
【鬼退治】
種族【鬼】に属するものに特攻ダメージ。
【キビ団子】
モンスターを3体まで家来にすることができる。
家来にしたモンスターのステータスを上昇。
モンスターのレベルがプレイヤーより高い場合は、モンスターのステータスDown