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08 月喰の白狼

「もう、ダメだわ……」

「セレナ」


 そう声をかける俺にも、もう打開策が思いつかない。

 レベル差、30を乗り越えるなんて。

 ただでさえ、火力不足にもほどがある俺にはどうしようもない。


 相手はガルルルルと、牙をむき出しにしてこちらを威嚇している。


 あんな牙で串刺しになれば、俺のHPなんてすぐにでも吹き飛んでしまうだろう。

 あの大きなツメも、俺をスライスするには事足りるだろうし。あの巨体に体当たりされただけでも、あっけなくゲームオーバーだ。


 俺はそれでもいい。痛みを感じた後は、神殿で目を覚ますだけだろう。


 しかし、セレナは……


 先ほどから、点滅を繰り返す、この光も目障りで仕方がない。

 【縁結び】はどうして、このモンスターに対して点滅を繰り返すのか……

 これはどう考えても、良縁じゃ、ない、だろうに――


 その瞬間、俺の脳裏にあるメロディーが流れ始めた。おそらく子供の頃に誰もが耳にしたことのある昔話の歌が。


 それに加えて、俺の持つスキル。


 【キビ団子】――


 そのスキルを発動すると、手元に3つの淡い光がふわふわと現れ、漂い始める。


 その光を見たハティは、ピタリと威嚇を止めた。

 ジーっと、俺の手の中の【キビ団子】を見つめる。


「どう、したの……?」

「大丈夫かもしれません」

「え?」

「少し、じっとしていてください。向こうを挑発しないように」

「わ、分かったわ。大丈夫なのよね……あなたも無事に帰ってくる?」

「きっと」

 

 そう言い残して、巨大な狼へと一歩ずつ、慎重に歩を進める。


 だが、俺の脳内はぐちゃぐちゃだ。

 そもそも何をどうすればいいのか分からない。

 今になって、マサに言われたことを思い出す。俺のバカ。とっとと調教師や召喚士について調べておけば、モンスターをテイムするときの状況なんかも知ることができただろうに。

 

 この光をあの口に向けて放り投げればいいのか?

 しかし、そんな隙間もないし。


 そもそも、今までのモンスターはこんな反応しなかったぞ。

 明らかに俺が動くまで様子を見ていた。

 こちらを威嚇はしていたが襲ってきはしなかった。

 そして【キビ団子】を発動したらぴたりと威嚇を止めた。

 このスキルがあることを知ってたから?


 このスキルは一番最初からとってあったのに。

 何が違う。レベルか? それとも、モンスターとしての格か?

 ええい、全く分からん。

 そうだ、あっちに聞いてしまえばいい。


「あの……これをあげれば、私の仲間になっていただけるのでしょうか……」


 俺はそろそろと、水際ギリギリまで進んだ。

 俺の声に反応したのか、こくりと頷きハティも水際まで寄ってくる。


 俺の言葉を理解している……のか?


 はっきりしたことは分からないが、それなりに知能はありそうだ。

 ……そうか、俺の仲間になってくれ、の言葉に、代わりにキビ団子を一つくれ、と俺に返せるだけの知能が必要なのか。

 きっとそうに違いない。


 だとすれば、だ。奴には、それなりの知能があるはずだ。

 そして、その知能があるならば、俺の隠れた切り札。魅力値が火を噴くはずだ。


 未だにやつが口を開かないのも、きっとこの狼を攻略するのに必要な魅力値が足りていないのだ。

 そうとなれば、待っていろよ狼さんよぉ。俺が、お前さんの口をあんぐりと開かせてやる。


 俺でも一瞬可愛らしい容姿だと認識した、このアバターの体を精一杯使えば、落とせない男などいない。奴の性別は知らないが。


 顔は若干下向きに。そして、必殺上目遣い。


 小さな少女にされて、多少も心に響かない男がいれば、それは生粋の女嫌いか子供嫌いか、人間嫌いの冷血漢もしくは女性不信の人か。後は単なるひねくれものだろう。


 これを俺は、僅か17年の経験で嫌というほど知った。主に妹で。あの妹に慣れるまでさんざんこの攻撃を受け続け、今ではすっかり受け流せるようになった。まったく、あの妹はどこでそんなあざとい攻撃を覚えてきたのか。


 よし、これでいい。

 後は、ウルウルとこの瞳を揺らせば。


「あの……私のキビ団子……食べて、くれますか?」

 

 しかし、奴は口を開くどころから、微動だにしない。

 これはもしや、俺の魅力に当てられて動くことすらできないのでは……


 そんなことを考えた瞬間に、スッと俺の頭に上っていた血は、常温に戻った。

 なーにやってるんだか。


「もういいし、ほい!」


 俺は手の中の光の一つを目の前の狼の口に向けて投げつけた。


 するとパクリと口を開けて、それを飲み込んだ。


 くっ……殺せってんだ。


『<月喰の白狼:ハティ>のテイムに成功しました。個体名を命名してください』


 そんなアナウンスが流れる。

 どん底のメンタルでそんなものが考えられるか……


 月……夜……朔夜……うん、サクヤ。OK。


『個体名、サクヤをパーティメンバーに追加しました。現在の好感度は80パーセントです。家来として従順に命令に従います』

『テイム成功により経験値を入手しました。レベルが上昇しました。能力値を割り振ってください』


 わりと詳しくアナウンスが情報を置いて行った。ついでのようにレベルアップの報告もなされる。テイムの成功も経験値が入るようだ。まあ、テイムも経験と言えば経験か。

 しかし、80パーセントとは結構高いんだろうか。俺があんな気持ちの悪い芝居をした意味はあったのだろうか。


 さて、まずはこれからだろう……


 右の掌をサクヤに向けて差し出す。


「お手……おお……でかい」


 サクヤはポンと俺の掌の上に前足を乗せた。

 俺の小さな掌とは比べ物にならないほどに大きい。


「そうか……お前とは、今日から仲間なんだな……」


 クゥゥンとおそらく俺の言葉に答えてくれたのだろう。

 なんだか、頬が緩んだ。


 セレナとは今回の一件が終われば、さよならだろう。もちろん、セレナがいいというのであれば、定期的に彼女に会いに行きたいとは思っている。しかし、彼女と一緒に旅に出るわけにはいかない。

 でもサクヤとはずっと一緒に冒険することになるだろう。


 なんだかそう考えるととても、尊い存在に思えてきた。


「よろしくお願いします。サクヤ」


 首筋に手を伸ばせば、俺の手の届くところに首が下りてくる。


 撫で心地はとてもよかった。

 サラサラの長い毛に、その下には感触のいい肉。筋肉なのかは知らないが。とても暖かく感じた。

 それに、獣臭さは感じない。なんだか、今日のこの景色のような澄んだ感じがする。


「あ、あのー、コハク? 大丈夫なのかしら?」


 後ろから、恐る恐るとセレナから声が掛けられる。

 

「あ、セレナ。はい、もう大丈夫です。この子は、サクヤ。今から、私の家来になりました。それから、サクヤ。この人は、セレナ。私の友人です。仲良くするように」


 それぞれに紹介したのだが、セレナの困惑した表情は晴れない。


「えっと、私にはよくわからないのだけど、そのテイムしたってことかしら」

「はい、そういうことになります」

「……コハク……あなたって人は。慣れたと思ったけど、無理ね。思った以上に、あれね」

「あ、あれ?」

「破天荒?」

「は、破天荒!? そんなことないと思いますよ! 私ほど平穏を愛している存在は――」

「あーはいはい――それで、そちらは、サクヤでしたわね。よろしくお願いしますわ。あなたの主人の友人です。付いて行くのが大変でしょうが、頑張ってくださいな」

「なっ、そんなことはないはずです!」


 セレナがサクヤに向けて伸ばした手に、サクヤは首筋をさらした。

 未だにこわばっていたセレナの表情が、ふっと解けた。どうやら、ようやく安心したようだ。


「あら、なかなかの毛並みね」

「ええ、そうでしょうとも。他の狼の毛皮を触ったことはありませんが、うちのサクヤは世界一でしょうとも」

「それはありませんわ。私の飼うマルリアドッグのクレツェントの撫で心地の方がいいですもの」

「そんなことはないはずです。私は触れたことはありませんがきっと、サクヤの方がいいはずです」

「あなた、なんだか、突然親バカが始まったわね」

「お、親バカ……」


 そう言いあいながら、寝床に決めていたあたりに向かう。

 後ろを振り返れば、サクヤも後をついてくる。


 その様子に、なんだか心が落ち着いた。

 やはり俺もどこかはやる気持ちがあったのだろう。

 これがペット効果だろうか。


「サクヤ、私たちはこれから眠ります。あたりには、結界を張るつもりですが、あまり大きくはできないので、サクヤを入れてあげることができません。サクヤにはその周りで休んでもらいたいのですが、いいですか?」

 

 サクヤがこくりと頷いたのを見て続ける。


「よかった。それじゃあ――」

「ねえ、コハク。あなた結局、水浴びしてないんじゃ……」

「あ……忘れていました! 水浴びをしてきますから、待っていてください。サクヤ、あたりの警戒をお願いします」


 結構、こちらの言うことが分かっている様子のサクヤに指令をだし、俺は慌てて水浴びをした。

 ひんやりとした水が体温を奪っていくが、若干興奮して熱を持っている節のあるこの体としては、気持ちよく感じた。


 その後は、結界を張り、明日の明け方に起きるためにアラームをかけ、家来になったために閲覧できるようになったサクヤのステータスを眺め、たびたび驚いて目を覚ましながら、しばらくして眠りについた。



コハク LV.22

種族【座敷童】 職業【桃太郎LV.22】

HP  59 +7  MP  59

ATK ―    MAT ―

DEF 10 +15 MDF 8 +10

DEX 20 +7  MND 22 +2

AGI 24 +7  LUK 26 +8

スキルSP 1

【気配遮断LV.3】【縁結びLV.10】【健康祈願LV.3】【戦勝祈願LV.6】【交通安全LV.1】

【家内安全LV.1】

【鬼退治LV.10】【勧善懲悪LV.1】【キビ団子LV.1】【トレジャーハントLV.10】

【鑑定LV.1】【隠密LV.1】【索敵LV.3】【採取LV.1】【命中LV.1】【回避LV.1】

【器用LV.1】【俊足LV.1】【幸運LV.1】【夜目LV.3】【投擲LV.1】【ショートカットLV.1】

装備

―略―

家来

サクヤ【月喰の白狼:ハティ】LV.50


サクヤ LV.50

種族【月喰の白狼:ハティ】

状態異常【家来】 主人のレベルが自身より低ければステータスDown(LV.22相当)

HP  88 MP  88

ATK 44 MAT 31

DEF 27 MDF 30

DEX 5  MND 14

AGI 36 LUK 5

スキル SP 0

【月喰LV.6】【月渡】【流星顕現LV.4】【空歩LV.8】【戦闘の才能LV.6】【魔法の才能LV.5】

【光属性魔法LV.7】【風属性魔法LV.5】【咆哮LV.5】【高速移動LV.8】

【戦闘術・牙LV.8】【戦闘術・ツメLV.8】【索敵・嗅覚LV.8】

【看破LV.8】【命中LV.3】【回避LV.2】【隠密LV.2】【夜目LV.2】

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