01 新たなる町の危ない香り
あれから時間はたって、時刻は6時。
若干あたりが薄暗くなる中、ついに森を抜け新しい街にたどり着いていた。
ただ、入ったはいいが、あまり始まりの町との差異は感じられない。
ゲームの中の中世のヨーロッパのイメージのままだ。
門を通る時に、いろいろと登録を済ませなければならず、多少時間をくったが、まあ、新しい街についたのだ。良しとしよう。
「ポータルは、どこでしょうかね。始まりの町は噴水だったけど」
広場に出て、ポータルを探せば噴水があった。
この町もポータルは噴水でいいようだ。噴水が多いのだろうか。
「えーっと、ポータルを登録しますか。っと、はい」
『カレアント帝国シゼスト辺境領広場、登録しました』
そのアナウンスと共に、マップにポータルが登録される。
これでポータル同士の行き来ができるようになった。
未だ始まりの町とシゼスト辺境領の二つしか登録されていないが、これからどんどん増えていくことになるだろう。
「これで、始まりの町に帰れるようになったな。もう少し時間がかかるもんだと思ってたんだが……そういえば、ずっとモンスターを狩ってただけで、クエストとか一切手を付けてないな……何かそういうものはないんだろうか――お?」
そう呟いたとたんに、裏路地の方に光が明滅する。
マーヤお婆さんの店を見つけた時と同じだ。
【縁結び】の仕事だろう。
向こうに美味しいクエストでも転がっているんだろうか。
俺はワクワクと胸を弾ませて、光を追いかける。
いくつか角を曲がって、安全地帯を抜け準安全地帯というモンスターは入ってこないが、戦闘行為は発生するエリアへと足を踏み入れていた。
マーサお婆さんのお店のあたりと同じだ。
そこから少しして、俺はその現場へと出くわした。
【縁結び】の光もここに留まっている。
これをどうにかしろってことなのか?
「そこを退きなさい! 邪魔ですわよ!」
「クククッ、おいおい、お嬢。この状況が分かっていないんですかい?」
「うるさいわね。女一人に、こんなに寄ってたかってだなんて! 恥ずかしくはないのですか!?」
「俺たちはハンター。狙った獲物は絶対なんですぜ? お嬢ならよく知っているでしょうに」
現状を解説すれば、複数の男たちが、若い女性を取り囲んでいる状況だった。
丁度袋小路になっていて、行き止まりに女性を追い込んで、道を男たちがふさいでいる。
……いや、これは大丈夫なのか? いわゆるR18な展開になってしまったりはしないんだろうか。
大丈夫かな。うん、このゲーム、R15だし。
ちなみに俺は十七だ。隆と梨沙は十六。
しかし、殺されてしまう可能性がある以上、そうゆっくりと考察していていい雰囲気ではなさそうだ。
「くっ……はやく道を開けなさい。あなたたち、こんなことをしでかして、ただで済むと思ってないわよね!」
「お嬢、これを見ても、そんな強気なことが言えますかい?」
男の一人が懐から刃物を取り出した。
状況はよく分からないが、これは女性の方を助けるべきだろう。
まさか街の中に入って刀を抜くとは思っていなかった。
<鳥>と<風>を抜刀し、それぞれスキルを発動する。
男たちの頭上を飛び越し、女性との間に着地する。
これでも気付かれていない。
しかし、俺もこの状況がよくわかっていない。
もしかすれば、いや、万が一、俺の背にいる女性が悪いことをして、男が捕まえに来たという可能性もあるし……うん、人相から判断してはいけないんだろうけど、億が一くらいか。
話を聞く前に、傷つけてしまってはいけないだろう。うん。
「や、やめなさい。あなたたち、誰に手を出してるのか、わかってるの!?」
「当り前でしょう。だが、もうあんたの旦那の天下も終わりだ。この先は、リレーフさんが引き継ぎますよ。あんたには、フルハートをおびき出す餌になってもら――な、なに!?」
俺はナイフの男に気が付かれていない。その為、<風・鳥>を納刀して、この状況で最も効果があるだろう<花>を抜く。
正面から近付いて、手の中のナイフをスッと抜き取ってやった。
いや、わりかしヤバめな発言がポンポン飛び出してるんだが、この男たち、斬ってしまってもいいかな。
自分の手からナイフがひとりでに抜け落ちたのに気付いて、男は驚きの声を上げ、そして、ようやく俺の存在に気が付いた。
周りの男たちも、それにつられてこちらに注意を向けて、俺に気が付いた。
「て、てめぇ、いつからそこに」
「さあ?」
そう、小首をかしげながら、<花>をナイフの男の首筋にスッと当てる。
斬ってはいない。まだ、怪我をさせるつもりはないからだ。
話を聞いていれば、どうやら狙いは彼女ではなく、その夫。
夫の方が悪いことをしたのかもしれない。
「あの……そこのお姉さん」
「わ、私ですか?」
突然、声をかけられたことに驚いたようだ。
男たちに目を向けているため、彼女の様子はうかがえないが、かなり声が上ずった。
「あなたの味方をした方がいいと今のところ私は思っています。あなたの夫は、悪い人ですか?」
「私の夫? フルハートさんは、裏社会の人間です。ですので、世間の人間に言わせれば、悪い人でしょう。ですが、リレーフのように残虐な人ではありません! 私はそこの男につかまるわけにはいきませんの。助けてくださいませ!」
【連花】!
男たちに幻術をかける。
全員が幻術にかかったことを確認して、後ろの女性の腕を引いて男たちの間を駆け抜けた。
「ちょ、い、いきなり、何ですの!?」
裏通りを駆け抜け、【索敵】であたりを確認する。
よし周りには誰もいない……スピードを緩めてもいいだろう。
手を引いている女性が辛そうだ。
「――ハァ……ハァ……止まって……大丈夫なのですか?」
「私にわかる範囲には、敵の姿は見えません」
「そう、ですか……まずは、お礼を言います。助けていただいてありがとうございました。ゾルーディア家次期当主フルハートの妻、セレナですわ」
「……コハク……です」
どこかのご当主の奥さんだったようだ。それにしては若く見えるのに。
そういえば、裏社会の人間とか言ってたし、ヤクザの姐さんとかそういう感じ?
助けてみたはいいものの、この後どうすればいいのか見当がつかない。
しかも、女の人と二人きりだなんて、拷問だ。
「助けていただいたことには礼を言います。しかし、あなたは何者ですか? フルハートさんについて、何か知ってらっしゃるの!?」
セレナさんは、切羽詰まった顔で俺に詰め寄ってくる。
「すみません、知らないんです」
「そうですか。では、あなたは、いったい何者ですか? 我が家の手の者でないのなら、いったい何が目的で私を助けたのです!?」
おっと、一気に態度が敵対感を増してきた。
しかし、こんなセリフを俺に向けられるとは。ゲームみたいだ。
俺は……一体なんだろう?
「……えと……旅人? そう、旅人。ただの通りすがりです」
「通りすがりの旅人? たまたま偶然?」
「そう、偶然」
「偶然、あんな裏の深い所に来て、あの現場に遭遇したと」
「はい」
それ以外に何と言えば? スキルでとか言っても、もっとひどいことになりそうだ。
「そんな……じゃあ、この後はどうすれば……あぁ、フルハートさん」
しかし、セレナさんも大分、精神的に追い詰められているようだ。
かといって、俺にできることはそんなに多くないぞ。
とりあえず、落ち着ける場所に移動するのがいいだろう。
こんな状況でどう動けばいいかだなんて、知るはずもないのに。
この人の家に行く?
いや、ダメだろう。
詳しくは分からないが、あの時の会話から察するに。お家の内部分裂が起きているようだ。
セレナさんの家が、敵方の手に落ちていたら、危険だ。
隠れ家とかないだろうか。
裏の人間なら、こういうことに備えて、いくつか隠し持っていそうなイメージが勝手にあるんだが。
「安全な隠れ家はありませんか……?」
「隠れ家?」
「一度落ち着ける場所に移動しましょう。彼らは、あなたを人質にしたいようですから。隠れられる場所が必要かと」
「そうね……ええ、そうだわ。しっかりしないと」
「分かりますか?」
「ええ、私とあの人とその側近しか知らない場所があるわ。そこに行きます」
「わかりました。送っていきます」
「え?」
「あ、すみません。見ず知らずの人間が付いて行ってはいけませんよね」
「い、いえ。お願いできるのなら、ぜひ付いて来ていただきたいのです。この町の人間はすべて敵と思ったほうがよさそうですし。あなたが無関係の旅人であるというのなら、それを信じましょう。今の私には、あなたしか頼れる方がいませんの。お願いします」
「わかりました、ついていきます」
「ありがとうございます」
そんな言い方をされては、最後まで付き合うしかない。
現実でこんな状況になれば、躊躇するだろうけど。
でも、ゲームだし。
これも乗り掛かった舟。
見捨ててしまえば寝覚めが悪いし。できる所まではお手伝いしようかな。
しかし、事態はかなり切羽詰まっているようだ。
俺しかいないとはいえ、こんな訳の分からない存在を近くにおいておくだなんて。
でも、大丈夫だろうか。
鬼に対しては大きなアドバンーテジを持っている俺だが、人間相手にどこまでやれるか。
彼女を護衛しなければならないのなら、俺の戦闘力は心もとない。
何か役に立ちそうなスキルはないものか……
【勧善懲悪】
悪に対する特攻ダメージ。
――【鬼退治】LV.10からの派生スキル。
あった!
裏社会の人間というならば、悪とみなしてもらえるだろうし、これなら何とかなるはずだ。
『【勧善懲悪】を取得しました』
「案内お願いします」
「ええ、こちらです」
『クエスト<隠れ家への同行>を受注しました』
なんだか、新しい町に到着してすぐに、バタバタとクエストに巻き込まれてしまったようだ。
コハク LV.20 (+0)
種族【座敷童】 職業【桃太郎LV.20】(+0)
HP 55(+0) +7 MP 55(+0)
ATK ― MAT ―
DEF 10(+0) +15 MDF 8(+0) +10
DEX 20(+0) +7 MND 22(+0) +2
AGI 20(+0) +7 LUK 26(+0) +8
スキル SP 1 (-1)
【気配遮断LV.3】【縁結びLV.10】【健康祈願LV.3】【戦勝祈願LV.6】【交通安全LV.1】
【家内安全LV.1】
【鬼退治LV.10】【勧善懲悪LV.1】【キビ団子LV.1】【トレジャーハントLV.10】
【鑑定LV.1】【隠密LV.1】【索敵LV.3】【採取LV.1】【命中LV.1】【回避LV.1】
【器用LV.1】【俊足LV.1】【幸運LV.1】【夜目LV.3】
装備
―略―




