12 早朝のオーガの森
ピピピとアラームが鳴る。脳に直接聞こえる感じ。
「……うるさい」
目が覚めた俺は、アラームを止める。
きれいな景色が飛び込んでくるが、まだ少し眠い。
「とりあえず、【家内安全】解除」
これで、CTが終了する時間がこれ以上遅くなることはない。
「はあ、確かにこれは、目が覚める。あまり気持ちのいい目覚めじゃないけど」
木に寄りかかって座るようにして眠ったため、なんだか腰が痛いような気がする。気がするだけで、痛くはない。
あたりはまだ暗い。まだ三時だし。
「さて、体が目を覚ますまで、居合の練習かな。おお、なんだか武道精神の溢れて健康的な気がする」
完全に気がするだけだ。だって、ここはゲームの中なんだから。
三十分ほど、地面の上で居合と鎧通しの感覚を反復練習。
その後は、空中で練習して、他にも地面の上を走りながら、空中移動しながらも行った。
「まだまだだな。移動を入れ始めると途端に成功率が落ちる。静止状態で9割、移動すると6割、空中で移動すると4割か……まあ、空中移動では使えないな」
空が白み始める。気付けば、五時を過ぎていた。
「なかなかにいい集中状態だな。ただ、周りの警戒を怠りすぎか……そろそろオーガが起きてきそうだ」
なんて自己評価を下しながら、オーガ百人組手の再開のため準備を始める。
視界の確保と寝起きのオーガはなるだけ避けること。これが昨日の教訓。
昨日は目標のレベル16には届かなかったけれど、新しい技を手に入れた。それで良しとしよう。
今日中に20はいけるといいな。
こうして俺のゲーム内での朝が明けた。
実験台のオーガを探すという、なんとも景色に合わない風情のない夜明けだった。
実験台のオーガは割とすぐに見つかった。
既にオーガたちの活動は開始していた。
どうやら、夜明けとともに起きだす習性となっているらしい。とても健康的だ。
ただ、すぐにでも永遠の眠りについてもらうのであしからずっと。
このオーガは起きているのに角が光ってない……馬鹿。
【鑑定】
<オーガ>LV.17
よし、大丈夫。
今日の居合の習練中に突如閃いた。
そうだ、【鑑定】しようと。
早起きは頭にいい。ついでに居合の習練は、もっといい。
昨夜の自分のバカさ加減に呆れかえった。
もう、俺ったら、ド、ジ! うぇ、吐き気がする。もうやめよう。
そんなこんなで、オーガよーし! 間合いよーし! 指差し確認よーし!
きっと忘れ物はない。
【疾風】【飛鳥】――居合、鎧通し【月光】!
オーガの頭と同じ高さに飛びあがり、出来立てほやほやの新技、脳みそ直撃の居合からの鎧通し。
昨日と同じ雄たけびを上げ、オーガは地べたを這いずり回る。
なんだが、とても悪いことをしている気分になる。でも止めない。
これで、【月光】でもHPは一割強削れるようになった。
地べたを転がりまわる痛覚異常と思考力低下の状態異常がこれに加わる。
とても、効率が上がるはずだ。
今のうちに、<鳥>と<風>で角を落とす。昨日はこれで痛い目を見たからな。やはり、角は最初に落としておくべきだ。
これで、3割。
【月光】のCTが終了したので、今度は脳の他の弱点になりそうな心臓を狙う。
居合、鎧通し【月光】――
「あ、ミスった?」
今度は【月光】が発動しなかった。
どうやら、とてつもない精度を要求されるらしい。
三日月状の斬撃の丁度中心を弱点に重ねて発現させなければ、成功しないとは。
こんなにもひっちゃかめっちゃかにジタバタされると、動きも予想できないし。鎧通しは今の状況では難しそうだ。
そうこうしてるうちに他のスキルの効果時間も終了する。
未だに、地面に横たわるオーガの膝を重点的に狙いながら、CTの終了を待つ。
まともな思考力が残ってもいないようなので、【連花】の幻術も意味がなさそうだ。
オーガが痛みから回復するのには時間がかかり、そのころには既に残りのHPは4割を切っていた。
そして、痛みから回復し動きが落ち着いたところを狙って、今度は心臓に鎧通しを試みる。
今回は成功した。
心臓では、痛覚異常と流血過多の状態異常がかかるようだ。
そんなところまで設定してあるからには、どうやら、鎧通しの技術は一般的であるようだな。
しかし、鎧通しはとても効果的だ。今回の戦闘では、相手に一切の攻撃を許していない。
一方的にこちらがなぶっている状態だ。
次の鎧通しを当てるまでもなく、オーガのHPは全損した。
「強くなったかな。たぶん。レベルだけじゃない、よな。これって」
これなら、まだ、マサやアリサの足元くらいには及べるんじゃなかろうか。
うんうん、楽しくなってきた。
その後に遭遇したハイオーガはわざと激昂状態にして倒してみた。
今朝、アイテムを確認したら、<ハイオーガの極上角(魔力保有量:S)>というアイテムがあった。どうやら、昨夜の角を残したまま激昂状態にしたハイオーガからとれたものらしい。
いいものが取れるのなら、マーヤお婆さんのところに持っていきたいし。それに、魔法を使うモンスターとの戦闘にも慣れておきたかった。
しかし、まだ俺のレベルでは難しかったらしく、最終的には鎧通しに頼ってしまう。少しばかり、背筋に寒気の走る戦いとなってしまった。
この先、オーガのレベルも上がっていくようだし、これを機に【鬼退治】のレベルも少し上げてもいいかもしれないな。
あれから、オーガとの戦闘を続けて、レベルを1上げたところで【家内安全】のCTが回復した。
朝ご飯を食べるためにログアウトしよう。
【家内安全】
――ログアウト――
んん、っと背伸びをして、現実の朝を迎える。
なんだか、ゲームの中の景色のせいか、自分の部屋がなんだかよどんでいるような感じがする。掃除はきれいにしているし、実際はよどんでなどいない。
意識がはっきりしてくれば、そんなことも感じなくなった。
しっかりと意識が体に戻ってきたところで、自室を出て一階へ降りる。
「おはよー」
「おはよう、幸。お父さん、もう行っちゃったよ」
「うん。夜は下りてくる」
「朝ご飯、食べる? パン? ご飯?」
「パンでお願いします」
「わかったわ」
洗面室で朝の身支度を整えて、リビングへ向かう。
リビングのテーブルには既に梨沙がいた。驚きだ。
「おはよ、お兄」
「おはよって、梨沙。起きてきたんだ」
「む、それって、私がずっとゲームにこもってないとおかしいってこと?」
「ちが……わないかも?」
「さすがに私も、二十四時間ぶっ続けは無理。昨日も夜中に一回下りてきてご飯食べたし。正隆はずっとやってるっぽいけど」
「マジ……?」
あれだけ言ったのに。
まったく。
「マジ。私が見たときは、ずっとインしてるし。お兄は、お昼と夜の八時くらいには一回落ちたよね」
「ずっと見てたのか?」
「だって、お兄。すごい勢いでレベルが上がってくんだもん。びっくりしちゃった」
「やっぱりオーガは相性がいいみたいだな。そんなに苦労せずに倒せてるし。梨沙は? どんなかんじ?」
「ふっふーん、レベル18。お兄は今、レベル15でしょ?」
「残念。さっき、16に上がったとこ」
「げっ、ようやく追い離したと思ったのに」
「うーんでも、そろそろ上がんなくなると思うよ? あのあたりのオーガって、レベル20くらいまでしかいないってマサが言ってたし」
「じゃあ、次はこっち来る? 鬼系のはいないけど」
「鬼がいないんじゃ、俺には無理だよ。今もどうにか、特攻ダメージと鎧通しでどうにかしてるのに」
「あれ、お兄、格闘系のスキルとれたの? しかもあれって、拳術の派生スキルの中華拳術とらないと使えるようにならないんじゃ……」
「あっ……言っちゃった。今度、見せてやろうと思ってたのに。でも、みんなやってんじゃないの? MDF貫通してダメージ与える奴」
「なにそれ、お兄……」
梨沙の目つきがすごいことになってる。うちの兄妹、全員目つきがあまりよろしくないのだが、それに拍車をかけてすごいことになっている。
「あれ……梨沙、やってなかった? オーガと最初に戦ったときに、ほら。膝を爆発させてたじゃん? あれのこと」
「いや、あれはただの魔法スキルなんだけど。【ファイヤバレット】っていう。あれは、オーガに対して、威力が高すぎたから、あんな演出になっただけで、お兄の言う鎧通し? なんてのは使ってないし」
じとーっとした目で、俺に説いただす。
これは、ゲーマー界隈では常識だと思ったなんてことは口に出さない方がいいやつだろう。
でも、よく考えれば、膝に鎧通しはできなかったな……
「ほら、魔法スキルって発現するときの強度がって、隆が言ってただろ?」
「ああ、妨害されたり干渉されたりして、タイミングがずれたり暴発したりキャンセルされたりって話でしょ」
「強度で比べ合うってことはさ、モンスターの部位によっても強度が変わるわけじゃん。都合よく弱点なんてものがあるんだから」
「お兄、まさか、魔法の発現位置をピンポイントに弱点に当てるとかやってんの?」
「やってるけど……心臓とか脳みそとか直接切り裂いちゃうみたいな、残酷なことをしてますが」
「う……バカ。ご飯前に気持ち悪くなるようなこと言わないで」
「ごめんごめん」
「それで? 魔法の発生位置を弱点に重ねるとダメージが増量するの?」
「するする。外からダメージを当てたときの弱点攻撃より、増加割合は多いと思うよ。おまけに状態異常もかかるし」
「状態異常!? デバフ系の能力付きの魔法ってことじゃないんだよね」
「俺が使えるのは、光属性の斬撃を飛ばす魔法だけだよ。どうやら、攻撃した内部弱点によって、状態異常も変わるみたいなんだ。脳なら痛覚異常と思考力低下。心臓なら痛覚異常と流血過多、首つまりは頸椎なら流血過多と行動不能。丹田あたりだと痛覚異常に魔力漏出。眼球なら痛覚異常と暗闇状態。膝とか腱とかはどうやら内部弱点ではないみたいだね。赤黒いエフェクトだったし外部弱点攻撃だった。他はまだ、成功してないからわかってないけど」
「お兄……朝から、そんなことやってんの?」
「仕方ないだろう。これぐらいしないと、安心して倒せないんだから。おすすめは頸椎からの心臓のコンボだね。微妙にずれても失敗しちゃうから。思考力低下は幻術が利かなくなるし、動きがハチャメチャになって予想しずらくなるし。眼も止めといたほうがいい、少しずれると脳に当たるし、視覚をあんまり頼らずに認識できるっぽいし」
「お兄、ストップ。それ以上はいい」
「ん……ごめん。初心者がべらべら喋るもんじゃないか」
「いや、それはいいんだけどね。お母さんが、すごい目で見てるから……」
振り返れば、母さんがものすごい目で俺の方を見ていた。なんだろう、うん、かなり刺激的なことを言っていた自覚はある。
「ゲームの話だよ、母さん。現実でそんなこと考えてないし」
「わかってるわよ。母さんだって、昔はやってたのよ。昔はVRじゃなかったけど、パソコンの画面でヘッドショットとか。赤いエフェクトって言ってたでしょう。母さんの時は真っ赤な血が首から噴き出たんだから……はい、朝ご飯ね。スープも持ってくるから」
どうやら、あの目つきは俺たちをからかっていただけらしい。
そして、今日の朝ご飯はピザトースト。赤いケチャップ。
自分で話してはいたが、若干食べづらい。
梨沙の前にも出されたピザトーストを見て、梨沙はこちらを恨めしそうな目で見る。
続けて出されたのはミネストローネ。うん、すごい。
「鬼」
「いや、なんか違わない?」
「うっさい、鬼」
「ごめんって……」
そうして、若干気まずい空気の中朝食は進んだ。
ただまあ、こうして妹と話しながら食べるご飯は美味しかった。
「そうだ、お兄。さっきの話、あんまり人に言いふらさない方がいいよ」
「ふーん、マサにもダメか?」
「ダメ」
「どしてさ」
「そう言うのはさ、切り札に取っておくものなの。聞き出した私が言うのもなんだけど」
「そんなもんか」
「そんなもんよ、でもまあ、時間がたったら、他の誰かが騒ぎ始めるよ。それまでは、こっそり隠れて、ばんばか使ってればいいの」
「了解」
「今度、何か見つけたら教えてあげる。こういう情報は、ギブアンドテイク、等価交換って相場が決まってるの」
「なるほど、そう言う情報も切り札ってわけだな。何か美味しいネタがあったらよろしく」
「うん。そうだ、時間があったら、南の方に来なよ、今はハニーベアーで稼ぎ時だから」
「何か黄色そうだな」
「残念。真っ黒よ。そっちの方が蜂が寄ってくるから。ごちそうさまでした」
「時間があったらな。今は、始まりの町から遠いし。いったん死ぬか、次の町でポータルを開くかしないと戻らないとおもうし。ごちそうさまでした」
食べ終えた俺と梨沙は食器を流しに持っていく。
「幸」
「ん? どうしたの母さん」
「楽しくやってるみたいね」
「うん。自分でも驚くくらいに楽しんでるよ」
「長く楽しめるものだといいけど」
「飽きっぽいからね。でも、今はすごく楽しいよ」
「そう、ならよかったわ」
コハク LV.16(+1)
種族【座敷童】 職業【桃太郎LV.16】(+1)
HP 47(+2) +7 MP 47(+2)
ATK ― MAT ―
DEF 9(+0) +15 MDF 7(+0) +10
DEX 19(+1) +7 MND 18(+2) +2
AGI 18(+1) +7 LUK 26(+0) +8
スキル SP 1(+1)
【気配遮断LV.3】【縁結びLV.10】【健康祈願LV.3】【戦勝祈願LV.3】【交通安全LV.1】
【家内安全LV.1】
【鬼退治LV.10】(+4)【キビ団子LV.1】【トレジャーハントLV.10】
【鑑定LV.1】【隠密LV.1】【索敵LV.3】【採取LV.1】【命中LV.1】【回避LV.1】
【器用LV.1】【俊足LV.1】【幸運LV.1】【夜目LV.3】
装備
――略――




