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その瞳が映すのは、この手が抱きしめるのは。

作者: 雨月

登場人物の名前はあえて明記していません。

読者の方の自由な視点、解釈で読んで頂けたら幸いです。

よろしくお願い致します。

雨に濡れたあなたをあの時の私は抱きしめることができなかった。

雨に濡れて冷え切った身体を、一人では抱え切れないほどの傷を背負ったあなたを。

あなたの背中は私よりもずっと大きいはずなのに、あの時のあなたは私よりもずっと小さく見えた。

私はその小さな背中を護りたいのにあなたはそれを望んではくれないような気がして、胸が傷んだ。

あなたを護りたい気持ちは刃となって私自身を突き刺す。

「私はあのひとの代わりにはなれない」

分かってる。痛いほどに、私はあなたが大好きだから。

私はあのひとの隣で笑うあなたの笑顔が大好きだった。

あのひとだけに見せるあなたの笑顔が私には苦しくて、切なくて、眩しくてとても綺麗だった。


だから、あなたの心ごと置いていってしまったあのひとを私は許すことが出来ない。

私はあなたが欲しいのに、あなたはそうさせてくれないから私はとても苦しくなるんだ。

一緒にいるだけで鈍く胸が傷んだ。


あなたは私の身体を抱きしめた。

雨に濡れた頬はあなたが流した涙みたいで私はあなたの身体を強く抱きしめる。

雨に濡れたあなたの身体は冷たくて、私の感覚を鈍らせる。

あなたの体温が嬉しいはずなのに何故だか余計に苦しくて、私を締めつける。


「ああ、そうか。私はあなたにあのひとをずっと想っていて欲しかったんだ」

「私が大好きなのはあのひとを想い、焦がれるあなた」

「私が見つめていたのはあのひとの隣で笑う幸せなあなただったんだ」


だからそんな縋りつくような瞳を向けないで。

お願いだから。

そうすればきっと、私はもう一度あなたを抱きしめてしまう。

あのひとを想う傷だらけの背を、その瞳にあのひとを映すあなたを。

私の感覚が鈍る前に、戻れなくなるなる前にどうかその手を離して。


私が私を許せなくなる前にどうか。




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