門番さんのお仕事
習作
私の今の職場があるこの世界の話をしよう。
この世界は、かつての私が住んでいた日本のラノベによくあった『剣と魔法のファンタジー』な世界で、魔王や魔物もいればエルフやドワーフに獣人といった亜人種もいる、まさに定番通りのファンタジー世界だ。
外海へと新大陸を求め旅立って戻ってきた者は皆無な為、大陸は一つのみとされており、形は上がやや小ぶりなひょうたん型だ。
上の丸を魔王を頂点とした魔国が治めており、下の丸の右半分を人間達が治める帝国が、左半分を亜人達の国が集まった連邦が治めている。
そして私の職場は、上の丸と下の丸を繋げている、この世界の人が言う「橋」と呼ばれている地域を領地とする小さな王国、そこの王都で門番をしている。王国と言っても、大陸を分断するように作られた巨大な壁と、その中央付近にある直径10km程度の城壁に囲まれた城と町がある王都が一つあるだけの、他に目ぼしいところはないささやかな国である。
この王国がある地域は、「橋」と呼ばれるだけあって上から下へ、あるいは下から上へ行く為に必ず通るところから付いたのだが、魔族が他の種族と敵対していた為、魔族を滅ぼそうとする人間の軍勢と多種族を滅ぼそうとする魔族の軍勢が衝突する場となり、長らくこの地域一帯は酷いものだった。
だが、その惨状を変えようとする者達が現れた。帝国で召喚された異世界の勇者達だ。
彼は戦争に明け暮れる世界を憂い、ともに召喚された仲間達と共にまず魔国へ向かい、魔王を筆頭とした魔族全員を即座にしばき倒s………これ以上他種族と争わないよう説得(物理)してまわり、それが終わると帝国へ取って返し帝国軍と皇帝、および支配層の連中にも争いをやめるよう説得(物理)して回った。
皇帝が彼等の脅はk…説得に応じ、皇帝の名の元に魔国との停戦に合意すると、彼等はそれを見届けた後連邦へと赴き、国の方針を決めていた議会へと乗り込み停戦を求めた。
元々連邦は帝国と魔国との戦争に嫌気がさしていた者達が造ったという成り立ちもあってか、一部の戦争継続派を除いて停戦に合意した。(継続派はもちろん後に勇者達の熱心な説得()に遭い、方針転換した。)
しかし、今は三国とも停戦に合意してはもらえたものの、いずれ世代交代を重ねるごとに再び戦争へと世界が駆り立てられるのではないかと考えた勇者達は、長き戦争によって住む場所を無くし彷徨っていた民衆を引き連れて「橋」へと向かい、魔法を駆使したり異世界の知識を総動員するなど全員で協力して今の大陸を分断する壁と王国を建国、周囲一帯に不殺生結界(致命傷を負っても無傷の状態で結界外に弾き出される)を展開し初代国王に勇者が就任、外交によって三国に王国の存在と統治を認めさせた。
その後、勇者達は各々が出来る事をやり遂げ、一人また一人と寿命や病気等で旅立っていったが、150年ほどたった今でも彼等が遺したこの王国は平和の象徴として、三国間の商談や交流・交渉の場として栄えるまでになった。
そして、そんな平和な王国での私の門番としての仕事はというと、実に平和なものである。
三国から商機を求めてやってくる商人の方々に挨拶し、周囲の畑から自慢の野菜を売りにやってくる農民の方々に挨拶し、交渉にやってくる各国の重要人物達に挨拶をすることくらいだ。
「こんにちは。」
「こんにちは、門番さん!」
「今日も元気ですね商人さん。本日の御用は仕入れですか?」
「ええ。今日も稼ぐために頑張りますよ!」
「どうぞご無理だけはなさらないよう、お気をつけて。門から応援しておりますよ。」
「ありがとうございます、行ってきます!」
「こんにちは、おばあさん。」
「あぁ、門番さんこんにちはぁ~。」
「今日もいいお野菜がとれたみたいですね?」
「えぇえぇ、これも勇者様のおかげですじゃ。よければこれもらってくんせぇ。」
「おや、いいのですか?いい大根だ。後で美味しく頂かせてもらいますね。」
「こんにちは、門番さん。」
「おや、これは魔王様。本日いらっしゃるとは連絡を伺ってないですが?」
「あぁ、今日は私用でね。たまには息子と二人で買い物でもしようかと。」
「それはそれは。ありがとうございます。とすると、後ろにいらっしゃるのが?」
「息子です。ほら、挨拶しなさい。」
「いつも父がお世話になっております。」
「礼儀正しいお子さんですね。」
「ええ、自慢の息子です。」
…あぁ、今日も実に平和だ。
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とある父と息子の会話
「父上、なぜ門番風情にあのような態度を?」
「いいか息子よ、よく聞け。そして覚えておけ。あの門番だけは絶対に敵に回すな。」
「それは…なぜでしょうか?」
「あれは普段あのような抜けた顔をしてこそいるが、かの勇者達の仲間の唯一の生き残りだ。」
「なんと!?」
「あれ一人に儂や当時の四天王、近衛衆10万が鼻歌交じりに丁寧に叩き伏せられた。」
「…父上のお言葉、しかと胸に刻みます。」
「うむ。魔国の将来の為にも頼んだぞ。」
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