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9:森林の動物たち

 エゾリスだ。なんだろう、何匹もぽてんぽてんっと木から落ちてくる。

 エゾリスの生る木みたいになってるよ。果実自動修復機能付き。なーんて。


<冬毛になりきれていないな。夏毛で、さらに凍った木を登るための鋭い爪も生えていないから、生活しづらいのか>


 フェンリルが困ったように唸る。

 あっ、ちょっ、ビクッとしてまたリスたちが落ちていったよ!


「ク、クッション!」


 大慌てで言ってみると、小さな雪のクッションが宙にぷかぷかと現れて、エゾリスを拾った。

 ぽかんとエゾリスが動作ストップして、キョロキョロ辺りを見回す。

 同じような状態の仲間がいっぱい。

 えへへ、ビックリさせてごめんね。


「無事で良かった」


<エル様……素晴らしいです……が、前代未聞でどのように称えてよいのかわかりません……!>


<私のフォローをしてくれたのだな。エル、ありがとう>


 フェンリルが小さく喉を鳴らした。


<動物たちは、しばらく冬を経験していなかったので、上手く冬毛に変化できなくなっているようだな。

 あちらのフクロウは冬毛となり、木堀りで寝床を作って冬支度をしているが、エゾリスのように、適応できなかった者も多いだろう。この薄茶の短めの毛並みは夏のものだ>


 眉をぎゅっとひそめて、その顔は困ってるね?

 なんども同調したからかな、フェンリルの気持ちがよく分かるようになってきた。

 落ち込んでるね。


<フェンリル様に対して、対応が無礼ですよ>


 グレアがエゾリスたちに怒ると、エゾリスたちはパニックになりもがいて雪のクッションから落ちてしまった。

 ああーーーっ……!

 積もった新雪にエゾリスが落ちた跡がいくつもできあがる。ちょ、ちょっと面白いと思ったのは内緒。


「よし、エゾリスたちを雪のクッションで押し上げて……繋げて、大きなクッションに。というか綿雲雪のベッド? 枝分かれしてるとこに置いて、うん。お家になったね」


 エゾリスたちを帰してあげた。

 かまくらのように屋根もつけたから、しばらくあそこを巣にできるんじゃないかなぁ?


「もー、グレア。弱ってる生き物ってフェンリルの魔力を恐れてしまうんじゃなかったの? あのエゾリスたちは夏毛のまま冷気に当てられて、痩せているし、回復してないんじゃないかな」


<!>


 おーい、グレア。しまった、って顔に書いてあるよ?

 このユニコーン、フェンリルを慕うあまり周りが見えなくなるとみた。多分9割合ってる。


「新参者だから気づくことってあると思うの。前は当たり前に冬毛になってたんだろーね」


<……慰めはおよしください。俺の勉強不足です>


「単なる独り言よー」


 こういう対応の方が助かるんだよね。

 月一で会う清掃員のおばちゃんに、会社で何度かなぐさめてもらったなぁ。


 そんなことより目の前の景色の美しさをご覧よ、私!!!!!

 あっぶない、また色々思い出すとこだった。

 トラウマって根深いっていうからなぁ。気をつけよう。


<過去は変えられない。今いいことが起きているならば、それに集中して過ごした方が幸せな気持ちでいられる>


 ……あっ。フェンリルの優しい言葉。金言だね。

 私、また口に出してた?

 それともなんとなく、同調で察した?


<単なる独り言だ>


「やっぱり私、あなたのこと大好きだなぁ」


<んんんっ!>


 フェンリルが咳払いして、ブワッとダイヤモンドダストが舞う。

 わぁ、これは……!!


 すると魔力を与えられた周りの生き物たちが、すべて冬毛になっていた。


「すごいすごい! フェンリル、さすがー!」


<……ああ。どうってことないさ>


 フェンリルはクールに答えた。

 けど、耳と尻尾がパタパタしてるよ! えっなにそれ可愛いー!


<フェンリル様、素晴らしい魔法でした! 森の者たちに魔力を分け与えるお気遣い、なんと慈しみにあふれているのでしょう!>


 うわっぷ、グレアの耳と尻尾もパタパタ。

 体を揺らしたからたてがみが顔にかかったよー! 気持ちいいけど、息がしづらいって!


 フェンリルはまたしてもクールに頷いて、顔を逸らした。

 よっ、イケオオカミ!


 エゾリスの木から離れて歩いていく。


<フェンリルの魔力で包めば、動物たちは冬毛になるようだ。森林の他の場所も見て回ろうか。

 それが私にできる償いだ>


 フェンリルはそう言う。

 ……償いって。そんな言い方しなくても。

 五年間、冬を呼べなかった負い目があるのは理解できるけど。

 なんて言ってあげたらいいんだろう……。


 フェンリルの気持ちの変化のせいか、周囲の空気がパキパキと音を立てて凍っている。

 低空で小さなあられが降った。


 あっ。動物たちが、心配そうにフェンリルの様子を見てるよ。

 考えごとをしながら歩くフェンリルは、気づいてないみたい。


「……ねぇフェンリル。元気出して。みんな、あなたのことが好きだと思うよ」


<エル?>


「ほら見て! この輝く瞳ぃ!」


 ハイヨー、グレア! 手綱を引っ張った。

 ヒヒーン! といななきがこだまする。


<ふっ!>


 フェンリルが笑った。

 グレアの顔を覗き込むと、おおう! あんまりにもキラキラの目でフェンリルを眺めてるから、私までっ……だ、だめ、こらえて。無理。


「あははははは! グレアみてたら分かるでしょ? 償いじゃなくて、フェンリルはみんなの助けになってるんだと思うの」


<ありがとう>


 フェンリルの目元が和らぐ。

 穏やかな風がフェンリルを中心に起こり、拡散すると冬の花が咲き誇った。

 気分転換、できたみたい?

 やったね!


<明るい気持ちで魔法を使うとうまくいく。心がけよう>


「そうなんだ。私も心がけようっと。教えてくれてありがとう」


 フェンリルの鼻先が私をつつく。

 私は騎乗しているから、ついでに近づかれたグレアが幸せそうな顔になった。


 さあお散歩もといパトロールだね。

 こんなに心地いい流れなら大歓迎だよ。


読んで下さってありがとうございました!

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