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8:冬の森の視察へ

 山の頂で、綺麗な雪景色を眺めながら、ぼんやりと魔法を使った感覚を振り返って、しゃりっと果実を食べる。

 私が実らせた青い果実はクリスマスツリーの飾りみたいなメルヘンな見た目なんだけど、味は蜜がたっぷりのリンゴって感じかな。

 美味しい。


 フェンリルとグレアの食べる勢いもいい感じ!


「お礼を言ってもいいよー?」


 茶化してみると、


<ああ、ありがとう。エルのおかげで体に魔力が回り、とても調子がいい。喉が痛かったのが嘘みたいに治った>


 確かに、フェンリルの声が綺麗になったような気がする。

 ていうかなに、この果物はのど飴効果があるの?


<頭痛が治まりました。ユニコーンも驚くほどの治癒効果です……>


 こっちは頭痛薬! まじなの!


「万能リンゴ、みたいな? あはは」


 二人とも私と一緒に笑ってくれなーーい。そんな真顔で見ないでぇ。


<<とてもすごい>>


 褒められた。


「えっと、どういたしまして」


 むずむずしながらお礼を言ったら、私を基点にしてつむじ風が舞う。

 パウダースノーが巻き上げられる。うわ、うわわ!


<エルは冬に愛されているようだ。オマエの感情で冬までときめく。さすが私の愛娘>


「そんなに言われたら照れるよー……フェンリル。そういえば、フェンリルって種族名だよね? グレアみたいに、個人の名前はないの?」


<代々フェンリルという名を受けついでいる。フェンリルはその時代に一頭しか現れないので、これで問題ない>


「ふうん、そうなんだー……

 待って。私が半獣人になっちゃったから、フェンリルがいなくなっちゃうってこと!?」


 ヒュッと心臓が凍えた。

 私の感情が荒ぶったからか、足元がパキパキ凍り始める。


「いやだ、いなくならないで……!」


 驚くほど素直に言葉が出た。


<大丈夫、いなくならないよ。エルが色々と施してくれたから、体の調子がすっかり良くなったんだ。若返った気分だな。まだまだ生きる>


「ほ、本当?」


<こんなになついてくる愛娘を残して死ねるものか>


 フェンリルがふさふさの頬をすり寄せてきたので、埋もれて感触を堪能した。

 これ、もうこれに夢中なの。

 それに人柄も好きなの。

 たくさん優しくして、心を救ってくれたから。


「たくさん……なついていい……?」


 フェンリルを見上げながら聞く。


<んんっ! もちろんだ>


 咳払いして、フェンリルが答えてくれた。

 私が一番望む回答だった。

 どうしよう、嬉しいなぁ……。


 さわさわと撫でながらフェンリルにくっついていると、視界に、そわそわしているグレアが映る。

 ん?


「仲間に入りたい?」


<お戯れはおよし下さい>


 相変わらずそっけないね!


<フェンリル様、エル様。そろそろ森の見回りにまいりませんか? 冬が訪れて、森がどのように回復したか確認しましょう。

 森のものたちも驚いているでしょうから、言葉をかけて回りましょう>


<うーむ>


<フェンリル様?>


 フェンリルが唸っているけど、乗り気じゃない提案なのかな?


<このままエルを甘やかしていたいのだが>


 おーっと、親のワガママ! 私は嬉しいけど、グレアがめちゃくちゃ困ってるよ? なんかごめんね。


<しばらく仕事から遠ざけて、休ませてやりたいのだ。

 エルは冬を呼んでくれた。それでもう働きは十分なのではないだろうか?>


「……!!」


 ……ああ、そういうこと。

 フェンリル、私を気遣ってくれたんだねぇ。

 冬を呼ぶことを怖がってしまったから。

 つい、仕事を失敗するトラウマを思い出しちゃって……。


 確かに……仕事がなくて、のんびりとひたすらリンゴをかじるのは魅力的だよ。

 フェンリルの毛皮も超超超魅力的だしね!!

 でも、


「フェンリル。私、あなたが守ってきた森を見てみたいなぁ」


 こっちも楽しめそうだよ。大丈夫。ありがとう。


<行くか!!>


 フェンリルが立ち上がったぁ! 私の意見、即採用なの。

 うん、十分甘やかしてもらっていると思うよ。


「こんなに綺麗な景色を見るの、初めてだから……とっても癒されるしわくわくする。散歩してみたいって、えーと、本能が言ってる感じ?」


<そうか>


 フェンリルは満足そうに足踏みした。早く動きたそう。可愛いもんだなっ!


<視察を、散歩などと!>


 グレアはまた荒ぶっている。さっき頭痛が治ったんでしょー? 再発しない?

 一応、ツリーの実をひとつもいで持っていってあげようか。


「グレアに乗りたいなー」


 お願いすると、グレアはしぶしぶという感じで頭を下げてくれる。


 反対の手の真珠のブレスレットをグレアの首筋に押し当てる。

 えーと、感覚でイメージが大切なんだよね! おりゃ!


 真珠が変化して、純白の鞍と手綱になっていく。やったね!

 メリーゴーランドの装備をイメージしてみたんだよね。

 グレアに似合いそうな氷の装飾。でもこの氷は冷たくないんだ。ほんのり温かいという見た目詐欺。すごいでしょ?

 さりげなく、私の仕事鞄を変化させたものもここに取り付けた。


<なんっっっですかこれはぁ!?>


「私の特別鞍〜! やったぁー! グレアに乗りやすーい」


<エル様! 非常識が過ぎます!>


「あなたが許せる範囲の非常識……?」


 聞いてみた。これくらいならいい? って。

 だってグレアへの迷惑だから、認めてくれるなら問題ないし……というかグレア、私にがっしりしがみつかれて毛並みを乱されることもなく、背中があったかくなって良かったのでは?


<……この件だけですよ。許すのは>


 グレアは許してくれた。ありがとう。

 鞍はつけっぱなしでもいいみたいだ。

 そんなー、さすがに気になるでしょ? 私が乗らない時には、首に真珠が巻きつくだけにしておくね。きっとよく似合うよ。

 そんな効果をつけておいたらあとでグレアが白目になったのはまだ先の話。


<行こうか>


<お供いたします>


 私たちは山の頂から、勢い良く飛び降りて森に向かった!

 イイーーーーーヤッホゥーーーーー!!




 ***




 さくさくと雪を踏みしめながら前進する。

 ……なーんてことはない。

 ふわふわの細やかな雪の上は動きにくかったみたいで、フェンリルとグレアは足元に氷を出現させながら進んでいた。


<エルが呼んだ冬は規格外だな……>


<未知の雪ですね>


「うっ。ごめんなさい。これまでどんな風な冬だったか知らないから、私のイメージがおかしかったかも」


 望まれていた仕事ができなかったってことかな……。

 ううう、落ち込む。


<おかしいということはないさ。エルの感性は素敵だ。この雪の輝きの美しいこと。

 私たちはこれから慣れていけばいい>


 フェンリル、どこまでも優しいねぇ……。


<そうですね。ただ他の動物たちは混乱して困っているでしょうから、助言をしてあげないと>


「グレアは真面目だね。うん、私もなにか手伝えることがあれば頑張りたい。……ねぇ、大丈夫?」


<何がでしょうか?>


「いつのまにか心労が溜まりやすいタイプかなぁって」


 私みたいにボロボロになっちゃだめだよ、グレアが。

 真面目すぎる様子を見ていると、心配になっちゃうな……。

 嫌な経験を私自身がしたばかりだから、余計に。


<エル様にすでにたくさん心労をいただきましたが。……もがっ!? 何を、なさひまふ!?>


「癒されたらいいなぁ(物理)って」


 しゃべり途中のグレアの口にさっきのツリーの実を押し込んだ。

 相変わらずちくちくと話すね、君は。

 フェンリルが大笑いしている。


<おかげさまで癒されました!>


 ごくんと実を飲みこんだグレアが、ぷりぷりしながら言った。


「うんうん、せっかく綺麗な毛並みは健康に保ってあげなくちゃ。自分を大切にね」


 たてがみを撫でながら言うと、グレアはぶるっと震えて、静かになった。

 ふふんご覧あれ!

 かつて野良猫ハーレムを築いたほどの私の撫で技術ぅ! おらおらおらー!


 なーんてアホなことを考えながら撫でている私をスルーして、グレアとフェンリルが進む。

 歩調はゆっくり、周囲を見渡しながら。


 木の影からエゾリスが出てきた。というか、落ちてきた。




読んで下さってありがとうございました!

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