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53:毒草排除のお仕事2

(クリストファー視点)



 場所から場所への移動は、かなり馬をとばす。

 フェンリル様が先頭になり氷の道を作ってくれて、グレア様と僕が乗る氷の馬はそこをとても上手に駆けるので移動が早い。


 僕の目の前でプリンセスの白銀の髪がはねる。

 この光景を、きっと一生忘れられない。


 毒草があるポイントはそんなに多くない。


 緑妖精たちは、フェンリル様に嗅ぎつけられないようにかなり巧妙に隠していたらしい。

 このポイントに施されていた魔法陣は木のうろの中。

 入念さにため息が出る。


「──あ。ねこやなぎ」

「触れないようにお願いします」


 プリンセスがねこやなぎの柔らかい先端を指で触ろうとしたので、少しきつめの声が出た。

 彼女の耳が伏せてしまったのが、本当に死ぬほど心苦しいが……あのねこやなぎは、通常の種類とは様子が違うんだ。


 本来灰色のはずの雪山ねこやなぎは黒く染まっている。

 黒く小さなふさふさした実には毒々しさはなく、触りたくなる気持ちはちょっぴり分かるけれどね。


「おかしな変化をした毒樹木ですね。さて、どう対処しましょうか。あっ」


 ぴゅうっと強い風が吹いて、ねこやなぎがにゃーにゃー鳴きながら、コロコロ転がっていく。

 これはいけない。

 種子が雪の下に潜んでしまったら、また毒樹木が芽生えて土壌が汚れてしまう。


「トルネード」


 風魔法でつむじ風を発生させて、ねこやなぎをまとめて僕たちの近くに呼び寄せた。

 風の中でねこやなぎたちは、ギャーギャーと不満の声をあげていた。


「これ、毒があるんですよね……。……作り替えたら、何とか保護できませんか?」

「プリンセス。可能なのですか?」

「せっかく可愛らしいのになって思って。涙の真珠でなんとかなりそうな気がする」


 その発想が既に可愛くてとても尊い、ありがとうございます、心が洗われるようです。


「可愛いから助けるって浅ましいかな……」なんて落ち込んでいるプリンセスには励ましの言葉をかけるしかない。


「あの愛らしい見た目で、プリンセスの同情を勝ち取ったねこやなぎの勝ちだと思いますよ。有効活用できるのならば、そのようにしていいと思います。プリンセスの実力があってこそ、許される選択です」

「気持ちが楽になりました」


 ホッと息を吐く彼女の笑顔は、この世の宝だ間違いない。


「ねこやなぎの木の根本に、真珠を埋めて……魔力を流して」


 ねこやなぎの木が、透き通った氷と霜に包まれる。

 根から作り変わっているのだろう。


「転がったねこやなぎの実と、幹が、緑の魔力でつながっているみたいなんです。この元・緑の妖精が教えてくれました。だから、根本を清めればこの黒ねこやなぎたちにも変化が起こる予感がするんです」


 プリンセスは魔力供給をいったん止めて、はらはらと見守っている僕たちに丁寧に説明した。


「予感か……フェンリルの直感は重視してもいいぞ。エル」


 フェンリル様が教育をする。

 グレア様と僕はその言葉を、興味深く胸に刻んだ。


 黒ねこやなぎが変化する。


 雪の大地に似つかわしくない黒い長毛の毛並みをなびかせて(・・・・・)、どっしりとした猫科の生物となった。

 一番近いのは、黒いユキヒョウだろうか。


 ……僕たち全員の目が点になった。

 ……プリンセスも唖然としている。


 アイスブルーの瞳でプリンセスを見つめた黒ユキヒョウたちは、にゃーにゃーと鳴きながら、甘えるように彼女に頬ずりした。


「わ!? く、くすぐったい。あっ、ほんのり春の緑の匂いがするね。へぇー!」


 プリンセスは黒ユキヒョウに囲まれて、わちゃわちゃと戯れている。


 ……周囲は極寒の吹雪状態なんだけど?

 ……実害はないけど、雰囲気ブリザードというか、ね。


 ぎ、ぎ、ぎ、と横を向いてみると、おわああああフェンリル様とグレア様が無表情でプリンセスを眺めてるうううう怖い! 美しい! 怖い! 獣としての嫉妬ですね!?


 お二人ともプリンセスのことが大好きですからね。

 僕もですけど。

 あっ鼻血が。すみません。


「エル? その者たち、飼い馴らせそうか?」


 フェンリル様の声がいきなりとても優しいんだけどそれがかえってめちゃくちゃ怖い笑顔美しすぎて怖い……。

 黒ユキヒョウたちがぶわっと毛を逆立たせてプリンセスの上から退いた。

 正解だよ!! それ!! 命拾いしたぞ!!


「うん、フェンリル。このねこやなぎたち、雪山のガーディアンになってもらおうか」

「ふむ?」

「毒の植物が生えていると分かるみたいなの」


 フェンリル様が試験官のようにきびしく眺める中で、黒ユキヒョウは毒の植物を見事に探し当てると、全て食べてしまう。

 草食なんだねぇ、とプリンセスが驚いていた。


 皆様の獣耳がピクピクと動いて、獣の唸り声。

 ねこやなぎたちと会話をしていると分かる。


 僕は、雪山の動物と会話することができない。

 疎外感に少しいたたまれなくなりながら、じっと相談が終わるのを待った。


「クリストファーよ。この者たち、エルの涙を元にしただけあって、知能も高いし毒を好んで食べる有能さだ。緑の妖精が放った毒を食べて回ってくれるようだ」

「そうなのですか」


 僕たちが行う予定だった毒草回収を、この黒ユキヒョウが仕上げてくれるとフェンリル様が言った。


「エルは良い巡り合わせの運を持っているな」

「たまたまの変化だから、自分で調整したわけじゃないし……そんなに褒めてもらうと申し訳ないなぁ」

「運も実力のうち、ですよ!」


 プリンセスに向かって心からそう言う。

 ミシェーラもかなり運がいいから、あながち間違ってはいないと思う。


 実力がない者は、運が巡ってきても上手に活用できないものだ。

 思い通り以上の結果を得られたプリンセスは、すごい人なのだ。


 プリンセスが雪原にガーディアンたちを放った。

 それぞれ四方八方に駆けていく。その背には元・緑の妖精が乗っている。


 元主人に指示されていたとは言え、彼らも、自らの後始末をつけに行ったということだ。


「思いがけず時間ができたな。よかった。クリストファー、この後の予定はないと言っていたな?」

「間違いありません」


 フェンリル様に答える。


「では、山頂に向かおうか。実は、エルが作ってくれた氷の祭壇があるのだが、まだ王国の誰にも見せていない。せっかくオマエがやってきてくれたのだから、案内しよう」

「本当ですか! 光栄です!」


 雪山の頂きに、氷の祭壇。

 フェンリル様を崇め奉るのにこれほどふさわしい舞台もないだろう。

 しかもそれはプリンセスが作ったのだと聞いてなおさら感動する。


 フェンリル族お二人の共同作業か……。…………。チクリ、チクリと、胸が痛い。


「向かいましょうか」


 山の頂きへと風のように駆け上る。



1,118,794PV、12,000pt 超え、ありがとうございます!


皆様の応援がとても励みになります。

今後もよろしくお願いいたします。


終わりが見えてきましたが、クリスの語りが長いですね……山頂も大事な伏線なので、書かせてくださいね。


読んで下さってありがとうございます!

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