19:温泉の熱気大好き
全身が熱いお湯にとろりと包まれる感覚。
氷の装飾すらも溶けてしまいそう。
こ、これは……!
<エル様!>
<レヴィ、やめろ!>
「気持ちいいぃ〜〜」
<<はっ!?>>
うっとりと温泉の熱を味わっていると、フェンリルとグレアの鋭い声が聞こえてきた。
それすらもとろけるような心地よさ。
骨抜きにされそう。
<うそ……あなた……わたくしの抱擁が平気なのかしら?>
「あっ!」
離れないでぇ! あの熱気が名残惜しいよぉ〜!
少し距離を空けられたんだけど、私から踏み出してまた抱きついてしまった。
やばい成分でも入っているのかと思うくらいこのお湯はやばい。語彙力はとっくに溶けた。
<嬉しい>
湯の乙女レヴィはひしっと抱きしめ返してくれる。
ああああこれこれえええあったかーい。
「至福ぅ」
<そ、そうなのか? エルよ……>
フェンリルの心配した声が聞こえたので、さすがにそちらを向いた。
「うん。温泉って大好き」
ビシッとグッジョブサインを送る!! 安心してね。あ、グレアが白目剥いてる。
<まあ! わたくしもあなたが大好きになったわ>
レヴィはすがるように抱きついてくる。
……彼女が顔を乗せている肩のあたりが、とくに熱い。あっこれはけっこうきつい。……泣いてる? ぷるぷるとレヴィを構成するお湯が揺らいでいる。
フェンリルが息を吐いて、冷風が私の髪を揺らした。
ほてった頭がいい感じに涼しくなったよ。ありがとう。
<エル。見ての通り、湯の乙女レヴィは特別さみしがりやだ。しかしあまりに熱いので、冬の動物たちは彼女の抱擁を避ける。冬にも夏にも熱すぎるんだ>
「そうなの?」
<普通ならば冬毛の魔法がレヴィのお湯に溶けてしまう>
なんだと!?
自分の体を見てみると、おおう! ミニスカの裾とかマントとか、一部装飾が溶けてしまってる。つまりいつもより露出が……うわ……もじもじと隠す。
いい年をして乙女みたいな仕草になっちゃったけど、これは恥ずかしいって!
<毛皮がないと貧相に見えますのに、お気の毒ですね>
グレアの小声が聞こえてるんだけどー!?
アレか、獣にとっては「衣装(毛皮)が溶ける=素肌を晒す(皮剥済み生肉)」みたいな価値観なの!?
予想外が過ぎて、羞恥心がふっとんだわ!
もはやまるで照れないわ!
見られようがギャラリーは獣なので堂々と立った。
<ああ、溶かし過ぎちゃった……わたくしったらいつもこうなの。でも……離れ難いわ>
すりすりと乙女の頬ずり。あったかい。
私も離れ難いんだよね。
そうだ、物は試しに!
「衣装チェンジ! 水着スタイル」
頑丈な競泳用水着をイメージしてみたよ。どうだ! 異世界の常識よ! これが日本式だよ!
<……溶けない!?>
「やったね」
湯の乙女レヴィが唖然としている。私の発想の大勝利。
「これならくっついていても大丈夫だね。ねぇ、温泉に入りたいなぁ」
<そうなの!? いいわよ!>
レヴィはぱああっと華やかな笑顔になって、私の手を握りぶんぶんと振る。
<よろしくね、よろしくねっ>
反応が可愛らしいなぁ。
最初のツンケンした様子はもう感じられない。
<おいでなさいませ、冬姫様>
レヴィに手を引かれて、ちゃぽんとオレンジ色の温泉に肩まで浸かる。
ふぅぅ〜最高!
「……しまった、なにかここで問題が起きているんだったよね!? フェンリル!」
<ああ。問題が起きていた。しかしエルが大半を解決してくれたな>
え?
フェンリルに褒められた? どこを?
フェンリルがダーンと足を踏み鳴らす。
茶色の地面を晒していた部分に、白い雪が高く積もった。
さみしさをなんとかする(レヴィを落ち着かせる)のがまず第一目標だったのですね。カッカしやすいから