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15:保護者たちの心配

(フェンリル視点)



 ため息をつく。

 さっきまで、私にちょこまかとついてきていたエルはそれは楽しげな表情だったのに。

 今日一日、連れ回したが、嫌がることはなく、ずっと明るくはしゃいでいた。

 気力が回復したことが喜ばしく、フェンリルとしての仕事にも適応できそうだと安心していたのだが……


<トラウマは根深いな>


「相当傷ついたようですね。その、カイシャというところで」


<腹立たしい>


 エルの手に収まる機械、スマホを睨む。

 その先にいるであろうカイシャを。

 おっと、私はさすがに長年生きているから、怒りで周囲を凍らせることはない。


「ふとした時に思い出すのでしょう。辛かった時の記憶を。自分の今が満ち足りたものであれば、乗り越えられるかもしれませんが、エル様には自信が足りないんだと思います」


<……グレア自身の経験か>


「恥ずかしながら」


 眉を顰めて苦笑している。

 まあ、声をかけようか迷ったが、グレアの物言いからして、彼は乗り越えているんだろう。


<オマエの治癒術は素晴らしいよ>


「光栄です!!!!!!」


 お、おう。機嫌が直った。

 あまりにキラキラした目で見られるので、少し引いてしまう。悪い気分ではないが、こう、押されるというか……。

 ああ、こらこら、手から魔力を通しすぎてエルが呻いているではないか。

 落ち着け。


<実の親の問題も難しい。エルを責めるものではなく、慈しみを感じた。しかしカイシャを思い出させる>


「そうですねぇ……」


 ピンと立っていたグレアの耳が伏せて、顔を顰めてスマホを眺める。


「取り上げるのも酷、というのがまた。エル様はスマホに執着していますから。しかしこれがあると、前の生活を完全に忘れることはできないでしょう」


<もう少し、グレアの意見を聞かせてくれるか?>


 つまりグレアは親とどのように決別してここにきたのか、ということだが。

 フェンリルの補佐となったユニコーンは、故郷からずっと離れることになるのだ。


「俺の親は優秀な白銀のユニコーンでしたから、紫のタテガミのユニコーンなど愛しませんでしたよ。ですので俺は親に執着などなく。エル様の参考にはなれないですね」


 んん……! グレアの「申し訳ございません」という言葉で、逆にこちらが申し訳なくなるな。

 本人がけろっとしているので、今更思い悩んではいないのだろうが。

 むしろ私が作り出した雪に包まれて幸福そうだ。

 フェンリルの毛皮に直接触れてしまうと、時には魔力が浸透しすぎて体調を崩すこともあるので、グレアの背には雪のイスがある。


 幸福そう、か。

 まあ、愛情のおすそわけみたいなものを感じて楽しんでいるならば、それもいいか。


「極論。エル様の記憶を消しますか?」


<こらこら>


 ユニコーンはそのような芸当もできる。

 こいつ、思ったより過激派だな。


<やはり、ゆっくり癒すのがいいだろう。

 時間はたっぷりある。

 フェンリルと同調し、エルは寿命も延びているだろう。

 その間、エルは見事な魔法を使い、周囲に認められてゆくはずだ。間違いない。たまにはしゃいだり泣いたりするが、とても優しい子だ。

 評価が自信となり、辛い過去を乗り越えられるといいな……」


<完璧にサポートいたします>


「頼んだ。しかし、オマエは少し肩の力を抜け。たまにエルに対して厳しすぎる」


 ん? (フェンリル様が甘すぎるのでは?)という視線を感じるが……。

「気をつけます」と言ったので、期待しておこう。


 少し、沈黙が訪れる。

 聞きたいことは多分、二人とも同じだ。


「<……ふじおかノエル……>」


 声が被った。

 や、やめろ。そんな嬉しそうな顔で見るな。


<私は、エルの魂の三分の一をもらったと思っていた。それだけで死にかけのフェンリルがこんなに回復したのだから、恐ろしい魔力量だ……と。

 しかし、なんだ? 正式な名前は七文字なのか?

 ……エルの潜在能力はどれほどだというのだろう!?>


「魔法を使いなれない異世界人で、あれだけの素晴らしい冬を呼んでみせたのですから、もっと疑問を持っても良かったですねぇ……」


<異世界なのだからファミリーネームがないのかと思い込んでいた。意図的に真名を知らせなかったのだろうか?>


「エル様は馬鹿正直……失礼。とても素直でいらっしゃるので、それはないでしょう。たまたま名乗り忘れたのでは? おっちょこちょいですし」


<それは……まあ……ありえるなぁ>


 おっちょこちょい、か。うん。ウッカリというのも多いな。それもまた可愛らしい所なのだが。


「力があるのは良いことです。よりたくさんのことができる」


<エルならば力の使い方を間違えることもないだろうしな>


「先ほど、フェンリル様の毛を凍らしていましたけどね!?」


<そう怒るな。氷耐性があるフェンリルの毛を凍らせるなど……エルはやはりとんでもないな。

 感情の制御は、まだまだこれから覚えていくだろうさ>


「どのように教育いたしましょうか……」


<ともに成長すればよいのでは? グレアも感情制御はまだまだだと思うが>


「ぐっ……精進いたします……っ!」


 歯を噛み締めて悔しそうにしている。


<期待している>


「はい!!!!」


 ぱあっと笑顔になる。

 ふふふ、子どもが二人のようだ。


 向上心があるので、グレアは将来きっと完璧な補佐ユニコーンとなるだろう。

 エルを支えてやってほしい。


<明日はどうやって過ごそうか>


「エル様は森の散策をとても楽しんでいたようですから、それでもいいのでは、と思います。

 気分転換になるでしょう。

 あとは、よく寝てよく食べ、よく遊び愛情に感謝することです。

 フェンリル様の教えはとても素晴らしいです!」


 こらこら、最後が改変されているぞ。


<そうしようか。では、今宵はそこで眠れ。グレア。相談にのってもらった礼だ>


「!?!?よろしいのですか!?!?」


<あ、ああ>


「光栄です!!」


 エルを癒やしてやってくれ、と言いたかったがやめておく。張り切りすぎそうだ。


<明日の早朝に起こすぞ。おやすみ>


 おやすみなさいませ、と言って、グレアはすぐに寝息を立て始めた。

 彼なりに気を張り、疲れていたのだろう。

 私も眠ろう。

 心地よい眠りとなった。



読んで下さってありがとうございました!

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