第8章 2018年9月11日午後8時~9月14日
俺はもう何のためにbocketのボケを書いているのか分からない。
高加良と相沢さんに送るボケは適当に作ってすませた。
佐倉さんに送るボケが作れない。
どうせ他人が送った匿名のボケが選ばれて、佐倉さんが辱められるんだろう。
俺が書くことに何の意味がある?
自宅の部屋の中で、机にスマホを放り投げて、ベッドに横になって、考えは進まないのに義務感を捨てきれなくて1時間うだうだ悩んでいる。天井のシミは数え尽くした。
そのときスマホが鳴った。
誰だ? こんなときに……
起き上がってスマホを見たら、佐倉さんからのStringだった。
何があった?
楠木君に送るボケを書こうとしたら、
単語が一種類しか出てこなくて、
「神様と通話をする」
としか作れなくて、
キャンセルもできなかったんです。
神様って、
前に高加良君が言ってた
あの噂の神様でしょうか?
佐倉さんに責任を感じさせてはいけない。
佐倉さん、落ち着こう。
高加良が言ってたのは噂だし
佐倉さんは「ウケた」が少ないから
きっと他の人のボケが選ばれる
今回ばかりは佐倉さんが弱くて助かったよ
神様からの電話は来ないでしょうか?
そう。来ないよ。
安心しました。
俺の言葉は嘘だ。
こういうときに限って佐倉さんのボケが選ばれるだろう。俺には神様からの電話がかかってきて、全てのボケが匿名扱いになって呪いが降りかかる。bocketはそんな悪意の塊だ。それはbocketが悪い。佐倉さんは悪くない。
俺は気持ちがいったん落ち着いて、佐倉さんに匿名のボケを送った。「満点のテストに名前を書き忘れた」という、このときだけはなぜか優しいボケが作れた。
翌朝、スマホを手に取ってbocketを開いた。
神様と通話をする
そのボケは匿名だと書かれていた。
学校に行って、まず高加良に見せた。高加良はしばらく考え込んだ。
「楠木に来るとはなあ」
「俺、どうしたら良いと思う?」
高加良は少し間を置いて、ゆっくりと話し始めた。
「ヒーローっていうのは、こういうときに笑える奴なんだと思う。俺にはもうできない。俺にできないことを、楠木に『やれ』なんて言えない。楠木は、できることをすれば良いと思う」
「まあ、相手は神様だもんな」
「おそらく、bocketを作った張本人、だからなあ」
「きっと相当ひどい奴だろうからなあ」
高加良は答えなかった。
相沢さんにはStringでスクショを送った。3分で返事が返ってきた。
本当に運がないのね。
初めてあなたに同情するわ
日頃から同情して欲しいんだけどな。まあ、そんな相沢さんが同情するほどひどい話だ。
それで終わらせた、つもりだった。
給食を食べて、昼休みはふて寝でもしようかと思っていたとき、教室がざわめいた。
佐倉さんが俺の教室に入ってきた。少し慌てた表情で。
どうして?
佐倉さんは俺の横に来た。口を開こうとして、周囲に人がいることに気づいたようで、慎重に言葉を選んだ。
「内容は言えませんけど、私が送ったボケが楠木君に届いたですよね?」
俺は否定するそぶりで手を振った。
「そんなの嘘だよ。気にすることないから」
「私のことを考えてくれるのはうれしいです。でも、嘘は言わないでください。相沢さんから聞きました」
相沢さんが考えたことは分かる。一蓮托生のグループメンバーに起きた重大事だから、情報を共有しておきたいんだろう。
でも、本人には言わないで欲しかったな。
「佐倉さん、他の単語を選べなかったんでしょ? キャンセルもできなかったんでしょ? 佐倉さんは悪くない。全部bocketが仕組んだことだから」
「でも、楠木君のことが心配です」
佐倉さんは泣きかけていた。
「大丈夫だよ。俺、こう見えても男だし」
「男でも勝てない相手だと思います」
「bocketで死にはしない。ただ恥ずかしいだけだから。耐えればいいんだよ」
「楠木君が……かわいそうです……」
「心配してくれて、ありがとう」
言葉も途切れ途切れになった佐倉さんを、俺は佐倉さんの教室まで送った。
学校が終わるまで何もなかった。今日はもう皆で話し合う気にもならず、俺たちは各々で家に帰った。夕食を食べて風呂に入ったら、俺は部屋に閉じこもった。スマホはACアダプタをつけないままにしておいた。でも、きっとバッテリーがなくなることはないんだろう。それがbocketだ。
午後の11時30分を過ぎた。まだ電話は来ない。
もしかして、このまま逃げ切れるだろうか。今日は何もなくてすむんじゃないだろうか。
そうだ。きっと何も無いんだ。
55分を過ぎて、スマホが鳴りだした。
画面には受話器のマークが表示されていたが、電話アプリのデザインではなかった。bocketのデザインだ。そう分かった。相手の名は、非通知。
bocketは見逃してはくれなかった。
俺は電話を受けた。
「どちら様ですか?」
「私に名乗らせる気かい?」
相手は男の低い声で、横柄で嘲笑が混じっていた。
「名乗りもせずに電話をかける人とは話したくないです」
「bocketで伝えておいたはずだがな」
やはり神様だった。
俺は何を話せばいいのか分からず黙った。
すると向こうは実に横柄に話しかけた。
「bocketを楽しんでくれているかね? bocketを始めてから、笑いが絶えない毎日だろう。実に喜ばしいことじゃないか」
喜ばしい?
どこが!
ギャグマンガは現実でないと分かっているから楽しめるんだ。現実にやりたくもないギャグに巻き込まれたら、人は笑うに笑えないんだ。
ここで何を言えばいい?
そのとき、高加良がまだ元気だったときの言葉が思い浮かんだ。
こういうときは、笑えばいいと思うよ。
もう人の心は持ってない。それは楠木も分かってるだろ。
そんな人でない存在にやり返すことはできないんだ。
だったら同じレベルに降りちゃダメだ。
そうだ。何をするべきか分かった。相手は一番の人でなしなんだから。
アハハ
アッハッハ
アハハハハハハ
俺は笑った。電話の相手に聞こえるくらい大きな声で。部屋の外に声が漏れて父さん母さんが不審に思うことなんて気にしない。疲れても、腹の底から声を振り絞る。笑って、笑って、笑う。
「何がおかしい?」
電話の向こうでいらだたしげに問う声がした。
「だって、あんなアプリで人々が笑えるだなんて信じ込んでいるのか? みんな巻き込まれて、苦しんでるのに、それを笑ってみていられる、あんたが一番の笑いものだ」
「神に向かって何という口の利き方だ」
相手の声は怒気を含んでいた。
「へぇ。笑われたら名乗るんだ。自分で神様と名乗るのって、恥ずかしくないの。おっかしいや」
アハハ
アハハハ
アッハッハ
「自分が笑っていられる立場だと思っているのか?」
弱い者をいたぶることに慣れきった奴の、脅せば震え上がると高をくくった台詞。
ここで負けたら終わりだ。
「笑いが絶えないことを喜んだのはあんたじゃないか。笑われて何が悪い?」
無言の中に相手のいらだちが伝わる。
「どうなっても知らないからな!」
頭に血が上った捨て台詞を吐いて、相手は電話を切った。そのとき日付が変わった。
先の憂いはある。
でも、これだけ笑ったのは久しぶりだ。
今までの鬱憤、みんな晴らしてやった。
勝ち誇った気分を失いたくなくて、俺はうだうだ考える前に寝ることにした。
翌朝にbocketを見たら8件ボケが届いていた。全部匿名。いつもより多い。俺を攻撃するボケが選別されず全部表に出たのだろう。
まず、母さんは「私がやってあげるから」と俺の朝食のパンにマーガリンではなくマスタードを塗りたくった。
「ハイッ」
と手渡す母さんの顔は慈悲に満ちていて、俺は全て食べざるを得なかった。俺がむせると「子どもねぇ」と笑う母さんに怒りを覚えたが、しょうがない、悪いのはbocketだ。
1時間目の体育では
「おーい、そっち行ったぞ」
サッカーでボールを持っている奴がなぜか俺に突進。
ドシン。
勢いよくぶつかり、しかも運悪く俺の短パンに引っかかって、俺のトランクスが丸出し。
「また見ちゃったよ、楠木のトランクス」
俺だって見せたくないわ。
替えはないから、あとは制服のズボンを履いて見学していた。
3時間目の英語では俺の教科書だけ誤植があった。
「titって何ですか?」
朗読中に分からない単語があったから質問したら、教師にすげぇ睨まれて、一部の頭が良い生徒に笑われた。「乳首」という意味らしい。
4時間目の古文ではプリントが回ってきたが、俺のだけ字がおかしい。
「先生、このプリント、読めません」
「それはくずし字だ。昔の手紙などは形を崩した字で書かれていた」
「そんなの授業でやるんですか?」
「これは古文の授業だぞ。読めなくてどうする。嫌がるようなら成績下げるぞ」
「他のみんなは現代の字じゃないですか!」
俺の抗議は無視され、俺の古文の成績は最低ランクになることが確定した。
こうなると周囲も気づく。みんな、bocketで現実になるボケは1つだけだと思っている。一日に何度もおかしなことがあると、bocketではないと考えてしまう。特にtitの件があったから、
「楠木が狂った」
という噂が校内を駆け巡った。
それを間近で見ていた高加良は、一つも笑わなかった。
昼休みに高加良が俺に声をかけた。
「楠木は、俺から見て、よくやってると思う」
「自尊心は削られるけどな。今日の分もまだ終わってないし、これが続くと思うとつらいよ」
高加良は少し悩んだ様子で言葉を選んだ。
「こういうこというと、負担になるかもしれないけど、楠木なら俺にできなかったことをやってくれるんじゃないかなと思ってる」
「高加良、一つ聞くけど、おまえ、今日、俺にボケを送ってないだろ? 相沢さんにも手を回したんじゃないか? おまえはそういうところに気を遣うから」
高加良は一つ、こくん、とうなずいた。
これからどうするか話し合うために、もう一度四人で集まろうという話になった。ただ、気がかりなことに、佐倉さんからの返事がない。俺が直接Stringで送っても既読スルー。授業が終わったとき、佐倉さんの教室に直接出向くことにした。教室の前で、相沢さんに会った。
「相沢さん、どうしたの?」
「ちょっと気になることがあって」
「佐倉さんのこと?」
「直接確認する方が早いわ」
俺と相沢さんが教室の扉を開けると、中には、絶世の美少女がいた。
それは佐倉さんだった。
もとの顔の良さに、心の凍りつきも、憂いもなく、穏やかな人格が表に出た、とても人好きをする表情をしていた。
佐倉さんが心ある表情をしているのは、とてもうれしい。でも、なぜ今このタイミングなんだ?
「佐倉さん」
佐倉さんは呼びかけに応じない。淡々と鞄に物を詰めて帰る準備をしている。
「これからのことを話したいから、今日も集まろうよ」
佐倉さんは呼びかけに応じない。鞄を持って帰ろうとする。
「佐倉さん、ちょっと待って!」
佐倉さんは俺たちの横を無言で通り過ぎようとした。
相沢さんが佐倉さんの左腕をがしっとつかむ。佐倉さんが驚いて相沢さんを見る。強引だったけど、男の俺がやったら痴漢扱いされるところだから、相沢さんがいてよかった。
佐倉さんが驚いて相沢さんを見た。
「何するんですか、急に」
相沢さんは佐倉さんを真正面から見据えた。
「佐倉さん、私たちのこと、覚えてる?」
え? どういうこと?
佐倉さんはとても自然に怪訝な表情を見せた。
「同級生だから知ってますけど、別に友達でもないですし、詳しくは知りません。あ、隣の楠木君はおかしくなったって噂になってましたね」
「どうして俺のこと知らないの?」
思わず口に出た。
「知らない、ちょっと変な男の子に声をかけられたら、そりゃあ無視しますよ」
佐倉さんは少し冷ややかに言い切った。
「なんで知らないの?」
「bocketに頭をいじられてるわね」
相沢さんの一言が、俺から思考を奪った。
なんだよ、それ。
知らないところから歩み寄って、誤解を解いて、仲良くなったのに、bocketに記憶を改変されて忘れた?
神様、あんた、何様だよ。
「相沢さん、頭をいじられたとか、そんな言い方、ひどいです。失礼な人とは関わりたくありません」
佐倉さんが相沢さんの手を振り払った。相沢さんもそれを許した。相沢さんは、もう佐倉さんとのつながりは切れたと思ったのだろう。佐倉さんが俺たちの横から立ち去る。
ちょっと待って!
追いかけようとしたとき、俺の右足の上履きが上下に裂けて、俺は派手にすっころんだ。
その音に振り向いた佐倉さんの顔が自然と緩む。
「プッ。プッ。アハハ。ごめんなさい、笑って。でも、楠木君、本当にそそっかしいんですね」
ちょっとそそっかしい人を見たときに、人なら自然と出てくる笑顔が、佐倉さんから出ていた。
俺は佐倉さんにそんな風に笑っていて欲しかった。俺の夢は叶った。bocketの暴力によって。
俺は佐倉さんを追いかける気力をなくした。
「そうだね。俺、馬鹿だよね」
俺は失敗して恥ずかしい男を演じた。佐倉さんはそれを見て笑い、笑い終わると前を向いて、俺たちのもとを去った。
終わった。俺は立ち上がれない。
転んだままの俺の右腕を相沢さんが引き上げた。
「なに倒れたままでいるの。起き上がりなさい。まだ事はまだ終わっていないんだから」
俺たちは三人で児童公園に行き、もう俺にはボケを送らないことと、守る相手がいなくなった俺はもうボケを送らないことを確認した。
俺は、佐倉さんと切り離され、高加良と相沢さんからも離れて、一人になった。
帰り道では、まず、よろけてぶつかった壁が偶然にペンキ塗り立てで顔と制服がペンキまみれになった。次にキャッチセールスに絡まれ1時間逃がしてもらえなかった。ペンキまみれの中学生の何がいいと思ったんだろう。最後に道を歩いていたおばさんに痴漢扱いされて交番に連れて行かれて誤解を解くのに3時間かかり親に迎えに来てもらう羽目になった。
散々だった。その一言しか出ない。
夕食を食べて風呂に入って(ペンキがなかなか落ちないんだ)、自分の部屋に閉じこもった。
これから、これと同じことが毎日続くと思うと、今にも心が折れそうだった。こんなときは楽しいことを思い浮かべるに限ると、女の子と付き合う妄想をしたら、妄想の中の女の子は当然に佐倉さんの顔をしていて、bocketの暴力を思い出してさらに深く落ち込んでしまった。
何もかもが嫌になったとき、机に上に放り投げていたスマホが鳴った。人づきあいは義務だからと渋々スマホを手に取ると、非通知の相手からの電話だった。
俺は怒りにまかせて電話を取った。
俺が黙っていると、相手はあの横柄な態度で話しかけてきた。
「どうなっても知らないと言ったはずだ。これでもまだ私を敬う気はないのかね?」
敬う?
どこを敬えと?
怒りにまかせて声を上げそうになったとき、今まで俺と一緒に耐えてくれた三人の顔が脳裏に浮かんだ。
ここで投げ出しては、ダメだ。
「いやあ、笑ってますよ。大笑いですよ。世界を動かせる神様が、こんなに品がないとは思いませんでしたよ」
「品がないとは失礼な言い方だな。私は人々に笑いをもたらしたんだよ」
「そうですよ。あなた自身が一番笑える芸人ですよ」
そりゃあ怒っている。でも、怒っても始まらない。だから笑うんだ。
自分が信じた笑いをおとしめられた男の子がいた。
そんな男の子を信じるしかない寄る辺ない女の子がいた。
そして信じた男の子の記憶を消された女の子がいた。
そんな皆の希望をへし折った奴は、世の中で一番、笑われるべきだ。
笑ってやる。笑い飛ばしてやる……
「私は君が好きな女の子を苦しみから解放したんだがね。君は無力で、私は万能なのだ」
俺の笑いが止まった。
俺が心をくだいて、それでも心を表に出すのをためらっていた佐倉さんは、一夜にして心を豊かに出せる人間になった。
俺では佐倉さんを幸せにするには力が足りなかったのか?
自分がちっぽけに見えたそのとき、いじめっ子に辱められて泣いた佐倉さんが、それでも俺と一緒にいたいと言ってくれたことを思い出した。
人が人を選ぶのは、力だけじゃない。
俺は、立ち向かえる。
「そうやって人を自己嫌悪に陥らせるのがあんたの手だろ? 自分を信じられなくすれば奴隷になると分かっててやってるんだろ? 記憶を変えられる前の佐倉さんは、俺と一緒にいたいと言ってくれた。俺は信じられていた。俺は小さいけど、あんたが言うような劣った存在じゃない。そんなことを信じ込ませる言葉は聞いちゃいけないんだ。
人は、どんなに苦しいときだって、笑いを奪われてはいけないんだ」
アハハ
アハハハ
俺は再び笑った。なけなしの気力を振り絞って。
「笑いで何かを変えられると思っているのか?」
相手のあしらうような声。傲慢さに満ちている。それでもいい。
「変えられない。でも立ち向かえる」
悲劇に最後に立ち向かうものは、笑いなんだ。
電話が、プツン、と切れた。
俺は気力を使い果たした。眠らなきゃ……
気がつくと窓の外は既に明るく、俺は床に倒れていた。朝食を食べる気も起きない。寝癖を直さずに出ようとしたら母さんに止められた。家を出ても、世の中が全て暗く見えた。
スマホなんて見る気がしなかった。どうせ全て現実になるのだ。
しかし、どうしてだ、学校の中は光に満ちている。生徒たちが活気にあふれている。高加良も、以前の明るい表情を半分ぐらい取り戻している。祝祭という言葉が頭に浮かんだ。何かがおかしい。
こういうとき、高加良にものを尋ねるのはしんどい。他の奴に声をかけよう。俺は席を立って男子に話しかけた。
「みんな楽しそうだけど、なにかあったのか?」
相手は馬鹿を見下すような態度を見せた。
「おまえ、知らねぇの? bocketが止まったんだよ。スマホ見てねぇのか?」
スマホを取り出してドロワーを見たらbocketはあった。騙されたくないとbocketを開く。
現在、通信できません。
そう一言表示されていた。
その瞬間、床が俺の尻にぶつかった。みんなの顔が俺の上にあった。
驚くと、本当に腰が抜けるんだな。
「……と言うわけだ」
昼休み、俺は高加良と相沢さんに、2日間の電話の内容を伝えた。
「楠木は俺にできなかったことをやってくれたよ。楠木が友達でよかった」
高加良は俺を褒めちぎった。
「あんたにしては上出来ね」
相沢さんは微妙な表現で俺を初めて褒めた。
うれしそうな高加良に対して、呆れた様子を見せているのは相沢さんだ。
「しっかし神様もわがままなものね。人を散々笑いのネタにしておいて、自分が笑われたらへそを曲げちゃうなんてね」
高加良は、それに同意しなかった。
「案外、神様は本当に人々に笑って欲しかったんじゃないのかな。それで、きちんと笑ってくれる人間がいるのを見て、満足してbocketを止めたんだよ」
「あれで人々が笑えると思ったわけ?」
「そのくらい悪趣味じゃなきゃ、bocketなんて作らないさ」
高加良の言葉に、俺と相沢さんは深くうなずいた。
そこに佐倉さんはいなかった。